詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「現代詩手帖」12月号(6)(思潮社)

2021-12-20 17:29:33 | 詩(雑誌・同人誌)

「現代詩手帖」12月号(6)(思潮社)

多和田葉子「冬服」

重たく 濡れて うつむく
しずく じゅくじゅく じしゅく
に蓋をして 終わりにしたい

 音のつながりがおもしろい。

廿楽順治「富山のくすりや」

おまけの
おそろしい風船をあげよう
詩をやめられるよ

 どうせなら富山弁で言ってもらいたい。標準語で言えば、嘘の上塗りになる。「おっとろしい風船やっちゃ/詩、やめられるっちゃ」。でも、まあ、そんなことは言わない。
 でも、この詩の最後の一行、必然性があるんだろうか。
 私の偏見かもしれないが、富山の薬売り(くすりや、というのは初めて聞いた)は、詩のことに口をはさまないだろう。

中村稔「月の光」

川の流れを、これ、と云って、一滴掬いとったとしても
川はとどめようもなく流れているから、その一滴も
流れ去った水の一滴、川には漣が立ち、せせらぎが聞こえるが、
その音はすべて失われたものたちの囁きなのだ。

 「失われたものたち」。中村が書きたいのは、このことばだろう。さらに突き詰めて言えば「失われた」。「失う」という動詞というよりも、「失われた」という状態。「失われて」、なお、そこに存在するもの。こういうことを語ることばは、静かに、丁寧でないと響かない。中村は、実に丁寧に、静かに、ことばを動かしている。

広瀬大志「毒御伽」

軽々しい愛は
ありふれた言い回しで叙情的に感染する

 「軽々しい」がほんとうに軽々しく聞こえる。それが狙いなのかもしれないけれど。

柳本々々「距離」

好きな窓辺をいつもさがして見つけては指さした。
わたしもその窓辺を見て、いいかも、といったりした。

 「指さした」「いったりした」。過去形であることが全てだ。記憶である。「距離」とを「時間の距離」といいなおせば、「過去」になる。

 谷川俊太郎の『虚空へ』の短い感想を書いていたら、現代詩手帖の作品の感想も短くなってしまった。

 


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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(12)

2021-12-20 15:50:24 | 詩集

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(12)

(有ると無いが)

有ると
無いが
空に
溶けている

雲は
雲の時間を
楽しんでいるから

ヒトは
歴史に
遅れても
いい

子どもに
手を
引かれて

 「遅れる」は、どういうことだろう。「楽しむ」を手がかりにすれば、ヒトはヒトであればいい。「歴史」にならなくてもいい。無名のヒトのまま、ヒトである時間を楽しめばいい。子どもに手を引かれる「楽しみ」。

 

 

 

 

(目覚めない朝を)

目覚めない朝を
夢見ながら
目覚める

天も
地も
不確かだが

知と
情は
生きている

庭の
ツツジの
真紅の
自恃

 「自恃」の意味は? 私は「不確か」を手がかりに考える。「不確か」の反対、「確か」なもの。自分で確かだと信じることができる、頼ることができる。ツツジは「真紅」であると確信し、生きている。

 

 

 

 

 

(黄昏は)

黄昏は
言語を忌む

事実は
薄れ
顕れる
真実

音楽に
なだめられ
数字に
欺かれて

明日の夢を
ヒトは
眠る

 「忌む」。しかし、「忌む」さえも言語にしなければ「忌む」にならない。「動詞」は言語によって仮定され、肉体によって実証される「論理物理学」かもしれない。この仮説を詩は「忌む」か。

 

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