詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

安倍辞任と新防衛戦略(新聞報道への疑問)

2020-09-02 17:11:09 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍辞任と新防衛戦略(新聞報道への疑問)。
   自民党憲法改正草案を読む/番外387(情報の読み方)

 すでに書いたことだが、私は安倍辞任会見で非情に疑問に思ったことがある。安倍は、まず、コロナ対策について語り、つづいて安全保障について語り、その後「病気」について語った。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0828kaiken.html

 コロナ対策と並んで一時の空白も許されないのが、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境への対応であります。北朝鮮は弾道ミサイル能力を大きく向上させています。これに対し、迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。一昨日の国家安全保障会議では、現下の厳しい安全保障環境を踏まえ、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を協議いたしました。今後速やかに与党調整に入り、その具体化を進めます。
 以上、2つのことを国民の皆様に御報告させていただいた上で、私自身の健康上の問題についてお話をさせていただきたいと思います。

 すでにブログで書いたことだが、記者との質疑応答のとき、北朝鮮対策として「安全保障政策の新たな方針を協議いたしました。今後速やかに与党調整に入り、その具体化を進めます」という部分に対して、誰からも質問が出なかった。
 たぶん、記者たちは 用意してきた自分の質問ができるかどうかしか考えておらず、安倍が何を言うか注意していなかった。そのため「聞き漏らした」のだろう。
 だから、あわてて「政府関係者」が読売新聞に「リーク」し、新しい「安全保障政策」を「特ダネ」として書かせた。(30日の読売新聞1面。)
 その後、各報道機関が、後追いをはじめた。まるで、初めて聞いたニュースかのように。安倍が辞任会見で表明しているにもかかわらず、である。

 ここで、疑問。
 なぜ、政府関係者は読売新聞に「リーク」して記事を書かせたか。国民に知らせるためではないだろう。アメリカ向けの対策だ。アメリカに対して、日本はミサイルを買う、ということを「国民に知らせた」。つまり、それくらい「ミサイル購入」は「真剣」なのだ、とアピールするためだ。
 6月に河野が「陸上イージス廃止」を表明したとき、それがたまたま山本太郎の都知事選表明と重なったため、私は「アメリカは安倍を捨てた。山本に乗り換えた」と思ったのだが、「山本に乗り換えた」は間違っていたが、やはり「安倍を捨てた」はあたっていたのだ。
 捨てられた安倍は大慌てで、「ミサイル購入」を計画し始めた。それを次期政権にやっと引き継ぐことができた。そうアピールしたのである。これは、安倍の「ぼくちゃんをすてないで」というアメリカへのメッセージなのだ。だからこそ、それを「日本の報道機関」をとおしてアメリカに伝える必要がある。「日本国内でその政策が定着している」とアピールする必要がある。それがつたわれば、アメリカは安倍を大事にしてくれる。

