詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「菅1強」と読売新聞のゴマのすり方

2020-09-05 15:22:21 | 自民党憲法改正草案を読む
「菅1強」と読売新聞のゴマのすり方
   自民党憲法改正草案を読む/番外388(情報の読み方)

 2020年09月04日の読売新聞(西部版・14版)の1面。自民党総裁選の行方を予測する記事。予測するといっても、すでに多くの派閥(国会議員)が菅支持を表明しており、いま「菅総裁」に疑問を持っている国民などいないだろう。だから、

菅氏、議員票7割固める/本紙調査 全体票の過半数

 この見出しが主張したいのは、主見出しの「菅氏、議員票7割固める」ではない。2行目の見出し「全体票の過半数」である。
 読売新聞は、きのう09月04日の1面で、

全都道府県で予備選/31府県 得票応じ配分

 という記事を書いていた。きょうの記事は、その「続報」なのである。ただし、「続報」と言っても「31府県 得票応じ配分」の部分を明確にしているわけではない。つまり、「予備選」で石破、岸田、菅が何票獲得し、その結果として菅の得票がどうなるかを分析しているわけではない。
 きょうの1面の「前文」にこう書いてある。少し長いが引用する。

 読売新聞社は、自民党総裁選(8日告示―14日投開票)で、党所属国会議員(394人)の支持動向を調査した。菅義偉官房長官(71)が議員票の約7割を固め、岸田文雄政調会長(63)、石破茂・元幹事長(63)を大きく引き離している。支持議員数は都道府県連票を含めた全体の票数の過半数を上回っており、菅氏選出の流れが強まっている。
 総裁選は国会議員394票と、都道府県連代表141票の合計535票で争う。過半数の268票以上を獲得した候補が新総裁に選出される。
 調査では、衆参両院の議長を除く同党国会議員394人のうち、96%にあたる378人の意向を聞き取りなどにより確認。4日夜現在、菅氏を支持することが明確な議員は、党所属議員の69%にあたる271人に達した。

 要約すると、総裁選の「総票数は535票である。過半数は268票。菅はすでに271票を固めているから、都道府県連の141票がだれに流れても、菅の当選は動かない」。
 しかし、こんなことは菅が271票を固めた段階で(多くの派閥が支持した段階で)わかりきったことである。なぜわざわざ「全体票の過半数」を1面の見出しに掲げる必要があるのか。
 ウェブ版では「独自」と明記している。この記事が「特ダネ」であることをアピールしているが、こんな単純な「計算」と「答え」が、いまごろになって書かれる理由がわからない。まだ各派閥の支持がかたまらず揺れているときなら、都道府県連票の何%を固めたから「過半数」に達しそうという「予測」を「独自」の判断として提示できるが、きょうの「予測」は私だってできる。それもきょうではなく、派閥の支持が固まった段階で書ける。

 だから、考えてみなければならないのは、ここからである。
 なぜ、読売新聞は、こんなわかりきったことをこの日のいちばん重要なニュース(1面のトップ記事)と判断したのか。
 簡単である。
 都道府県連票への「圧力」をかけるためである。3面に、

3氏 地方票争奪選/菅氏「党員」も勝利狙う/岸田・石破氏「3位回避」

 という見出し。
 菅を支持しないと、石破、岸田のように「冷や飯」を食うことになるぞ、と脅しているのである。菅を支持しろ、と間接的に言っているのである。菅批判をすると、金をまわしてもらえなくなると考えたことはあるか、と脅しているのである。
 この国の政治がどうなるか、ではなく、菅を中心として再編成される(?)権力構造がどうなるか、地方の議員は考えなさいよ、と「暗示」しているのだ。
 地方では石破人気が高いといわれている。石破の「落選」はすでに決まっているが、その石破が地方票でトップだと困るのだ。菅の「面子」がつぶれてしまう。そうならないようにするために、読売新聞は「いまさら石破に投票したって、意味がないよ」と言っているのだ。わかりきっているのに「死に票」を投票するより、菅に投票しろと言っているのだ。
 この主張は、たしかに「独自」である。ジャーナリズムは、そういう「圧力発言」をすべきではない。

 しかしねえ。

 政党内の権力闘争は別にして、ジャーナリズムさえが、突然「菅1強」を受け入れ「よいしょ合戦」をはじめたことに驚く。ここで「よいしょ」しておかないと、切り捨てられると感じているのか。
 必死さの度合いが「安倍1強」のときよりも激しいのは、菅がどこまで支配するかつかみきれていないからだろう。
 「マスコミ」ということばのなかには「マス」はあるけれど「個」がない。しかし、どんなことばも「個」が出発。「個」を捨て去って「マス」であることを追いかけるとき、それは「言論」とは言えない。







*

「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#安倍を許さない #憲法改正 #読売新聞



*

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中村不二夫『鳥のうた』

2020-09-05 13:57:24 | 詩集


中村不二夫『鳥のうた』(土曜美術社出版販売、2019年09月20日発行)

