詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

クリストファー・ノーラン監督「TENET テネット」(★★)

2020-09-28 19:41:58 | 映画
クリストファー・ノーラン監督「TENET テネット」(★★)

監督 クリストファー・ノーラン 出演 ジョン・デビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、ケネス・ブラナー

 大音響、という評判だったので敬遠していた。耳が痛くなるのは耐えられない。一方、私は大音響の中でも眠ることができるという特技を持っている。MRI検査。大音響と暗闇の密封感が怖いと言われていたけれど、私は、寝てしまった。検査がおわって、揺り起こされた経験がある。
 で、この映画、やはり大音響がつづくと私の肉体が「自己防衛」してしまうのか、うつらうつら。見ているのが面倒くさくなって、寝てしまった。
 だから、見落としがあるのを承知で書くのだが、ぜんぜん、おもしろくない。時間を逆行すると言ったって、ねえ。基本的には「ターミネーター」と、どこが違う? 「ターミネーター」のように悪役に魅力がない。ぜんぜん、こわくないじゃないか。
 あ、私は、ケネス・ブラナーが好きなんです。実は。声が。それで、ケネス・ブラナーが出ているなら見てみようと思って見たんだけれど、動機が不純だった? だからおもしろくない?
 いやいや。
 「時間逆行」のハイライトがはじまる寸前、カーチェイスというか、消防車などをつかった大がかりな車の暴走シーン。そのとき、主人公の乗っている車のバックミラーが壊れている(ひびが入っている)のを映し出す。これは、この車が実は未来でトラブルを体験してきたことがある。そのトラブルは、こういうこと、という導入部になっている。それが、見た瞬間にわかる。「さあ、見てください」とスクリーンいっぱいに映し出しているでしょ? 親切といえば親切だけれど、別にここまで親切にしてくれなくてもいいよ、と言いたくなる。
 タイトル前のオペラハウスで、椅子に開いた穴が、銃弾が逆戻りして塞がるシーンは、まあ、この映画のテーマが「時間の逆行」と説明するのに必要なんだろうけれどね。
 それにしても、笑ってしまうよなあ。「時間の逆行」といいながら、その時間は順行の時間とパラレル(平行)を、一枚のガラスを挟んで同時に見せるんだから。こんな種明かし(?)見たくないようなあ。「何が起きている?」と驚く前に、こんなばかな(図式的な)映像じゃ、「時間体験」にならないなあ。
 それにしても。
 悪役のケネス・ブラナー。彼には子供がいる。これが、この映画の最大のミス。脚本のミス。子供がいる、ということは、もうそこにはケネス・ブラナーの手の届かない「未来」(時間の順行)がはじまっているということ。どんなにあがいてみたって、ケネス・ブラナーは負ける、勧善懲悪というと変だけれど、ジョン・デビッド・ワシントンが最後には問題を解決して勝ち残る、ということがわかりきっている。いや、映画は別にストーリーを見るためのものじゃないから、結論がわかってもかまわないのだけれど、「時間」の問題の基本が提示され、そこに結論が浮かびあがるというのは、なさけない。あじけない。
 「ダンケルク」では、陸の時間、海の時間、空の時間を、「映画を見ている時間」に重ねあわせるという画期的なことをやった監督なのに、「未来」を描くのは苦手みたいだなあ。
 (2020年09月28日、t-joy 博多スクリーン9)


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嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(101)

2020-09-28 10:09:35 | 『嵯峨信之全詩集』を読む
* (火はそこで語る)

水のながれの空しさを 時に手足をもがれてながれゆくみなし児を

 水にはたしかに「手足」はない。だから「水」を「手足をもがれてながれゆくみなし児」と言い換えているのだが、なぜ「みなし児」なのか。なぜ、おとなではなく、こどもなのか。
 そう考えるとき、「時に」の「時」の意味がわかれていく。
 ひとつは「ある時」、もうひとつは「時間」というものそのもの。
 ここでは「時間」そのものを「時」と読んでいる。「時(間)」が流れることによって「みなし児」の「手足」をもいでしまうのだ。
 「時間」がながれなければ、「みなし児」の「手足がもがれる」という悲惨なことは起きない。
 一回だけ「脇役」のように登場する「時」こそが、この詩の主役であり、「むなしさ」はすべて「時」に起因する。
 それを、また別の主体(火)が語る。これは、すべて主役を隠すためである。



*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
『誤読』販売のページ
定価の下の「注文して製本する」のボタンを押すと購入の手続きが始まります。
私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)

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