熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ドイツの対米外交・・・H.シュミットの「ヨーロッパの自己主張」

2006年05月31日 | 政治・経済・社会
   ブッシュ大統領は、オニール財務長官を切って、今度はスノー財務長官も更迭してしまった。
   経済が好調なのに、宣伝が下手なので大統領人気が地に落ちてしまった、責任を取れと言うことであろうか。

   さて、先の国連安保理の改革で、アメリカは、ドイツの加盟が許せないので、日本などの提案した改革案を葬り去ってしまったと言われている。
   なぜ、米独関係がそんなに悪化しているのか、H.シュミット元西ドイツ首相の「ヨーロッパの自己主張」を読んで見て少し分かったような気がした。

   シュミットは、アメリカの金融資本主義と自然科学研究における先端技術に関する卓越した実力は認めているが、外交面での「世界のリーダー」には可なり誇張があると言う。
   アメリカの外交政策は、対ヒットラーや第二次世界大戦や冷戦の時代と比較すると、最近はあいまいで先が読めず、将来緊張が高まると思われる中国やロシアに対して、そして、コソボやユーロ導入後のヨーロッパに対してもぐらついていると言うのである。

   アメリカの戦略の一貫性を欠く最大の要因は、冷戦でソ連を破ってから国内問題に集中して、政官学ジャーナリストなどに有能な人材が居なくなり、外政に対する禁欲と無視が主流となっている。
   このような状態の下では、唯一の超大国としてのアメリカの地位を確保・持続する為に戦略的情熱を燃やす一握りの人間が絶大な影響力を行使し、アメリカが「ユーラシア大陸」を支配する使命を帯びているのだなどと考えられては大変だと言うのである。
   現実には、アフガニスタン、イラク、そして、イラン等の中東での覇権強化、NATOの基礎である北太西洋条約の条文を超えた域外作戦など、アメリカの目論みは明白であろう。

   アメリカは、NATOに加盟して、軍拡に精を出していたソ連の脅威に対する楯となってくれていた時期は良かったが、今や、未来の不特定の敵との摩擦を想定したありがた迷惑な世界主義国になってしまった。
   これは、ヨーロッパにとって厄介な状況を生みかねないし、NATO加盟のヨーロッパの国が、自国ないしEU共通の利害のない何処かの紛争に関与することがあり得ることになる。

   コソボ問題について、アメリカは「基本的人権擁護を目的とする将来の軍事介入の手本」だと言うが、これは国連憲章や主権国家の国境を侵害すべからずと言う国際法の原則が無視されている。
   戦争目的や戦略、手段や指揮について、NATO諸国とアメリカの軋轢は増大しており、欧州諸国間でも意見が割れてEUを破綻させる衝突が起こらないとも限らない状態に至っている。
   
   欧州共通外交・軍事政策が有効に機能するまでには何年もかかるが、その間、アメリカはバルカンや中近東での殺戮を伴う危機に、戦略上の利害や内政の都合次第で、外交上・商業政策上の圧力をかけて、ヨーロッパの強力を求めてくるだろう。
   それに対する共通の返答を用意していなければ、EUの存続自体が危うくなってしまう、とシュミット言う。

   ソ連が崩壊して冷戦が収束しヨーロッパに平安が戻った段階で、アメリカはヨーロッパにとってお荷物になってしまった。
   ヨーロッパの再建の為に忙しくて、出来れば、自分勝手な理想と世界戦略で暴走するアメリカ主導の揉め事に関わりたくない、そんなところが本音であろうか。
   ネオコン主導のブッシュ政権と相容れる筈がない。

   このシュミットの本、主体はヨーロッパだが、「TVでも、インターネットでも、映画館でも、何処に行ってもアメリカがあり、近代技術は世界中に劣悪なエセ文化を振り撒き、娯楽番組で同じ画面を見て育った文化で、しだいに世界が染まってゆくと思うと身震いを禁じえない」とアメリカ文化を糾弾している。
   アメリカ嫌いは、フランスの場合は、もっともっと強烈だが、日本人の頭には、いつも「欧米」と一まとめにヨーロッパとアメリカを見る傾向があるが、これは現実・事実認識の欠如の最たるものであろうと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする