松崎義行、田原『詩人と母』(みらいパブリッシング、2021年07月21日発行)
松崎義行、田原『詩人と母』はそれぞれの母を追悼する二人の、一冊の詩集。二人の母は別人なのだが、そして詩を読むとたしかにふたりは違っているということがわかるのだが、なぜか共通のものがある。「母」だからだろうか。
松崎義行の「果てしない路」という作品。
この果てしのない道にも果てはあるのだ
この道と呼ぶものは道ではなかったのだ
吹き荒ぶ冷たい風が生まれる場所はもう温んでいるのだ
どこかに疲れと痛みを感じるがそれは自分ではないのだ
自分がしてきたことは静かに浮かぶ花の船になったのだ
争いはなかったことになり悲しみが溢れているのだ
見てきたものが風景になり季節が巡り始めるのだ
始まりのような終わりが風にキラキラと舞い立ち
皆それを見上げるのだ
「皆」ということばが出てくる。「母」とはいきているそれぞれの人間を、それぞれでありながら「皆」という「ひとくくり」にする力をもっている存在かもしれない。その「ひとくくり」にする力は、この詩では「道」ということばで書かれていると思う。「母」と「子ども」のあいだをつなぐ「道」。母が死んだとき、はじめてそこに「道」があったと気づく。「道」を気づかせないのが「母」なのかもしれない。つまり、いつも「道」からそれぬように守っている存在が「母」。
それは「地上」にだけあるのではない。「母」を思うとき、どこにでも出現する。この詩では風花を見上げながら、「道」を見ている。
田原「母の実家」には「母の母」が出てくる。そして、柿の木も。
いつの日のことだったか、柿の木は伐採されてしまった
それは今になっても、シンボルのように
母の実家に生きていて
私の記憶の奥に聳えている
田原はそれを見上げる。記憶の中で。そのとき柿の木は「母」であり、さらに「母の母」でもある。「母」もまた、その柿の木を見上げただろう。そのとき「母」は、「彼女の母」だけではなく、「母の母の母」も見上げたかもしれない。「果て」はあって、「果て」はない。
「時の読めない母」は、こう書き出されている。
一人海外で長く暮らすと
最も恋しくなるのはやはり母だった
毎年はるばる海を越えて家に帰ったのは
母の前でお母さんと呼ぶためだった
「最も」が切実に響いてくる。「母」はいつでも特別な存在なのだ。「母」には「母の母」がいて、さらに「母の母の母」もいる。けれど、それはいつでも「お母さん」という声で「ひとり」になってあらわれる。それは「ただ一人」しかいない。
この不思議さ。
「ごめんなさい」の最終連。
私たちを隔てている海は私の涙では溢れないが
その涙で目がかすんだなか
地球上でただ一人のあなたが私を産んでくれたことを
誇りに思っている
お母さん、謝謝!
そして、請原諒!
そして、ここには書かれてはいないのかもしれないが、私はこんなことも思う。「母」は「ただ一人」の田原という人間(あるいは松崎義行)という人間を産んでくれた存在である。「ただ一人」ということばを「道」にして「母」と「子ども」はつながる。
そのつながりに「果て」はあって、「果て」はない。
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