 ここからである。問題なのは。重要なのは。
 この報道と重なるようにして、次期総裁に菅が急浮上し、あっという間に「圧勝ムード」になってしまった。いったい何があったのか。
 私が思うに、アメリカは「安倍切り」を変更したのだ。やっぱり、金をつぎ込む安倍で行こうと決めたのだ。それが安倍に伝えられたのだ。
 石破が総理になってしまうと、安倍の復活は絶対にあり得ない。石破は、安倍政権時代の森友、加計、桜を見る会、さらには河井議員への1億5000万円問題を追及する。そうなると安倍は絶体絶命である。石破にアメリカの兵器を買わせる方法もあるが、安倍の方が「言うことを聞く」と判断したのだ。
 田中角栄逮捕のとき、結局、ベトナム戦争への派兵を拒否した田中に見切りをつけたアメリカが指示したという「説」が流れた。今回、もし、安倍が河井問題で逮捕されるとすれば、どうなるか。もうアメリカは安倍を金づるとして利用できない。だからこそ、私は、逮捕されないのではないか、と読んでいる。つい先日までは逮捕されるだろうと思っていたが、辞任会見、ミサイル防衛あたりから違うと感じ始めた。アメリカが背後で動き、安倍を逮捕させないと決めたのだ。(これが、安倍に伝えられた。)まだまだ安倍が「金づる」として利用できるとアメリカに安倍はアピールし、それがどうやら通じたみたいなのだ。
 だから安倍が「ミサイルで適地攻撃をする」という報道が全面展開すると同時に安倍は急にはしゃぎだした。これで安倍の気持ちがアメリカにつたわる。アメリカはきっと助けてくれると思ったのだ。読売新聞が、支持率が上がったことを、一緒になって手放しで喜んでいる記事が最近載った(これもブログにすでに書いた)が、それにあわせる形で、「次期総裁・菅」が急浮上し、自民党があっというまに団結した。
 この「団結」の速さは、きっと「裏事情」がある。安倍が逮捕されることはない。アメリカは、また「安倍支持」で一致した。安倍についていないと、選挙資金を出してもらえない、と国会議員は悟ったのだ。
 自民党員の投票をやめるのも、関係している。地方の党員にまで、「裏事情」を説明している時間はないということだろう。だいたい、地方がどうなろうが、国会議員には関係がない。自分の給料とは関係がない。国家議員として当選できるかどうかだけが、彼らの関心事なのだ。
 菅のあと、安倍はきっと復活してくる。病気は、治療によって克服できると言い出すだろう。首相に返り咲かないまでも、「院政」を目指すだろう。安倍の手下になって菅が働くという今までの構図が繰り返される。
 そういう手筈がととのったのだろう。最近の読売新聞の「はしゃぎ方」をみているとそうとしか考えられない。安倍がアメリカにすり寄って「助けて、何でも買うから」と言ったように、「安倍ちゃん、応援するから忘れないでね」と言っているように感じられる。
 河井議員問題(1億5000万円問題)で、安倍が逮捕されれば、また事情はかわるが、これはないだろうなあ、と私は安倍のはしゃぎようと「菅総理」報道を見て感じてしまうのだ。安倍は岸田に総理を「禅譲する」とまで言われていたのに、岸田が総裁選に立候補するというと、知らん顔をした。岸田が総理になれば、安倍の復活はまた消えてしまうからである。禅譲した人間が、その地位を奪い取るのはありまにも不自然だからね。
 それにしても、アメリカは露骨だなあ。安倍や、その他の国会議員も露骨だなあ。
 そして、ジャーナリズムも変だなあ、と思う。「病気辞任」の会見で、そのとき問題になっているコロナ対策について語るのは当然として、なぜ「安全保障(ミサイル購入)」が唐突に(全体にしめる量が少ない)語られるのか。それを問題にしなかったのはなぜなのか。
 さらに。
 そのとき見落としていた問題を、いま、大げさに語るのはなぜなのか。安倍はアメリカから武器を購入する手筈だけは忘れていないとアメリカに伝えることが、そんなに大事なのか。ほんとうに日本の安全を考えるならば、「適地攻撃」がどんなに危険か、その問題をもっと展開すべきだろう。いまの状態は、マスコミ総動員で「安倍擁護」しているとしか思えない。
 このまま、「ぼくちゃん病気、かわいそうなんだ。もっと同情してよ」作戦にのって、安倍の8年間のデタラメが封印されるとしたら、ジャーナリズムの責任は非情に重い。安倍に頼って、電通から広告をまわしてもらえないと生きていけないから、安倍をヨイショするというのは、あまりに情けない。









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「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#安倍を許さない #憲法改正 #読売新聞



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破棄された詩のための注釈17

2020-09-02 15:30:56 | 破棄された詩のための注釈
破棄された詩のための注釈17
                        谷内修三2020年09月02日

