詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

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自民党憲法改正草案再読(36)

2021-11-12 11:05:40 |  自民党改憲草案再読

 

自民党憲法改正草案再読(36)

(現行憲法)
第八章 地方自治
第92条
 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
(改正草案)
第八章 地方自治
第92条(地方自治の本旨)
1 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
第93条(地方自治体の種類、国及び地方自治体の協力等)
1 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
2 地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
3 国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。

 現行憲法の文言は改正草案第93条2項に吸収されている。前後に、たくさんのことばが追加されている。新設された改正草案の第92条は、現行憲法の「地方自治の本旨」を定義し直したものだろう。現行憲法に「定義」がないのは、たぶん、憲法の「本旨」が国家権力を拘束するものという意識で制定されているからだろう。地方自治体も「権力」であるけれど、国家権力とは性質が違う。地方自治は「住民参画/自主/自立」が基本であるという1項の定義はいいのだけれど、2項の「義務」ということばに私は注目した。
 現行憲法では、納税、勤労、教育が国民の義務である。
 新設された第92条では、「国民の義務」ではなく「住民の義務」が追加されている。これは、おかしくないか?
 国会、内閣、司法、財政の各章には、「国民の義務」は書かれていない。それは憲法が権力を拘束するものであって、国民を拘束するためのものではないからだ。国会の仕事はこれこれ、内閣の仕事はこれこれ、司法の仕事はこれこれ、とつづく。そこには「国民」が何かしなければならないという表現は出てこない。
 それが突然、ここに出てくる。
 菅は「自助共助公助」と言ったが、そのことばに従えば、地方自治は、たぶん「共助」にあたる。国(公)に頼る前に、自分たちでなんとかしろ。そのためには住民が税金を別途に払え。国は地方自治のために金など出さない、ということだろう。
 国は国民を支配する。地方自治は住民を支配しろ、ということなのだろう。権力の二段階構造。支配の二段階構造。そして、これは、何かあったとき、責任は「地方自治」にとらせる、国には責任はないという態度に豹変するだろう。国家権力の自由を最大限にするために国→地方自治という権力構造をつくりあげる。権力構造には、どうしたって「財政」が必要である。それは地方自治でかってに工面しろ、ということだな。
 それを明確に語っているが、新設された第93条3項だ。「国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない」のなかに「役割分担」と明確に書いてある。国がすることと、地方自治体がするのことは「別」なのだ。「協力しなければならない」とは都合のいいことばである。国はこれこれのことをするから、ほかのことは地方自治体がやれ、というのである。
 これにさらに「地方自治体は、相互に協力しなければならない」とつづく。地方自治体は「共助」しなければならない、というのである。「公助」(国)に頼るな。国と地方は別のもの。
 「権限委譲」ということばがあるが、権限を委譲するのではなく、仕事を押しつけるのが国なのである。
 コロナ対策を見てみればわかる。国がPCR検査の基準(高熱が4日以上つづく)を決めて通達し、それに従わせる。「基準を充たしていないので検査できない」と保健所にいわせる。現場の判断、裁量にまかせない。そのくせ問題が大きくなると、基準の解釈が間違っている、と言う。
 これが、これから起きるのだ。国は「権力の二重構造」を利用して、国が批判された場合、その責任を地方自治(現場)に押しつける、ということが起きる。

(現行憲法)
第93条
1 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
(改正草案)
第94条(地方自治体の議会及び公務員の直接選挙)
1 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
2 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。

 改正草案のいちばんのポイントは「日本国籍を有する者が直接選挙する」。「住民」を「日本国籍を有する者」と言いなおしている。定住している外国人を締め出している。外国人にも税金を支払わせているが、その使い道について外国人は何言うな、ということである。権力構造を国と地方自治の二重構造にしたように、ここでは人間が「日本人」と「外国人」に二重構造でとらえられている。これは、差別の助長につながるだろう。いまでもよく耳にするが「日本がいやなら日本から出て行け」(日本に定住するな)という差別が国の推進する政策になる。もちろん、国はそうは言わない。地方自治体にそう言わせるのである。それが問題化すれば、個別の地方自治体での差別問題という形で国は知らん顔するだろう。こういうことは実際に起きている。「ヘイトスピーチ」について、国は対処する法律をつくろうとしていない。自治体にまかせている。「人権」の問題こそ、国できちんとした対応をしないといけないのに、それをしない。
 外国人差別だけではなく、日本人の問題である「夫婦別姓」「同性婚」も同じ。「同性婚」については地方自治体の取り組みで「パートナー制度」と呼ばれるものができているが、いつまで「容認」されるか。自民党の国会議員の中には、「同性愛者には生産性がない」と、平然と差別するひともいる。

 「権力の二重構造」と、私は、いま書いたばかりだが、次の改正草案読むと、「二重構造」ではなく、「中央集権化」だということがわかる。つまり、国による支配の強化のために国→地方自治という上下関係を明確にしているのが、この改正草案の狙いなのだ。

(現行憲法)
第94条
 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
(改正草案)
第95条(地方自治体の権能)
 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

 「財産を管理し」「行政を執行する」権能が、改正草案では削除されている。地方自治体は、独自に「財産を管理し」「行政を執行する」ことができない。地方自治体の財産の管理、行政執行は国に従わなければならないのである。「二重構造」ではなく、「中央集権」の強化である。
 ここから、最初に問題にした住民負担の義務、「負担を公平に分担する義務を負う」を見ると、どうなるか。国が地方自治体を通じて、新たに税を取り立てるのである。地方のことは地方でやれ、である。
 これを明確にするために、さらに次の条項を新設しようとしている。

(改正草案)
第96条(地方自治体の財政及び国の財政措置)
1 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする。
2 国は、地方自治体において、前項の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない。
3 第八十三条第二項の規定は、地方自治について準用する。

 2項は国の責任になるが、あくまで補足。「自主的な財源をもって充てる」が原則。それをさらに説明しているのが第3項。「第八十三条第二項」とは「国の財政」について定めて部分である。地方自治について定めたものではない。それを地方自治の財政にも適用する。その文言は、こうである。「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない」。地方財政の健全化は、地方自治の責任、と切って捨てているのだ。
 もちろん、ただ切って捨てるだけではなく、国が補助するときもある。ただし、それはいわゆる「アメとムチ」である。沖縄にその顕著な例を見ることができる。基地建設に反対するなら沖縄への予算を減らす。

(現行憲法)
第95条
 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
(改正草案)
第97条(地方自治特別法)
 特定の地方自治体の組織、運営若しくは権能について他の地方自治体と異なる定めをし、又は特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権利を制限する特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民の投票において有効投票の過半数の同意を得なければ、制定することができない。

 「地方自治特別法」に、どういうものがあるのか。どういう法律が制定されたことがあるのか。私は、何も知らない。聞いた記憶がない。
 私が気になるのは、現行憲法にあった「国会」という文言が改正草案では消えていることである。
 第8章は「地方自治」がテーマ。法律の制定は国会がする。「国会」という主語がぜっ絶対に必要な部分である。そこから「国会」という文言を削除したということは、国会を無視して地方自治の行政(財政を含む)を国が支配するということにつながらないか。

 

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