詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

破棄された詩のための注釈20

2020-09-12 22:36:38 | 破棄された詩のための注釈
破棄された詩のための注釈20
                        谷内修三2020年09月12日

 彼が、飲みかけのコーヒーを奪うように飲んだとき、ただの白いカップが夏の鮮やかな光を反射し、影が自在に動いた。テーブルの上の積み上げた本にも。そして、開いたノートに書き散らした文字が美しい詩になった。「人間には欠点がある。たとえばふけ頭とか」ということばさえも。
 闖入者の予想もしなかった動きによって、あらゆるものがくつがえされ、新しくなった。見慣れていたものが、初めて見るものとして立ち上がってきた。

 「真実とは、自分のことばで組み立てた考えのことであって、自己のなかにしか存在しない」ということばをどこに挿入すればいいのか。頭が混乱した。


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北野丘『字扶桑』

2020-09-12 10:52:17 | 詩集
北野丘『字扶桑』(私家版、2020年05月01日発行)

 北野丘『字扶桑』の「遠吠えへと至る比(ころ)」はこの詩集のなかでは、私には異質に感じられた。

滸呂裳(ころも)よ、何もかも
わすれてもいいと思うのは
こんなにも澄んだ秋の夕暮れに
ふいに、とめどもなく零れる
落ち葉のただなかにいて
つと止み、歩み出す時だろうか

秋が澄明で
人は郷愁の絵図へと配られ
水彩に暮れてゆくなかで
滸呂裳よ、忘却が列を細め
俺の腕を昇ってくるのが見えるだろう

 リズムがある。「滸呂裳よ、」の「よ」が「他者」をひきこみ、呼吸が生まれる。それがたとえ自分に対する呼びかけであったとしても、そこに「断絶」(切断)があり、その「切断/断絶」をわたって、「接続」しようとする呼吸がある。
 「よ」と呼びかけ、一呼吸置く、その読点「、」が生み出す自然な呼吸だ。
 それが「ふいに、」「つと止み、」と繰り返される。その周辺には「澄んだ秋の夕暮れ」や「零れる」「落ち葉」という「情感」を誘うことばが拡がる。
 二連目の「滸呂裳よ、」が冒頭ではなく、途中で出てくるのもいいなあ。冒頭で繰り返されていたら、パターンになってしまう。パターンにしないで、なおかつリズムでありつづけるのは、むずかしい。リズムとは、もともと繰り返しが生み出すものだからだ。
 このあらわれては消えるリズムは、不規則なのだが、あらわれるたびにリズムであることを思い出させる。

土蔵の壁はめまぐるしい速度で
一瞬を全貌にひらいては
杖はこなごなに砕け
つながようもなかった
ああ、やませだな

滸呂裳よ、風の筋が梢で
燃えはぜる音をさせて憩い
精気を吸っては尾をなびかせ
頬をなでていく比(ころ)
人は、こうして一緒に
風が哭くのを聞いてもよかった

 呼吸のリズムにしたがって、「声」に乗る音があつめられる。それを優先させてことばが「物語」へと動いていく。

字扶桑で、俺は
目と目のあいだに
像のよみがえりを思念し
何もかもが
深い断念を落下しながら飛翔する
俺は存在の唖だ

 「落下しながら飛翔する」は矛盾しているが、リズムがことばを支えているから、矛盾を引き寄せても矛盾にならず、矛盾を「飛躍」の踏み台にかえる。「俺は存在の唖だ」というのはリズムが生み出した概念の花だ。

网孤(もうこ)が鳴いたのか
ああ聞いた、いま、一瞬聞いた

滸呂裳よ、モモンガの砦で
いま児が産まれたな              (注、「児」は原文は「正字」)

 「神話」は、リズムのなかから生まれてくる、と思った。「神話」を書くには、リズムが不可欠である。そのことを教えてくれる詩だ。




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外務省幹部?(読売新聞のおもしろさ)

2020-09-12 09:00:08 | 考える日記
外務省幹部?(読売新聞のおもしろさ)
   自民党憲法改正草案を読む/番外391(情報の読み方)

 2020年09月12日の読売新聞(西部版・14版)1面に、安倍が「辞任会見」でぶちあげた「敵基地攻撃システム」の続報が載っている。

敵基地攻撃 結論先送り/安倍首相が談話「次の内閣で」

 「辞任会見」でぶち上げたのに気づく記者がいなかったので、読売新聞をつかって「特ダネ」情報に仕立てた。しかし、頓挫してしまった。だいたい去っていく人間が「遺産」をでっちあげるために新政策を策定するということ自体がおかしいのだが、これはすでに多くの人が指摘しているのできょうは書かない。
 私がきょう指摘したいのは、きょうの問題。この見出し。新聞を熱心に読んでいる人なら気づいたと思うが、とても、とても、とても変である。「意味」としては間違ったことを書いていない。でも、

