六本木ヒルズの回転ドア事故は技術伝承ミスが原因だったと、畑村洋太郎東大教授が「技術の伝え方」で書いている。
この事故機回転ドアは、オランダがルーツで、日本に伝わって以降、安全対策として最も大切な「ドアは軽くならなければ危ない」と言う知識が途中で一切伝達されずに安全が失われていたと言う。
合弁会社でスタートした会社が倒産して他の日本の会社に引き継がれたが、オランダの会社が提携を解消して技術情報を引き揚げたので、回転ドアの現物しかない状態で再出発したので、アルミ製の軽い回転ドアと似ても似つかないステンレス製の重いものになってしまった。
この製品のコンセプトの違いは、ヨーロッパと日本の気候条件の差による。
寒いヨーロッパでは、暖房効果を上げる為に機密性を高くして外気を遮断することが優先されるが、日本では、高層ビルでは、外気から吹き込んだ風や暖められた空気がエレベーターシャフトや吹き抜けから勢いよく流れ込むドラフト現象を避けるために、外気の遮断より圧力差に対抗することが求められる。
その結果、大きな強度が要求されて、その過程で回転ドアはドンドン重くなって行ったのである。
ビルの玄関にあるスライド式の自動ドアやエレベータードアの設計者は「ドアの運動エネルギーが十ジュールを越えると危険である」と言う暗黙知を持っていながら、回転ドアの設計者は、この「十ジュール則」を知らなかったと言う。
ドアの回転体の重さを全部外周にあると仮定して、事故機のドアの重さを運動エネルギーに換算すると、やく800ジュールで、80倍の運動エネルギーが発生していたのである。
このケースで、重要な教訓は二つあるような気がする。
その一つは、技術には現在に至るまでの系譜が必ず存在し、それまでに経験した事故やトラブル、或いは問題点など、何をどうして解決し改善されて来たかと言うことが総て織り込まれている。
伝達された技術を使うと言うことは、先人の経験や考え方を手っ取り早く自分のものにして使えるという素晴らしい利点があるが、逆に、その連鎖の輪が一度切れてしまって、大切な情報が伝わらない状態になって、その技術を使うとトラブルの発生に繋がり極めて危険となると言うことである。
もう一つは、この回転ドアのケースのように、日本の気象条件に合わせて改良・改善した筈の技術だが、本来なら、T.ダビラ等の言う「インクリメンタル(漸進的)イノベーション」で既存の製品やサービス、ビジネス・プロセスの小さな改善を加えるイノベーションとなる可能性を持っている。
しかし、まかり間違って、本来の重要な目的を消失して動き出したイノベーションは、両刃の剣となって、時にはリバイヤサンに変身してしまう可能性もあることを認識しておくべきであると言うことである。
ところで、また、六本木ヒルズの森タワーのエレベーター機械室の一部が火災を起こし、この原因が、ローブが切断して滑車に接触して火花を散らしたことによるようだが、これもまた危険な事故で、外資系のオーチス・エレベーター製である。
この高層用エレベーターは、2階建てのダブル・デッキ・エレベーターで非常に高速で一気に最上階まで上るのだが、あの密室の中で何か事故を起こすと、と思って恐々乗っている人も少なくはないと思う。
ここで、老婆心ながら外資系企業の日本での事業について、一つの心配事を記して置きたい。
私自身、アメリカでMBA教育を受け、ヨーロッパに8年住むなど海外生活が長く、欧米を始め海外との事業も長く続けてきており、決して外資系企業に対して特に偏見を持っているとは思わない。
しかし、気候風土、歴史・民族・習慣等々バックグラウンドが違う所で生まれた企業の製品やサービスは、その生まれた背景の性格や性質を色濃く秘めていて、我々日本の製品やサービス、ビジネス・プロセスとは違うのだと言う認識を決して忘れてはならないと言うことである。
5月1日から、三角合併が解禁になって、外資の進出が加速される。
決して悪いことではないが、日本のビジネスに外資旋風が少しづつ吹き始めて、異文化との遭遇で多くのカルチュア・ショックを経験することとなろう。
日興コーディアルがシティ・グループに編入されることになったが、世論は比較的好意的な目で見ている。
先日、照会したいことがあって、シティバンクの関係会社シティカードに電話を架けたら、延々と音声電話の返答ばかりのたらい回しで埒が明かなかった。
仕方なく解約のところをプッシュしたらオペレーターが出て来たのだが、性悪説を前提に事業を行っているマーケット至上主義のアメリカと、まだ性善説で事業を行いたいと思っている日本企業との対応の差が現れていて面白い。
