3月15日付の中央日報に日本の書物を紹介する書評記事が
掲載されていた。
それだけなら大して珍しい話ではないが、「ヲタク」が少なからず
驚かされたのは、韓国語訳されていない日本の書物が原書の
まま紹介されていた点だ。
韓国社会には、平均的な日本人よりも日本語の書物を多く読み、
平均的な日本人よりはるかに日本に詳しい知識人がかなり
存在していると見てよいだろう。
日本社会に関する学習も兼ね、全文を翻訳練習してみた。
なお一度の投稿で済ますため、例によって韓国語本文の引用は
省いた。
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■ [글로벌책읽기]
또 하나의 권력 - 일본 야쿠자에 대한 진지한 해부
[グローバル読書]
もう一つの権力 - 日本のヤクザに関する真摯な分析
(中央日報 3月15日)
・「ヤクザと日本 - 近代の無頼」
(야쿠자와 일본-근대의 무법자)
宮崎学著/筑摩書房/270ページ/780円
以前、ある有名歌手が怪しげな風説を否定するため釈明の記者
会見を開き国内外の関心を集めたことがあった。結局、根も葉もない
悪質な噂話として決着したが、「怪談」に刺激的な話題性を与えた
のは、「身体の一部切断」などのおどろおどろしい話とともに登場した
日本のヤクザだった。
ハリウッド映画でも見慣れているヤクザは、レクサスやソニーに代表
される洗練された日本とは全くかけ離れた、まさに日本の暗部を
象徴するような嫌悪すべき存在にすぎない。しかし、そうしたヤクザ
に関する理解は必ずしも正確なものとは言えない。
日本全国に数百ヶ所の事務所を置く日本最大の暴力組織である
山口組は、全盛期の1963年には18万4000人の構成員を
抱えていた。その数は日本の自衛隊をも凌駕するものだった。
また、当時の3代目組長、田岡一雄は神戸の警察署で「一日署長」を
務めるほどの名士でもあった。非西欧世界で最も早く法と制度による
近代化に成功したと言われる日本で、なぜこのようなことが可能
だったのか。
本書は、そうした疑問に答えるべく、ヤクザと日本社会について
真摯な学術的分析を加えている。これまでもヤクザに関する研究は
数多く出されているが、本書のヤクザ分析はひと際異彩を放って
いる。それは著者の持つ特異な経歴とも無縁ではないだろう。
ヤクザの組長の息子として生まれた著者は、伝統に従って「家業」を
継いでいれば、ヤクザの組長になっていてもおかしくはなかった。
しかし、時代の波の中で学生運動に身を投じた彼は、新左翼的な
思想を持つに至り、あらゆる権力(国家の政治的権力やヤクザの
社会的権力も含め)と距離を置く道を選んだ。
著者によれば、ヤクザの起源は下剋上の戦国時代が終わろうと
していた西暦16世紀の末頃に登場した農民出身の雇われ兵士
たちだった。後に彼らは賭場の開帳や人夫の斡旋などを生業と
するに至り、江戸時代にはサムライの統治権力が及ばない下層
社会で一定の権力を維持して行くことになった。
明治維新前後の混乱期には藩や新政府に協力しながら、未成熟な
段階にあった政治権力を補うような役割まで担った。政治権力に
とって、ヤクザ組織の持つ戦闘力や実戦経験、さらには動員力や
団結力などが魅力的な利用対象だったのだ。
近代的なヤクザは産業化の入口となった港湾地域で誕生した。
1900年前後、福岡の若松港で港湾荷役の人夫らを中心に疑似
家族的な労働組合とも言える「組」が形成され、そうした組織が
次第に神戸や大阪、横浜などの港湾に広がって行った。彼らの
ほとんどが被差別階級(一部、在日朝鮮人も含まれる)の出身で
あり、共同生活を送りながら、賭博場を開いたり、公権力の及ばない
社会の底辺での利害関係のもつれや軋轢(あつれき)を調整しつつ、
その対価を得た。下層階級の人々にとって、ヤクザとは自分たちの
身を守る一種の相互扶助のシステムでもあった。
ヤクザが人夫斡旋業の次に進出した分野が、各種芸能関係の
興行だった。近代初期、大衆に開放された公演場は、一面では
乱暴者や酔っ払いが集まる騒々しくも危険な空間であった。
ヤクザはそうした危険な空間の秩序を維持する警備係として、
安全な公演を保障する対価として収益の一部を手にした。
戦後の高度成長期、日本の社会構造や経済構造が激変する中、
ヤクザも当初の共同社会型組織から利益社会型組織へと変貌して
行った。旧来の縄張りを超え広域化するヤクザが登場し、各地に
根を張る地域勢力との抗争が頻発するようになった。そして、
そうした暴力がヤクザに対する社会的制裁の強化へとつながって
行った。
ヤクザという日本の底辺社会を通じ近代日本の歴史を再解釈する
ことは、興味深くもあり有益なことでもある。また、何よりも強調した
い点は、本書を読めば、ヤクザという暴力的なアウトロー集団よりも
さらに暴力的で非道徳な存在である国家権力の姿が浮き彫りに
なって来ることだ。
<ユン・サンイン漢陽大学教授>
※著者紹介
宮崎学
ノンフィクション作家。1945年、京都でヤクザの組長をしていた
父親と博徒の娘であった母親との間に生まれる。高校時代に
日本共産党に入党。早稲田大学進学後は、共産党を離党し
過激な学生運動組織のリーダーとなった。おもな著作に「突破者」、
「近代の奈落」などがある。