 中村不二夫『鳥のうた』は一年前の詩集なのだけれど、いまの日本の状況のなかで、ふと思い出した。
 巻頭の詩、「独りの旗」。

詩人Kは言っていた 独りはつよいと
その時 ぼくはその意味が分からなかった
今 そのKの言葉が凍った耳を突き刺す
いつのまにか ぼくはKのいる庭に佇む
何度も聞いたその言葉を何度も反芻する
「独りはつよい……」けれどKは
一度もぼくに独りになれとは言わなかった

独りで振る旗は虚しいか 寂しいか
みんなで振る旗は正しいか 尊いか
独りの旗はけっして自分を裏切らない
独りの旗は だれの前でも平等だった

 「木島始氏に寄せて」という副題がある。Kは木島のことである。
 「強い」と書かずに「つよい」とひらがなで書いている。「つよい」にどういう漢字をあてるかは、読んだ人にまかせている。木島のことばは書かれたことばではなく「言った」ことばだからである。「言った」ことばは、「声」とともに消えていくが、聞いた人の「肉体」に残る。それは思い出すとき、あらわれてくる。それは、こんな具合に。

いつのまにか ぼくはKのいる庭に佇む

 このとき、庭には木島はいない。けれど、木島を思うとき、木島は「あらわれる」。この思い出すと、必ずあらわれてくる木島、あるいはことばの、「必ず」を中村は、こんなふうに言い直す。

独りの旗はけっして自分を裏切らない

 「けっして/裏切らない」。そういうものが、ある。そういう人が、いる。
 それを発見しなければならない。
 木島が「一度もぼくに(中村に)独りになれとは言わなかった」のは、「独りになる」ということを中村が自分で発見しないかぎり、それは「独りになる」ということではないからだ。ことばを聞いて、それにしたがうとき、それは「独りになる」ということは違うのだ。
 「独りになる」ということ発見するまでには時間がかかる。
 ときには、一緒にいた人が死ぬということで、「独り」になってしまうということがある。取り残されて「独り」。でも、これは自分で選びとったものではない。
 たぶん人間は「独り」取り残されることを何度か経験して、「独り」であることを感じ、その繰り返しのあとで「独りになる」ということができるのかもしれない。人との別れの経験なしで、「独りになる」ということを自覚する、覚悟するということはむずかしいだろうと思う。
 しかし、その「独り」取り残されて、「独り」にさせられてしまったあと、その一種のどうすることもできない「独り」のなかで、別れてしまったひとを思い出すとき、そのひとが「あらわれる」。その瞬間に「独りになる」ことの「意味」が理解できる。
 「独り」だからこそ、いま、「そこ(庭)」にいない人(木島)が中村に並び立つのだ。「独り(中村)」が「独り(木島)」を呼び寄せるのだ。そのときの「独り(木島)」は決して「独り(中村)」を裏切らない。逆も言える。中村は、けっして裏切ることなく、木島を思い起こし、自分のそばに呼び寄せる。それは木島であって、木島ではない。それは中村なのだ。
 そして、それはいつでも「木島」であるわけでもない。だれででもある。
 「だれの前でも平等だった」とは、「だれの前でも独りだった」ということであり、そのとき向き合っている「だれ」かもまた「独り」なのだ。少なくとも木島は「独りになり」、自分の前にいるひとを「独り」として向き合っている。木島の姿勢が他者を「独りにさせる」。

Kはどこからも独りで詩友を作り出した
性別・年齢、キャリアを問わず
アメリカにも韓国の詩人にも手紙を書いた

星条旗でも日章旗でも太極旗でもない
独りの旗はとうめいな平和の旗だった
その周り がれもが風のように集まってきた
人が本当に護るべきものは目には見えない
(それはきっとみんなで振る旗ではない)

 「人が本当に護るべきもの」は、この詩の文脈のなかでは「平和」と言い換えることができるかもしれないが、私は、そうではなく「とうめい」と読みたい。「とうめい」だから「目には見えない」と、そのまま受け止めたい。
 「目に見えない」ものは、この詩のなかでは、木島が言った「独りはつよい」ということばであり、「庭に立つ木島」である。庭に立つ木島が中村を「独りにさせる」。木島が生きているときよりもさらに強く働きかけてくる。「独り」は、そのとき中村の「肉体」/思想」になる。「思想」を「肉体」として獲得すること。それが「独りになる」ということだ。だかち、それは「どんな思想」であるかは問わない。どんな「性別・年齢」「キャリア」「国籍」も問わないのだ。

 中村は木島の「独りはつよい」を引き継いで「独りになる」。こう書くと、中村は木島の「代理人(あるいはコピー)」のように見えるかもしれないが、そうではない。その区別が他人から見えないだけであって、中村にはその区別(自覚)がある。「独りにさせられた」のではなく「独りになる」を選んだのだ。
 自覚して、「独りになる」。自分を「とうめい」にする。そのとき、だれかの「とうめい」と重なりあう。そういう瞬間がある。「独りになる」と、そういうことができる。この不思議な体験を「つよい」と呼んでいるのだ。
 「独りである」と「独りになる」は違う。「ある」から「なる」へと自己を超えていく。そういう人間だけが「とうめい」の連帯を勝ち取ることができる。を超越してしまう。






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