この事故機回転ドアは、オランダがルーツで、日本に伝わって以降、安全対策として最も大切な「ドアは軽くならなければ危ない」と言う知識が途中で一切伝達されずに安全が失われていたと言う。
合弁会社でスタートした会社が倒産して他の日本の会社に引き継がれたが、オランダの会社が提携を解消して技術情報を引き揚げたので、回転ドアの現物しかない状態で再出発したので、アルミ製の軽い回転ドアと似ても似つかないステンレス製の重いものになってしまった。
この製品のコンセプトの違いは、ヨーロッパと日本の気候条件の差による。
寒いヨーロッパでは、暖房効果を上げる為に機密性を高くして外気を遮断することが優先されるが、日本では、高層ビルでは、外気から吹き込んだ風や暖められた空気がエレベーターシャフトや吹き抜けから勢いよく流れ込むドラフト現象を避けるために、外気の遮断より圧力差に対抗することが求められる。
その結果、大きな強度が要求されて、その過程で回転ドアはドンドン重くなって行ったのである。
ビルの玄関にあるスライド式の自動ドアやエレベータードアの設計者は「ドアの運動エネルギーが十ジュールを越えると危険である」と言う暗黙知を持っていながら、回転ドアの設計者は、この「十ジュール則」を知らなかったと言う。
ドアの回転体の重さを全部外周にあると仮定して、事故機のドアの重さを運動エネルギーに換算すると、やく800ジュールで、80倍の運動エネルギーが発生していたのである。
このケースで、重要な教訓は二つあるような気がする。
その一つは、技術には現在に至るまでの系譜が必ず存在し、それまでに経験した事故やトラブル、或いは問題点など、何をどうして解決し改善されて来たかと言うことが総て織り込まれている。
伝達された技術を使うと言うことは、先人の経験や考え方を手っ取り早く自分のものにして使えるという素晴らしい利点があるが、逆に、その連鎖の輪が一度切れてしまって、大切な情報が伝わらない状態になって、その技術を使うとトラブルの発生に繋がり極めて危険となると言うことである。
もう一つは、この回転ドアのケースのように、日本の気象条件に合わせて改良・改善した筈の技術だが、本来なら、T.ダビラ等の言う「インクリメンタル(漸進的)イノベーション」で既存の製品やサービス、ビジネス・プロセスの小さな改善を加えるイノベーションとなる可能性を持っている。
しかし、まかり間違って、本来の重要な目的を消失して動き出したイノベーションは、両刃の剣となって、時にはリバイヤサンに変身してしまう可能性もあることを認識しておくべきであると言うことである。
ところで、また、六本木ヒルズの森タワーのエレベーター機械室の一部が火災を起こし、この原因が、ローブが切断して滑車に接触して火花を散らしたことによるようだが、これもまた危険な事故で、外資系のオーチス・エレベーター製である。
この高層用エレベーターは、2階建てのダブル・デッキ・エレベーターで非常に高速で一気に最上階まで上るのだが、あの密室の中で何か事故を起こすと、と思って恐々乗っている人も少なくはないと思う。
ここで、老婆心ながら外資系企業の日本での事業について、一つの心配事を記して置きたい。
私自身、アメリカでMBA教育を受け、ヨーロッパに8年住むなど海外生活が長く、欧米を始め海外との事業も長く続けてきており、決して外資系企業に対して特に偏見を持っているとは思わない。
しかし、気候風土、歴史・民族・習慣等々バックグラウンドが違う所で生まれた企業の製品やサービスは、その生まれた背景の性格や性質を色濃く秘めていて、我々日本の製品やサービス、ビジネス・プロセスとは違うのだと言う認識を決して忘れてはならないと言うことである。
5月1日から、三角合併が解禁になって、外資の進出が加速される。
決して悪いことではないが、日本のビジネスに外資旋風が少しづつ吹き始めて、異文化との遭遇で多くのカルチュア・ショックを経験することとなろう。
日興コーディアルがシティ・グループに編入されることになったが、世論は比較的好意的な目で見ている。
先日、照会したいことがあって、シティバンクの関係会社シティカードに電話を架けたら、延々と音声電話の返答ばかりのたらい回しで埒が明かなかった。
仕方なく解約のところをプッシュしたらオペレーターが出て来たのだが、性悪説を前提に事業を行っているマーケット至上主義のアメリカと、まだ性善説で事業を行いたいと思っている日本企業との対応の差が現れていて面白い。