谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(3)
(老いて一日は)
老いて
一日は
旅
朝から
昼へ
己れに
躓き
昼から
夕へ
散らばる
心
幻の
明日の
星影
*
動詞はふたつ。「躓き(く)」と「散らばる」。躓くのは肉体である。しかし、肉体の動きはどこかでこころにつながる。そのとき肉体は「散らばる」ことはないが、こころは「散らばる」。肉体を少し離れて。
*
(じっと)
じっとしていると
今が
音楽とともに
遠ざかる
時間が駆け
時は
うずくまる
音楽の額縁で
世界は
名画
美に
涙して
醜に
耐える
*
「駆けて」「遠ざかる」とき「うずくまる」ものがある。動かない。「うずくまる」は「涙して」「耐える」に似ているか。「うずくまる」のは何だろう。音楽からこぼれた沈黙だろうか。