大橋政人「「さみしい」」、金井雄二「蜜柑の皮をむく」(独合点」138、2020年03月10日発行)
大橋政人「「さみしい」」の書き出しの二蓮。
ここまで読んで、一つの絶壁が「さみしい」だと思った。もう一つは何だろう。「かなしい」だと「さみしい」と見分けがつかなくなるか。「うれしい」だとちぐはぐか。「好き(愛する)」だと「意味」になりすぎるか。
ことばがうまく動かない。
けれど、ことばが動きたがっている。私のなかで。
大橋は、この動きたがっている私のことばに対して、どんな力を与えてくるだろうか。わくわく、どきどきしながら私は読み進む。
そして、それが私の思い描いていたものとは違うことを知る。もちろん、大橋のことばなのだから、それは私の思っていることと違っていて当然だし、違うということが「裏切り」のようにあざやかな印象になることもある。
でも、そういうことも起きなかった。
この最終連も、どきどきさせるものを含んでいる。でも、最初の二連と最後の連のあいだのことばは、私には、どうもおもしろくない。
大橋の詩は大好きなので、ときには、こういうことも書いておきたい。おもしろくない詩もある、と。
金井雄二「蜜柑の皮をむく」を読みながら、やはり、金井の詩とは関係ないことを考えた。金井のことばを追いかけようとして、そこに私の「体験」がまぎれこみ、あれこれ考えたのだ。あれこれといっても、まあ、どうでもいいことなんだけれど。
こう書く金井は、蜜柑の皮を、どんなふうに剥いているのか。
私は昔は、ヘタのところからシリの方向に向かって「海星」の形になるように剥いていた。こういう剥き方の場合「ばらばらに/ちぎれてはならない」という注意の仕方は、私は、しない。最後の方でつながる部分を残せばいいだけなのだから。私が蜜柑を食べたあと「海星がいくつもできる」と、よく家族に言われた。
私はまた別の剥き方もする。連れ合いの友達がフランスから来たとき、彼が、林檎の皮を包丁で剥くように、しかし包丁は使わずに、手でくるくると剥いた。渦ができる。この渦はつながったままだと林檎の皮を剥いたときのように「S字」になる。この剥き方が新鮮だったので(それまで知らなかったので)、ちょっとおもしろくて、それもときどきやってみる。友人の名前にちなんで、それを「バルテ剥き」と呼んでいる。
かどうかは、私は知らない。意味があってもいいと思っている。そうでなければ、
などとは思いはしないだろう。
で、この最後の四行を読むと、これはどうしたって「海星剥き」ではなく「バルテ剥き」ということになるのだが、「バルテ剥き」は私と連れ合いだけが知らなかっただけで、ごく普通の剥き方だったのか、と奇妙な気持ちになったのだった。
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大橋政人「「さみしい」」の書き出しの二蓮。
「さみしい」が最近
なんだか大切な言葉になってきた
人間の心の中には昔から
二つの絶壁が聳えていて
互いに向かい合っている
ここまで読んで、一つの絶壁が「さみしい」だと思った。もう一つは何だろう。「かなしい」だと「さみしい」と見分けがつかなくなるか。「うれしい」だとちぐはぐか。「好き(愛する)」だと「意味」になりすぎるか。
ことばがうまく動かない。
けれど、ことばが動きたがっている。私のなかで。
大橋は、この動きたがっている私のことばに対して、どんな力を与えてくるだろうか。わくわく、どきどきしながら私は読み進む。
そして、それが私の思い描いていたものとは違うことを知る。もちろん、大橋のことばなのだから、それは私の思っていることと違っていて当然だし、違うということが「裏切り」のようにあざやかな印象になることもある。
でも、そういうことも起きなかった。
二つの絶壁が
一つだったときのことを
必死にいま思い出そうとしているのだ
この最終連も、どきどきさせるものを含んでいる。でも、最初の二連と最後の連のあいだのことばは、私には、どうもおもしろくない。
大橋の詩は大好きなので、ときには、こういうことも書いておきたい。おもしろくない詩もある、と。
金井雄二「蜜柑の皮をむく」を読みながら、やはり、金井の詩とは関係ないことを考えた。金井のことばを追いかけようとして、そこに私の「体験」がまぎれこみ、あれこれ考えたのだ。あれこれといっても、まあ、どうでもいいことなんだけれど。
ばらばらに
ちぎれてはならない
ひとつにつながった形にする
こう書く金井は、蜜柑の皮を、どんなふうに剥いているのか。
私は昔は、ヘタのところからシリの方向に向かって「海星」の形になるように剥いていた。こういう剥き方の場合「ばらばらに/ちぎれてはならない」という注意の仕方は、私は、しない。最後の方でつながる部分を残せばいいだけなのだから。私が蜜柑を食べたあと「海星がいくつもできる」と、よく家族に言われた。
私はまた別の剥き方もする。連れ合いの友達がフランスから来たとき、彼が、林檎の皮を包丁で剥くように、しかし包丁は使わずに、手でくるくると剥いた。渦ができる。この渦はつながったままだと林檎の皮を剥いたときのように「S字」になる。この剥き方が新鮮だったので(それまで知らなかったので)、ちょっとおもしろくて、それもときどきやってみる。友人の名前にちなんで、それを「バルテ剥き」と呼んでいる。
蜜柑の皮
そこに何の意味があるのか
もちろん
そこには何の意味もない
かどうかは、私は知らない。意味があってもいいと思っている。そうでなければ、
決して
ばらばらにさせない
細かくちぎれてはいけない
ひとつのはてしなくつながった形にする
などとは思いはしないだろう。
で、この最後の四行を読むと、これはどうしたって「海星剥き」ではなく「バルテ剥き」ということになるのだが、「バルテ剥き」は私と連れ合いだけが知らなかっただけで、ごく普通の剥き方だったのか、と奇妙な気持ちになったのだった。
*
評論『池澤夏樹訳「カヴァフィス全詩」を読む』を一冊にまとめました。314ページ、2500円。(送料別)
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「詩はどこにあるか」2020年1月の詩の批評を一冊にまとめました。
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(バックナンバーについては、谷内までお問い合わせください。)
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
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