 明け方、木は、木になる前に黒い影としてあらわれる。静かに夜を脱ぎながら、裸の上に幹の色と葉の色をまとい始める。その動きは、いったい何にしたがっているのか。
 「人間ならば、仕事と過去、生活と過去、好みと性格。」
 芝居が終わる寸前になって舞台にあらわれた役者は、逆光のなかで、そのセリフだけを発声する。
 年も、性も、住んでいる街も違う肉体と一本の木をつなぐ、何を見つけてきたのか。その声はただまっすぐに観客の上を渡っていく。
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読売新聞の嘘のつき方(その4)

2020-09-02 10:00:36 | 自民党憲法改正草案を読む
読売新聞の嘘のつき方(その4)
   自民党憲法改正草案を読む/番外386(情報の読み方)

 2020年09月02日の読売新聞(西部版14版)。1面「総括 安倍政権」(最終回)の署名記事。きょうは論説委員・尾山宏。見出しは、

ウィング広げ 安定図る

 記事は「安倍首相は『タカ派』『右派』と呼ばれ続けた。実際にどうだったかは、野党の対応が物語っていよう」と書き始められ、こう展開される。

安倍内閣は、社会経済政策で、リベラルに近い中庸な路線を志向し、野党の主張を取り込んだ。
 首相は、かつて野党が求めていた最低賃金1000円の実現に奔走した。労働組合の代表のように、経済界に賃上げを迫った。働き方改革や教育無償化を含め、従来の自民党とは一線を画す政策を推進したのは、明らかである。

 でも、最低賃金のアップ、教育無償化は、はたして「ウィング(右派、左派)」の問題なのだろうか。労働問題や教育問題、その「金銭」にかかわる問題は「右派、左派」の問題ではないのではないか。「貧乏人の味方か、金持ちの味方か」という問題だろう。そして、貧乏人にも右翼と左翼がいるし、金持ちにも右翼と左翼がいることを考えるならば、尾山の指摘していることは「ウィング」とは関係ないだろう。
 というか、「金銭」に隠れている「ウィング(右派、左派)」の問題(いわゆる野党=左翼が指摘している問題)は「最低賃金がアップした」「教育無償化が進んだ」と安倍が宣伝していることをそのまま鵜呑みにしては見えてこない。つまり、尾山は、野党(左翼)が指摘している問題を隠蔽する形で「論理」を展開していることになる。
 現実に即してみてみよう。
 「最低賃金」はたしかに上がったが「最低賃金1000円」は全国一律に実現しているわけではない。東京、神奈川で実現されているだけだ。(まず、ここに読売新聞の「大嘘」がある。実現していないことを、実現しているかのように書いている。)さらに、「最低賃金」だけではなく、あらゆる「賃金」に目を向けるとどういうことがわかるか。大企業の正規社員と、それ以外の人との「賃金格差」が拡がっている。その拡がった「格差」に対して、安倍は、どう向き合っているか。「格差拡大社会」を利用している。「賃金が少ないとしたら、それは自己責任。大企業に就職できない人間の努力が足りない」と低賃金労働者を差別していないか。
 「教育無償化」に目を向けると、もっとむごたらしいことがわかる。教育無償化から朝鮮学校を除外している。教育はだれでも受けることのできる平等の権利であるはずなのに、国籍、民族によって差別をしている。これは、いわゆる「右翼思想」の典型ではないか。
 安倍のやったことは、「野党の提案」を採用するふりをして、実は「差別の拡大」に利用したにすぎない。「幸福」の一方に「不幸」をつくりだし、「不幸」になりたくなかったら(差別されたくなかったら)、安倍の提案に従え、と言っているにすぎない。
 誰が誰に、どういう教育をするか。誰が誰から、どういうことを学ぶか。それは各人の自由である。そういう「保障」を安倍はしていない。これは「超右翼」の発想である。
 こういう基本的なことを除外して、安倍は野党の求めているものを実現したから「右翼ではない、左翼にも配慮している」(ウィングを広げた)とはいえない。
 尾山は、「最低賃金アップ」「教育無償化」に触れたあと、こう書いている。

 高齢層に支持されているという自民党の印象を変え、若い世代にもウィングを広げることに成功した。読売新聞社の世論調査では、20~30歳代の安倍内閣支持率はおおむね5~6割あり、他の年代よりも高い。支持層の拡大は、長期政権を築くのに不可欠だ。

