詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(1)

2020-03-15 17:27:39 | 『嵯峨信之全詩集』を読む



言葉にはすがたがない
しかし言葉にはあらゆる面がある

 これは、とてもわかりにくい。「すがた」と「面」を嵯峨はどう考えているのか。

その言葉から詩が生まれたと考えよう
各々が採りあげる面の美しさ
夕日を映す高層の千の窓硝子のように

 「採りあげる」は「映す」と言い直されている。ことばは、ある存在を「映す」。「映す」は「鏡になる」ということだろう。「鏡面」になる。
 そのときは存在のすべてを「映す」のではなく、ある部分を「採りあげ」て「映す」。つまり「選び取る」。「鏡面」は、どうやって存在のある部分を「選び取る」のか。自分の位置を変えることによってか。
 嵯峨は、そんなふうには考えていない。
 「(鏡)面」は「千の窓硝子」と言い直されている。「鏡」は「硝子」をつかっている。これは単純な言い直しだ。重要なのは「千」の方だ。ことばは「千の面」を持っている。ひとつに限定できない。
 この「限定できない」(自由自在)ということが、最初に書かれた「すがたはない」につながるのだろう。
 もし「すがた」をとらえるとしたら、「千の定義」が必要になる。言い直すと、一行目は、

言葉は千のすがたをもっている

 になる。ことばのひとつひとつが「千のすがたをもってる」、ひとつのことばのなかに「千の面」がある。それはひとつのことばのなかに「千の詩」が生まれる可能性があるということでもある。
 「千」と「千」がぶつかりあって、無限(自由自在)にひろがっていくのが詩なのだ。

 でも、詩をこんなふうに「論理」として読んでしまってはいけない。




*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
『誤読』販売のページ
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私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)

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安倍のコロナウィルス対策(損失とは何か)

2020-03-15 10:33:20 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍のコロナウィルス対策(損失とは何か)
             自民党憲法改正草案を読む/番外318(情報の読み方)

 安倍がコロナウィルス対策について記者会見を開いた。2020年03月15日の読売新聞(西部版・14版)には、「詳細」と呼べるほどのものは載っていない。私はテレビを見ないので、詳細がわからない。だから別のことを書く。2面の見出し。

五輪開催 判断時期に注目/延期・中止 高いハードル

 安倍のコロナウィルス対策は、五輪をなんとしても開きたいという野望を出発点としている。そういう意味では、「会見記事」を読むよりも、この記事の方が安倍の「本音」がわかるといえる。
 その記事の後半部分。

中止は現実的に難しいとの見方がある。IOCの収入の柱は五輪の放送権料で、米NBCは2011年、14-20年の夏季・冬季計4大会の米国向け放送権を43億8000万ドル(約4750億円)で獲得している。中止の場合の損失は計り知れない。

 私は、こういう金の絡んだ契約にはうといから、トンチンカンなことを書いているのかもしれないが、「中止の場合の損失は計り知れない」というとき、だれの損失? IOCの損失であって、日本の損失ではないだろう。そんなもの、日本人が気にする必要があるのか。
 だいたい「放送権料」が入ってこないことが「損失」なのか。当てがはずれただけだろう。五輪を開いたのに、そして放送されたのに、お金が入ってこないというのなら「損失」だろうが、これでは「損失」とは言えないのではないか。
 さらに「4大会」のうちの「東京大会」はひとつにすぎない。東京大会が中止になったとしても、放送権料の全額、43億8000万ドル(約4750億円)を失うわけではないだろう。すでにおこなわれた3大会分は収入になっているだろう。東京大会も含めて支払い済みなので、返還が必要になるということかもしれないが、それは43億8000万ドル(約4750億円)ではないだろう。
 もちろん五輪開催に向けていろいろ準備をしている。そのための「経費」がすでに支払われている。だから、「損失」が生じる、とは言える。しかし、その「損失」は43億8000万ドル(約4750億円)ではないだろう。ここに、ずるい「ごまかし」がある。あたかも、東京大会を中止しただけで43億8000万ドル(約4750億円)の損失があるかのように印象づけている。
 さらに、記事はつづく。

延期の場合もハードルが高い。開幕を1年遅らせると、一部の競技場ではすでに予約が入っているといい、大会関係者は「会場を借りられないケースが出てくる」と話す。

 まあ、そうだろうけれど、これは「交渉」しだい。そういう交渉をするのが「政治」というものだろう。こんなことを「ハードル」と言うのは、「政治能力」のなさを告白するようなものである。(読売新聞は、それを代弁している。)選手にも、観客にも関係がない。
 さらに、

