詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

自民党憲法改正草案再読(6)

2021-07-05 10:44:51 |  自民党改憲草案再読

自民党憲法改正草案再読(6)

 「戦争の放棄」は、どう変えられるのか。

(現行憲法)
第二章 戦争の放棄
第9条
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
(改正草案)
第二章安全保障
第9条(平和主義)
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

 一項目目の大きな違いは「放棄する」の位置である。現行憲法は、それまでに書かれていることのすべてを「放棄する」。しかし、改憲草案は「国権の発動としての戦争」を放棄するが、その他の行為は放棄しない。「国権の発動」ではない戦争の場合は、それを「放棄しない」と読むことができる。つまり「2」にあるように「自衛権の発動」としての戦争は「放棄しない」。
 この条文の「主語」は、現行憲法では「1」「2」とも「日本国民」である。「戦争を放棄するという目的を達成するために」、日本国民は軍隊を「保持しない」、国が交戦権を発動することを「認めない」。
 だが、改憲草案の「2」の主語はだれなのか。「前項の規定は」とあるから、それはあくまで「法解釈」なのである。「論理」があるだけで、主語は不在。こういう文体には気をつけないといけない。「論理」はいつでも「自己完結」できる。つまり、「異物」を排除して、自己を守ろうとする。この「2」では、「国民」は排除されている。国民の意志は、自衛権の発動に関して、反映されない。「自衛権」を発動するのは国だろう。国が(安倍が、菅が)「自衛権を発動する」と言えば、戦争が始めることが可能なのだ。「論理的」には。
 ところで、「自衛権」とは、どういうものなのか。
 私が注目するのは、再び「及び」ということばである。現行憲法は、「武力による威嚇又は武力の行使」という表現を用いている。しかし、改憲草案はこれを「武力による威嚇及び武力の行使」と書き直している。「又は」と「及び」はどう違うか。
 現行憲法は「武力による威嚇」と「武力の行使」は別のものと考えている。しかし、改憲草案は「武力による威嚇」と「武力の行使」はイコールであると考えている。「武力による威嚇=武力の行使」、威嚇するだけでも武力を行使していると判断するのである。
 こういう「抽象的」なことがらは、現実に照らし合わせて考えるとよくわかる。
 北朝鮮がミサイル実験をする。ミサイルを配備する。あるいは中国の戦艦が太平洋(公開)に進出する。これを「武力による威嚇」ととらえる。そして「武力による威嚇=武力の行使」なのだから、この「威嚇」を理由に「自衛権」を発動できる、というのが自民党の改憲草案の狙いなのである。
 すでにこの改憲草案を先取りする形で、安倍は「敵基地を、防衛のために(自衛のために)先制攻撃する」ことを念頭に置いたミサイル防衛計画を策定した。北朝鮮、中国による武力は行使されていない。しかし武力の配備は、武力による威嚇であるとみなすことができる。威嚇を放置できない。先制攻撃で威嚇を破壊し、日本を「自衛」する必要がある……、となるのは、ミサイル防衛計画の必然的帰結だろう。それがミサイル配備計画の狙いだ。
 改憲草案の「放棄する」は、あくまでも「国権の発動としての戦争」を「放棄する」である。「武力による威嚇」に対抗する戦争は放棄していない。「威嚇」そのものを「行使」とみなし、「危機感」をあおり、「自衛権」を積極的に行使しようとしている。
 「武力による威嚇=武力の行使」と定義するのなら、それを日本やアメリカについても当てはめなければならない。日本のミサイル配備計画、東シナ海での日米の艦船の航行は、北朝鮮や中国から見れば「武力による威嚇=武力の行使」にならないか。日本、アメリカが共同でやっていることは「威嚇」でも「行使」でもないが、北朝鮮、中国がやれば「威嚇」であり「行使」である、というのでは二重基準である。
 こういうことは単なる「視点」の違いになって、すれ違うだけだからこれ以上書かないが、なぜ自民党改憲草案は「又は」を「及び」に変えたのか、そのことは注目すべきである。自民党改憲草案に出てくる「及び」は単なる並列ではない。それは改憲草案を読み進めば、いっそう明確になる。
 「及び」は「及ぶ」である。「〇〇及び〇〇」は「〇〇からはじめ、〇〇にまで及ぶ」。ひとくくりにして、二つのものを「イコール」にするということである。少なくとも自民党改憲草案での「及び」の「定義」は、そうなる。
 「及び」が出てきたら、そこで立ち止まり、もう一度読み直すべきである。次回触れる「国防軍」には「及び」が頻繁に登場する。


 

 

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高柳誠『フランチェスカのスカート』(12)

2021-07-05 09:45:24 | 高柳誠「フランチェスカのスカート」を読む

 

高柳誠『フランチェスカのスカート』(12)(書肆山田、2021年06月05日発行)

 「血を流す木」。幹に傷をつけると赤い樹液を流す。血に見える。その樹液をなめると郷愁を誘う甘みがあり、愁いを忘れることができる。そして記憶を失い、過去を失う。その結果、現在を失い、未来も失う。しかし、

                                                          一度
  飲んで、愁いがきれいさっぱり消えた感覚を味わってしまうと、そ
  の蒼天のような愉悦が忘れられなくなる。かくして、もはや自我な
  どという邪魔ものをもたない人々が、魂の奥底までを見透かせるほ
  ど澄んだ瞳で、樹木の血を求めて叢林のなかをかろやかに浮遊する
  すがたが目撃されるようになった。

 「自我などという邪魔ものをもたない人々」ということばが印象に残る。「自我」は生せ邪魔ものなのか。それは「見透かせない」ものだからである。「澄んだ瞳」の対極にある。不透明。そして、それは「かろやか」「浮遊する」の対極でもある。
 前後するが、要約紹介した部分を引用する。
 愁いが消えてしまうと……、

  それと同じくしておのれの記憶もなくなってしまう。記憶を失うこ
  とは、過去を失うことだ。そして、過去を失うことは、現在を、ひ
  いては未来を失うことにほかならない。

 この畳みかける論理のスピード。「かろやか」というのは、こういうことを指す。ことばがかろやかに運動する。「ひいては」ということばが特徴的だが、そのかろやかさは論理のかろやかさなのだ。
 「自我」とは別に、ことばにはことばの「論理」がある。ことばの「論理」は「自我」を無視してかろやかに浮遊する。これは高柳の「理想」なのである。その「証拠」のようなものが「ひいては」ということばのなかに隠れている。「ひいては」のかわりに、その直前につかわれている「それと同じく」、あるいは「そして」でも意味は同じ。しかし、高柳は、ここでは「ひいては」ということばをつかっている。単にことばの重複を避けるというよりも、ここには「論理」を解き放ちたいという欲望のようなものが隠れている。
 それは最初に引用した部分の「かくして」についても言える。論理的結論(因果関係)がことばの運動の自律的/自立的機能を促進する。ことばが自律的/自立的に動くのだから、「自我」はいらない。「自我」があるとことばは自律的/自立的(論理的)に動かなくなる。
 ここに書かれているのは「愁い」の問題ではない。

 


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