 若い人の支持率が拡大したのは、安倍の主張する「自己責任論」に恐怖を感じているからである。
 だれでもいい、大手の会社の正規社員ではなく、子会社の非正規社員、嘱託社員、あるいはパートやアルバイトで懸命に生活費を稼いでいる人に声をかけてみるといい。「安倍批判のデモにいかない? 安倍批判の映画を見に行かない?」「忙しいから、いけない」という返事とともに「そんなことをしているのが見つかっても大丈夫?」「そんなことをしたら、損にならない?」という返事がぽつりと返ってくるはずだ。私はある人から、会社の待遇について不満を訴えた。すると部長から、そんなことを会社に言うと損をするよ、と言われた」と打ち明けられたことがある。一部かもしれないが、労働者が労働者の権利を主張すると「損をするぞ」と脅しをかける管理職がいるのだ。これが現実なのだ。そういう圧迫のなかで、若者は萎縮している。仕事がなくなれば暮らしていけない、と不安で「安倍批判」ができない。「安倍支持」と言うしかないのである。高齢者は、まだ、それまで生きてきた過程で「経済的蓄積」が少なからずある。だから安倍批判ができる。でも、経済的に余裕の少ない若者は安倍を支持するしかない。
 「20~30歳代の安倍内閣支持率はおおむね5~6割」というのは、恐慌政治(独裁政治)がはじまっている証拠なのである。

 「右翼」「左翼」でいちばん問題になるのは、世界的な紛争をどう解決するかというときだろう。安倍は、どれだけ「ウィング」を広げたか。核兵器廃絶を求める被爆者の声にさえ耳を傾けていない。条約に署名することを拒んでいる。沖縄では、県民が反対しているにもかかわらず辺野古基地建設を強行している。「陸上イージス」を撤回したと思ったら、それは「敵基地を先制攻撃するミサイル」を導入するためだった。(これは、これから出てくる問題だが。)
 安倍が北朝鮮の「危機」をあおり、予算を軍需費に投入している(アメリカの軍需産業に金をばらまく)。「最低賃金」や「教育費」をはるかに上回る予算が投入されている問題について触れないで、「野党の提案を汲んだから、安倍は右翼ではない=ウィングを広げた」というのは、まやかしの論理である。

 最終回なので、「総括」めいたことを書く。読売新聞の今回の連載の特徴は、「ことば」を恣意的にゆがめていることである。問題の本質を微妙にずらす。ずらしたなかで「論理」だけを完結させる。そのとき「なんとなく、耳障りのいいことば」をつかう。今回の「ウィングを広げる」もそうだが、戦争法の強行採決を「戦後外交に区切り」と言い換える。(安全保障問題は、「外交」問題ではない。)「共感力」というのも、即座に「批判」すべき点が見つからないことばである。このずるい(こざかしい?)ことば、安倍に媚を売ることばを、しっかりと批判していかないといけない。安倍の独裁は終わっていない。菅を後継者にすることで、さらに支配力を強めるのだ。「ぼくちゃん、首相じゃないから、知らない」と逃げながら支配する。ある意味では、安倍の理想がひとつ実現するわけである。「ひとつ」と書いたのは、安倍の最終目的は「悠仁天皇」を誕生させ、「悠仁天皇」生みの親として権力をふるう(国民を支配する/独裁する)というのが安倍の最終的な夢だと私は判断しているからである。平成の天皇の強制生前退位(天皇を沈黙させる作戦)から、ずーっと、変わらずにつづいている姿勢だ。河井事件(河井公判)を乗り切れば、「治療効果が持続するようになりました」と言って、もう一度首相に返り咲くつもりなのだろう。二度あることは、三度ある。私は、そう思っている。きっと読売新聞の記者たちもそう思っている。だから、こんなふうに媚を売りまくっているのだ。国民をたぶらかすことに一生懸命なのだ。

