初恋
夜半三九度の発熱にひとり耐えている
湖の上を
水鳥の群れが音もなく舞い下り はげしく羽搏いて舞い上つたりしている
「水鳥の群れ」のなかに「初恋」の相手がいるのか。「水鳥の群れ」となって「初恋」の相手に訴えているのか。
このとき「湖」の「湖面」はどんな姿をしているか。「水鳥の群れ」の動きにしたがって乱れているか。動きを映して鏡のように平らだろうか。「湖」が「初恋」の相手なのか、嵯峨自身なのか。
こういうことは、特定してもはじまらない。
両方なのだ。「イメージ」があるのであって、それは「分離」できない「ひとつ」なのである。ことばは「名詞」「動詞」「修飾語」とわかれていくが、けっしてばらばらにならないものが「イメージ」であり、そこには「夜半三九度の発熱」さえも含まれる。
それが、詩だ。
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詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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