伊藤芳博『いのち/ことば』(ふたば工房、2020年04月30日発行)
伊藤芳博『いのち/ことば』。巻頭の「いのち/えらぶ」は自分の子供が障害者だとわかった母親の(両親の)こころのゆれを描いている。そのなかほど。医師の診断を聞いて、家へ帰る電車のなか。
「呼ばれた」ということばがある。「呼ぶ」である。その「呼ぶ」と「呼び戻す」と言い直される。ここが、この詩のいちばん美しいところだ。
「戻す」は「元へ返す」である。「元」がなければ、「戻す」こと「返す」ことができない。
この詩を読みながら、私はこの母親の「元」に触れる。その瞬間が、とてもうれしい。何度もこの「呼び戻す」を読み返してしまう。
「呼ばれ」ても、聞こえない人がいる。聞かない人もいる。しかし、伊藤の書いている母親は「聞き」、それを「呼び戻された」と感じている。
どこまで呼び戻されるのか。
私は、「生まれる以前まで」と感じる。「呼び戻され」、「生まれ変わる」のだ。娘が母親になり、「わたし」を新しく生みなおす。
きのう高貝の詩について、ことばが呼び掛け合うと書いたが、呼び掛け合うのは、そのことばが互いに「生まれなおす」(生まれ変わる)ためなのである。
どんなことばも「呼び掛けてくる」。その「声」を聞いたとき、自分自身がどこまで「もどれる」か。
それがいつでも問われているのだと思う。
伊藤は、この詩集では、何度も何度も「生まれる前」にもどり、「生まれ変わる」。そのことが書かれている。
「いのち/ゆりかご」は目の見えないユウくんが、それでも光のさす方向を感じ、その光のなかで体を揺らしている姿を描いている。
「引き寄せるもの」は、ユウくんか。「ユウくんにみえるもの」だろう。「引き寄せられるもの」はなんだろう。「ぼくにはみえないもの」だろう。「ユウくんにみえるものが/ぼくにはみえない」と発見する。ユウくんに導かれ、伊藤は自分の知らなかった自分を発見する。ユウくんが、伊藤を、そういう次元にまで伊藤を「呼び戻す」。呼び戻されて、そこから「生まれ変わる」。
ひとは何度でも生まれ変わることができる。何度生まれ変わることができたか、ということが、そのひとの「豊かさ」だと思う。人柄の、豊かさ。
伊藤を生まれ変わらせてくれた人たちへの「ありがとう」がいっぱいつまった詩集である。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
**********************************************************************
「詩はどこにあるか」8月号を発売中です。
162ページ、2000円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168079876
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
伊藤芳博『いのち/ことば』。巻頭の「いのち/えらぶ」は自分の子供が障害者だとわかった母親の(両親の)こころのゆれを描いている。そのなかほど。医師の診断を聞いて、家へ帰る電車のなか。
ふわぁ と声がしたのです
どこからか呼ばれたような気がしたのです
見ると娘がわたしを見て笑っているではありませんか
この子はこれまで表情が乏しく
泣いたりむずかったりすることはありましたが
笑うことなどありませんでした
わたしや主人と目を合わせるということもありません
それがそのときはどうしたことかわたしを見て微笑んだのです
そのやわらかな笑みを見て
ああ この子は必死になにかを伝えようとしている
わたしはそう感じました
それまでわからなかった
わかりたくなかった意味という意味のすべてが
娘のわずかな笑みのなかにありました
この子はわたしを望んでいる
わたしを呼び戻しているのだ
「呼ばれた」ということばがある。「呼ぶ」である。その「呼ぶ」と「呼び戻す」と言い直される。ここが、この詩のいちばん美しいところだ。
「戻す」は「元へ返す」である。「元」がなければ、「戻す」こと「返す」ことができない。
この詩を読みながら、私はこの母親の「元」に触れる。その瞬間が、とてもうれしい。何度もこの「呼び戻す」を読み返してしまう。
生まれなければよかった
生まれてこなければよかった
と考えていたわたしを娘は精一杯の声で呼んでくれたのです
「呼ばれ」ても、聞こえない人がいる。聞かない人もいる。しかし、伊藤の書いている母親は「聞き」、それを「呼び戻された」と感じている。
どこまで呼び戻されるのか。
私は、「生まれる以前まで」と感じる。「呼び戻され」、「生まれ変わる」のだ。娘が母親になり、「わたし」を新しく生みなおす。
きのう高貝の詩について、ことばが呼び掛け合うと書いたが、呼び掛け合うのは、そのことばが互いに「生まれなおす」(生まれ変わる)ためなのである。
どんなことばも「呼び掛けてくる」。その「声」を聞いたとき、自分自身がどこまで「もどれる」か。
それがいつでも問われているのだと思う。
伊藤は、この詩集では、何度も何度も「生まれる前」にもどり、「生まれ変わる」。そのことが書かれている。
「いのち/ゆりかご」は目の見えないユウくんが、それでも光のさす方向を感じ、その光のなかで体を揺らしている姿を描いている。
ならんでそとをみているのだが
ユウくんにみえるものが
ぼくにはみえないので
目をつむっていると
ゆりかごのなかにまよいこんでしまうのである
引き寄せられるものによって
引き寄せられるもののために
「引き寄せるもの」は、ユウくんか。「ユウくんにみえるもの」だろう。「引き寄せられるもの」はなんだろう。「ぼくにはみえないもの」だろう。「ユウくんにみえるものが/ぼくにはみえない」と発見する。ユウくんに導かれ、伊藤は自分の知らなかった自分を発見する。ユウくんが、伊藤を、そういう次元にまで伊藤を「呼び戻す」。呼び戻されて、そこから「生まれ変わる」。
ひとは何度でも生まれ変わることができる。何度生まれ変わることができたか、ということが、そのひとの「豊かさ」だと思う。人柄の、豊かさ。
伊藤を生まれ変わらせてくれた人たちへの「ありがとう」がいっぱいつまった詩集である。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
**********************************************************************
「詩はどこにあるか」8月号を発売中です。
162ページ、2000円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168079876
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com