 急に思い出した。
 いちばん上手な嘘のつき方を知っていますか? ある本には「ひとつだけ本当のことを言う」と書いてあった。今回の記事でいえば「野党の提案している最低賃金1000円を実現した」である。たしかに東京、神奈川では実現した。それは「本当」である。しかし、その本当の影に、無数の嘘が群がっている。読売新聞は、「いちばん上手な嘘のつき方」を利用している。
 そして、安倍の「病気辞任」もきっと同じ。「病気が悪化」したのは事実だろうが、尾を引くような悪化ではない。「辞任後」完全に元気を取り戻している。支持率が回復したと喜んでいるではないか。自民党全体が、「石破総裁」拒否へ向けて一致団結しているのは、石破が総理になれば安倍が復活できないからである。岸田がなっても復活できない(安倍後継と言われていたから)。安倍が「三度目の復活」をするには菅氏かないのだ。










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以倉紘平「水字貝」

2020-09-02 08:13:39 | 詩(雑誌・同人誌)
以倉紘平「水字貝」(「アリゼ」195、2020年02月29日発行)

 以倉紘平「水字貝(みずじがい)」には「与那覇幹夫に」というサブタイトルがついている。闘病中の与那覇のことを祈る詩である。「水字貝」は宮古(島)の魔よけの貝だと言う。「祈り」の部分が以倉の書きたかった中心だと思う。思うのだが、そしてその「祈り」の部分は感動的なのだが、私は、「祈り」に入る前の、以倉と与那覇の出会いを書いた部分に非情にこころを動かされた。

与那覇幹夫と私は
山之口貘賞の仕事で年二回琉球新聞社指定の場所で会った
選考会と贈呈式が終わった翌日は
ずいぶんと年期の入った車で
彼は小旅行に私を連れ出してくれるのが常であった
沖縄南部の晴れわたった海の見える休憩所
ナーベラーという沖縄料理を教えてくれたのも彼であった
道端のアイスクリーム売りのおじさんから彼が買ってくれた
素朴な甘い味を今突然私は思いだして涙している
話はつきなかった

 どこがそんなに気に入ったかというと「ずいぶんと年期の入った車で」という一行である。中古車なのだろうが、乗り続けている。その自分の乗り続けている車で与那覇は以倉を案内する。その招待を受ける以倉は以倉で「ずいぶんと年期の入った車」と思っている。口に出して言ったかもしれないが、たぶん、言わなかっただろう。それは、なぜか。与那覇が以倉をつれていってくれるところが、与那覇の暮らしそのものだと感じたからだろう。
 特別なことをするのではない。
 「彼は小旅行に私を連れ出してくれるのが常であった」という一行が、車のあとにつづいている。そのなかに「常」ということばがある。ここには「常」が書かれているのだ。かわることのないもの、持続しているもの、これからも生きつづけるものが、しっかりと書かれている。
 そう思って読み返すと「年期」ということばが美しく見えてくる。「年期が入った」は単に古いということではない。そこに「年期」(時間)が入っている。こういうときの「時間」というのは物理的(科学的)な時間というよりも、暮らしそのものだね。
 つまり、与那覇の車でいえば、もっぱら高速道路を走る車ではなく、大通りだけを走る車ではなく、どんな細い道、舗装していない道も走るという「時間」を生きてきた。だから、その車の傷も(傷み方)も、「常の暮らし」を感じさせるものになっている。
 だからこそ。
 特別な「名勝」ではなく(名勝なのかもしれないけれど)、「晴れわたった海の見える休憩所」という固有名詞のない場所がよく似合う。「道端のアイスクリーム売り」がよく似合う。
 私は以倉にも与那覇にも会ったことがないが、なんとなく与那覇がなつかしい。そういう気持ちになってくる。会ったことがない人なのに、その人がなつかしく思い出せる(?)、あ、思い浮かべてしまうか……というのは、なかなかない。
 私は、こういう「正直」がそのまま出てくることばが大好きだ。
 以倉の正直、与那覇の正直。ふたりの正直が出会って生きている。





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