安倍首相が談話

 新聞の見出しは、ふつうは、こう書かない。ふつうなら

安倍首相談話

 と「が」を省略する。新聞の見出しは「短い」のが原則。わざわざ「が」を補うことはない。
 ここからが問題である。「安倍首相が談話」と「安倍首相談話」のどこが違うか。1面の記事を読むかぎりは、わからない。なぜ「安倍首相談話」にしなかったか。
 3面に書かれている記事を読まないとわからない。3面の見出しは、

敵基地攻撃力/年末結論に壁/安倍首相談話
政局流動的/公明に慎重論

 となっており、そこでは「安倍首相談話」となっているのだが、記事を読んでいくと、こんな部分がある。

 談話は閣議決定を経る「首相談話」ではなく、「首相の談話」とされた。2015年8月の戦後70年談話などとは異なり、「政府方針ではなく、首相個人の思い」(外務省幹部)であることを示し、新首相の裁量を確保する狙いがある。

 私は知らなかったのだが「首相談話」と「首相の談話」は別物なのである。「首相談話」は「閣議決定」を経る。しかし「首相の談話」は「閣議決定」を経ていない。つまり、政府方針」ではない。「拘束力」がない。単なる「談話」なのである。もちろん単なる談話と言っても、話した人が首相なら、その重みは違うが、その重みも「首相談話」と「首相の談話」は違うということになる。
 1面の見出しが「安倍首相が談話」となっていたのは、安倍の談話は閣議決定を経た「首相談話」ではなかった。「閣議決定」はされていない。「政府方針ではない」という意味だったのだ。
 これは微妙な問題だが、微妙であればあるほど、それがわかるように記事にしないといけない。読売新聞は1面には書いていないが3面に書いているから「問題はない」というかもしれないが。

 私は「邪推派」「懐疑派」の人間だから、いろいろ思うのである。3面の「説明」の部分でびっくりしたのは、「首相談話」と「首相の談話」が違うという指摘と同時に、次の部分である。

「政府方針ではなく、首相個人の思い」(外務省幹部)であることを示し

 ふつうの記事にあらわれる「コメント」は「政府関係者」が多い。「外務省幹部」も政府関係者のひとりであるかもしれないが、わざわざ「外務省」が出てくるのはなぜなのか。ことばの定義だけの問題なら、他の関係者でもいいはずである。
 「外務省」が登場するのは、安倍の「談話」が、「国内向け(国民向け)」であるよりも「外国向け」だからだろう。つまり、「敵基地攻撃システム」は何よりも「外交問題」であるからなのだろう。「的基地」が外国にあるからというよりも、そのシステムに必要な武器を買う相手が「外国」だからだろう。予算が伴うから、もちろん財務省も関係するし、武器調達だから防衛省も関係するが、今回は「外務省」の関与が大きいのだ。そういうことを考えさせる。
 「武器を買うシステムを首相在任期間中につくれるよう努力してきた。しかし、できそうもない。だから次期政権に引き継ぐ。努力したことをわかってほしい」とアメリカに伝えたかったのだ。伝える必要があったのだ。そのために大々的に新聞を利用しているのだ。私は他紙を読んでいないが、他紙でもきっと1面で報道していると思う。
 読売新聞は、単に「政府内」だけで「敵基地攻撃システム」が語られていたのではなく、そこには「外務省」が深くかかわっていることを暗示している。あるいは「外務省幹部」ということばを挿入することで「明示している」と言った方がいいかもしれない。読売新聞は、安倍より(政権より)と批判されつづけるのだが、ときどき「外務省幹部」のように、ちいさな声で何事かをささやきかけてくる。それが、とてもおもしろい。

 「書かれていないニュース」がいろいろあるのだ。もちろん「取材した」すべてをニュースにできるわけではない。「暗示」する形でしか書けないニュースがある。「暗示」されたことがらの裏で何が起きているのか。その起きていることは、いつ「ニュースになるのか」、あるいは「ニュースにするのか」、とても気になる。「辞任会見」「菅総裁選出」と安倍の設計図にしたがって政治が動いているように見えるが、そうではない部分があらわれ始めているということかもしれない。「敵基地攻撃システム」が確立されていいわけではないが、この安倍の「小さなつまずき」は、もしかすると以外に大きいかもしれない。
 いや、実際、いま、見えないところで何が起きているのだろう。


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