谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(4)
(明日より今日が)
明日より
今日が
大事
波立つ海
裸の子
歓声
いつまでも
新しい
夏の
姿
風は
発電し
獏は
夢に食傷
*
「新しい」は形容詞。だが、ここでは動詞のように働く。「いつまでも/新しい」は「いつでも/新しくよみがえる」であり、よみがえるは「なる」でも「する」でもある。今日は、明日新しくよみがえる。だから大事。
*
(世間の罅)
世間の
罅から
世界が
覗く
日々に
かかずらう
私を余所に
無限の
幻
永遠の
夢
舌に
馴染まぬ
無味だけれど
*
言い換えがある。「無限」は「永遠」、「幻」は「夢」。そこにかすかな「罅」。一方、反対のことばがつくりだす罅もある。「余所に」の反対は「馴染む」。「馴染まぬ」と書かれることで不思議な罅が生まれる。
*
(夜 座っている)
夜
座っている
足下に
地球
頭上に
限りない
人外
夢に
たゆたう
時
かたわらに
想う
ひとりの
ひと
*
そのひとは、かたわらにはいない。だから「想う」。そのひとは「人外」にいる。「想う」とき「夢」のようにやってきて、そこにいる。「たゆたう」は、このとき存在の証。動くものだけが命の証。そうこころは動く。