熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

中国の民主化は幻想?・・・ジェームス・マン

2007年05月20日 | 政治・経済・社会
   アメリカは、中国の政治体制が自由化の途上にあると言う実際に起こってもいない幻想を抱き続けてきているが、一党支配が続き反体制派の活動を抑圧していると言う現実から目を逸らせることは出来ない。
   今から四半世紀後の中国は、確かにより豊かで強力な国になっているであろうが、依然何らかのかたちの独裁国に止まっている可能性が高い。
   中国を宥和的な包括的融和政策で遇しておれば、自由主義経済の浸透等によって不可避的に民主化して行くと言うアメリカの現在のパラダイムでは、対中国政策を根本的に誤ってしまう、と言う警告を、ジェームス・マンが新著「危険な幻想」で展開している。

   ジェームス・マンは、20年前にロサンゼルス・タイムズの北京支局長を務めるなど同紙の外交専門記者の後、米戦略国際研究センターの所属し中国関係について外交専門誌や雑誌などで論陣を張っている中国専門家だが、徹頭徹尾、大統領・米国政府役人、中国学者や中国専門家、プロ中国の実業家トップなどの中国論や政策を糾弾している。
   ついでながら、アルビン・トフラーが、ニューヨーク・タイムズとロサンゼルス・タイムズと英文ヨミウリしか読まないと語っていたが、ロサンゼルス・タイムスは、元よりアメリカでは権威のあるトップクラスの新聞である。

   中国が民主化するのは間違いないと言った中国肯定のパラダイムは、それがアメリカの国内の各種関係団体にとって好都合だからである。
   ニクソンがキッシンジャーを派遣して中国との国交を回復して以降、1970年代後半から80年代にかけては、この考え方が安全保障問題権威筋の見解であった。
   必然的にソ連は中ソ国境に大規模な兵力を張り付けねばならなくなり、ソ連に対抗する為には、中国と密接な関係を維持することはアメリカにとって必須だった。
   冷戦期のイデオロギー闘争の中で、中国の協力を求めることは極めてデリケートな問題だったが、中国の政治体制が自由化の途上にあると言う見方は、議会や一般国民の了解を取り付けるために役立ったのである。

   1990年代のソ連が瓦解し冷戦が終了した時点で、このパラダイムを新たに支持したのが、経済界、特に、市場を求めていた多国籍企業である。
   中国がその政治体制を開放しつつあると言う幻想に加えて、貿易が自由の扉を開ける鍵となる、貿易が政治的自由化と民主主義に扉を開く鍵となると言うパラダイムに変換して行った。

   ジェームス・マンの問題意識は、このパラダイムが間違いだったと分かった時にどうするのかと言うことである。
   現に、中国のレーニン主義的な一党独裁体制は強固なままで、反体制運動は徹底的に弾圧・抑制されており、一向に明るい民主化、自由化の兆しは見えないし、将来の見通しも暗いではないかと言うのである。

   しかし、そうは言っても、中国の急速な経済成長と大国への躍進が、中国の経済社会構造をどのように変革するのか、マルクスの下部構造の上部構造への影響と言った議論を引き出すまでもなく、何らかの変革を引き起こすであろうことは考えられよう。
   どのような未来を予測するのかと言うのは、中国の崩壊論から民主化論まで幅広いが、13億の民を巻き込んだ人類史上初めての経験であり、予断を許さない。
   ゴルバチョフ訪中時に、天安門事件が勃発し、その模様が全世界に生中継されてしまったが、今回の世紀の祭典・北京オリンピックでも、膨大な人数の国際的報道陣の前で、鉄壁の監視を突破して、もし反体制派など不満分子が暴発したらどうなるのか、と言うジェームス・マンの指摘は興味深い。

   ジェームス・マンにとっては、中国の民主化に幻想を抱くアメリカの中国関連エリート達を許せないのであろう。糾弾の矛先は熾烈であり、彼らが中国の抑圧的体制を公然と批判するのを躊躇うのは、金銭が絡んでいるからだと言う。
   政府の長官や高官が退任後、キッシンジャーのようにコンサルタントを設立して膨大な謝礼金を稼ぎ、法律事務所などに天下りして利権を得るなどしていて、これが政府のトップから実務者レベルまでの公務員に広がっている。中国研究者やその他多くの中国専門家達も企業の顧問等で副収入を得ている。
   それを考えれば、まかり間違っても、中国批判などは出来ないと言うのである。
   産経の古森義久氏が、「凛とした日本」の中で、自民党の最大派閥だった橋本派の瓦解によって、日本の対中外交が「友好ごっこ」から「普通の国」へ変わったと言って、中国利権に絡まった橋本派の親中(時には媚中)姿勢を実名入りで語っているが、何処の国にも中国の大きな光と影がさしているという事であろうか。

   
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