選手村は大会後に分譲マンションとして販売されるため、延期は購入者の入居時期の遅れにつながる可能性もあり、補償問題も浮上する。

 と、ここで再び「金」の問題が出てくる。ここには、「補償問題」が発生したときの、予想される金額が書いてない。たぶん、先に問題にした43億8000万ドル(約4750億円)と比較すると、ほんの少しなので書くのをやめたのだろう。
 しかし、その書くのをやめた「補償問題」の「補償」が、なんとも安倍の「本音」をあらわしている。「補償」には精神的苦痛に対する補償も含まれるだろうけれど、結局は「金」。金のことだけを考えているということが、この記事からもわかる。記者はきっと、こんなに金の問題が発生するんだと聞かされたのだろう。

 だが。
 金の問題に限定して言えば、この記事がまったく触れていないものがある。
 これからもつづくコロナウィルス対策、治療を受ける。仕事を休む、ということがつづいた場合、いったい「医療費」はいくらかかるのか。ひとりひとりの金額は、43億8000万ドル(約4750億円)もかからないが、ひとりひとりの額ではなく、感染者全体ではいくらになるのか。きっと膨大な額になるはずである。医療機関にしても、感染者が増えれば「もうかる」というものではなく、他の医療も圧迫するというようなことも起きる。そのときの「損失」はいくらになるのか。読売新聞は、そういう「見えにくい金額」と43億8000万ドル(約4750億円)を比較点検することをやめて、43億8000万ドル(約4750億円)だけをだして、大変な問題だと書いている。
 五輪のことなど気にしないで、早くコロナウィルスを終息させ、日常生活を取り戻すために何をすればいいのか。それが遅れれば遅れるほど、医療費や休業補償費がかさむ。それは「選手村の分譲遅れによる補償」とは比較にならないほど大きいはずだ。
 私には、そういう「計算」はできない。しかし、取材記者なら、いろいろな方面から情報を集め「計算」できるはずだ。そういう「計算」を公表し、五輪を強硬開催するのが「得」なのか、中止するのが「得」なのか、五輪のことなど気にしないでコロナウィルスを短期間で終息させる方が「得」なのか、そういう「情報」を提供し、読者に考えさせるべきなのではないのか。
 私は何でも現実的にしか考えられないのだが、この記事には、具体的に書かれている金額は、43億8000万ドル(約4750億円)だけである。ここに、私は安倍の「情報操作」の手口を見る。一部だけをみせる。その一部に「間違い」はない。しかし、全体にとってその一部がどれほど重要であるか、それがわからない。だいたい43億8000万ドル(約4750億円)というのは、日本国民一人当たりに割り振ればいくらなのか。4000円くらいである。コロナウィルスによる休業・休職にともなう「補償」がいくらか、人数と日数を掛け合わせて考えれば、国民の健康を維持するため(病気で休んでも生活できる補償をするため)にかかる金額の大きさがわかる。(フリーランスの休業補償か一日4000円と設定されたことを思い出せば、4750億円がどんなものか、わかる。)コロナウィルスが終息しなければ、休業補償などの支出は延々とつづく。それだけではない。対策が遅れれば遅れるほど多くの人が死亡し、健康を損なう。安倍にとっては国民のひとりだろうが、生きている本人にとっては「たったひとり」、自分の問題だ。多くの人が、自分はどうなるのだろうと不安を抱えている。何よりも、国民にとっていちばんの損失は「自分の命が失われること」である。
 そう考えると、五輪がどうしたこうしたと言っている場合ではないだろう。安倍が五輪にこだわるのは、そこから安倍に「利益」がもたらされるからだろう。その「利益」は43億8000万ドル(約4750億円)ではないが、巨額な損失額を見せつけることで、安倍自身の懐が潤うことを隠している。多くの「損失」が出ると騒ぎ立てる。
 だから、もう一度言う。それって、だれの「損失」?
 そこから考えれば、安倍の「利益」のために、国民の健康が犠牲にされているということがわかる。安倍はさらに、「非常事態宣言」を持ち出して、あらゆる情報を隠し始めるだろう。安倍の「利益」のために。






#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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