詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(8)

2021-12-16 11:33:10 | 谷川俊太郎『虚空へ』百字感想

 

 

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(8)

(言葉にならないそれ)

言葉にならないそれ
それと名指せない
それ
それがある

いつでもどこにでも
なんにでも
誰にでも

癒しながら
傷つけるそれ
決して失くならないそれ

名づけてはいけない
それを
惑わしてはいけない
言葉で

 「癒しながら」という形で一回だけつかわれる「ながら」。「ながら」を挟んで反対のことばが向き合う。不思議な接着剤。惑わしてはいけないと書き「ながら」惑わす。そういう働きを「それ」と呼ぶ、と書いてみる。

 

 

 


(遠く離れた)

遠く離れた
時と
所から
滲んでくる

それを
哀しみと
呼びたくない

記憶の中の
仕草と
言葉

決して
凍らない
小さな

 なぜ「凍らない」なのか。「滲んでくる」の対極にあるのは「凍る」か。「涸れない」と書かなかったのはなぜなのか。「涸れる」と書くと「哀しみ」になってしまうのか。滲む、流れる。動くものは、凍らない。

 

 

 

 

 

(日々の現実だけが)

日々の現実だけが
真実だと
生まれたときから
知っていた

言葉は
移り気な
風に舞って

嘘はいつも
タンポポのように
愛らしく

地平へと
這っていく
無言の蛇の
未知の豊かさ

 「無言」と「未知」は同義語か。知らないものは語れない。もし、ことばが生まれてくれば、それはこの世界を「豊か」にする。それが哀しみや苦しみのことばであったとしても。現実を真実にかえるのは、ことばだ。

 

コメント (1)
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