詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

バイデンの強欲主義的想像力

2022-05-24 10:11:24 | 考える日記

バイデンの強欲主義的想像力

 2022年05月24日の「日米首脳会談」を伝える読売新聞(西部版・14版)の一面の見出し。

①首相「防衛費 相当な増額」/対中国 同盟の抑止力強化
②バイデン氏「台湾有事に軍事介入」

 記事は①②の順序だが、これはウクライナ情勢を受けての「緊急首脳会談」だとすれば、どう見ても書き方が逆だろう。つまり、「真意」を隠した報道の仕方だろう。
 アメリカは、ウクライナへのロシア侵攻を誘発し、その後、ロシア封じ対策で世界をリードした。その結果、アメリカの軍需産業は利益を拡大し、アメリカの化石燃料産業もぼろもうけをしている。資源大国のアメリカは農産物(穀物)でも大幅な利益を上げるだろう。
 次は、すでに経済大国になっている中国をどう封じ込めるか。中国に、台湾を攻撃させ(中国軍を台湾に侵攻させ)、それを契機に中国を批判し、中国を孤立させるということだろう。
 だが、この思惑は、アメリカの思い通りにはいかないだろう。ロシア対ウクライナの関係と、中国対台湾の関係は、「同じ構造」ではない。アメリカは「同じ構造」にしたがっているが、まったく違う。
 アメリカが「台湾」を「独立国」としてあつかい始めたのはトランプのときからだと記憶しているが、それまでは「中国はひとつ」という中国側の認識を受け入れていた。(日本は、いまでも台湾を「国」とは呼んでいない。)この「方針転換」は、台湾と中国の関係を、ウクライナとロシアの関係と「同じ構造」にするための第一歩だが、絶対に同じ構造にならない。
 なぜなら、台湾と中国は、同じ中国語をつかっているからだ。同じ文化を生きている。もちろん大陸出身者と、ずーっと台湾で生活していた人との違いはある。しかし、ある地域では「北京語」を話し、ある地域では「台北語」を話し、「北京語」を話す住民は「台北語」を話す住民から迫害されているということもない。
 香港がそうであったように、「経済政策」が引き起こす「差異」はあっても、文化的アイデンティティ、人間の根源的アイデンティティーは共通しているから、そこには「人間の対立/尊厳の対立」というものは起こり得ない。
 これはベルリンの壁崩壊後のドイツを見れば、もっと簡単にわかるかもしれない。ドイツはあっと言う間に「東西の対立」を解消し、融和した。もちろん、まだ問題が残っているかもしれないが、なんといっても「東ドイツ」にいたメルケルが首相になったことでもわかる。「経済体制」というようなものは「人為的制度」であって、「人間の対立/アイデンティティーの対立」とは関係がないのだ。
 これは、さらに冷戦崩壊後の「東側の国々」の状況を見れば、さらによくわかる。多くの国が「アメリカ資本主義」を受け入れ「自由化」したが、その結果何が起きたかというと、「ひとつの国」に統一されるのではなく、いままで「ひとつ」だった国が、いくつにもわかれるということが起きた。「民族のアイデンティティー(それを支えることばのアイデンティティー)」にもとづいて、それぞれの「国」が次々に誕生した。文化的アイデンティティー(人間の尊厳)は資本主義の統一を内部から突き崩す。資本主義は個人の多様化を受け入れながら変化していかなければならない段階なのだが、いまのアメリカ資本主義にとって、これは最大の不安なのだろう。自分の利益が、ロシアに、あるいは中国に奪われてしまう。だから、奪われないようにするために、戦争を引き起し、ロシア、中国を批判する、その「批判力」を「資本主義維持(自分の金儲け維持)」のために利用したいのだろう。
 
 だんだん書いていることが拡大してしまうが。

 元に戻すと、中国と台湾で起きている問題(それがあると仮定して)は、ウクライナで起きた問題とは関係がない。台湾の人々は、ことば(文化)的迫害を中国からは受けていない。同じ「漢字文化」を生きている。「ことば」の迫害を受けたということは聞かない。「経済体制」の違いはあるかもしれないが、経済交流はある。
 こういう状況では、人間同士の戦い、憎み合いというものは基本的に起きない。納得するかどうかはわからないが、相手の言っていることが「理解」できる。互いに理解しあうことが簡単だからである。
 戦争が起きるとしたら、それは「人間のアイデンティティー」を越えた要素によって、人為的に引き起こされるしかない。
 アメリカは、それをしようとしている。
 ありもしない「対立」をむりやりつくりだし、戦争を起こそうとしている。台湾をアメリカ軍の支配下に起き、中国にアメリカ軍を攻撃させ、それを台湾への攻撃と見なし、中国に反撃する、という「作戦」を実行しようとしている。そして、これに日本を参戦させようとしている。
 なぜか。
 繰り返しになるが、「戦争」は拡大すればするほど、軍需産業がもうかるからだ。「戦場」がアメリカではないだけに、「戦争」の拡大はアメリカにとっては利益にこそなれ、損失にはならない。岸田は、アメリカの要求にあわせて「防衛費を増額する」と明言している。
 こんなことをすれば、いま朝鮮半島で起きている不幸が、より激烈な形で中国と台湾の間に定着することになる。アメリカの軍事支配(日本の加担)によって、中国と台湾が対立したまま、民族の融和が不可能になる。もし、民族融和(中国の統一)があるとすれば、それは「台湾」が「中国」を支配してしまう形しかない。アメリカ資本主義が「台湾」を足場にして、「中国」を乗っ取るという形しかない。
 そんなことをする「権利」がアメリカにあるのか。
 もし、アメリカが台湾を起点にして、中国を「アメリカ資本主義」の支配下におさめたとして、そのときチベットやウイグルで起きている問題は、どうなるか。

 バイデンも岸田も、人間(個人)のことなど、なにも考えていない。アメリカの軍需産業がどうすればもうかるか。アメリカの軍需産業がもうかることで、自分の懐にいくら金が転がり込んでくるかしか考えていない。アメリカ資本主義は、金持ちが金持ちになることだけのために維持されているシステムなのだ。それに支配されたくないという自覚をもった国(政府)がいくつもある。だからこそ、アメリカのロシア制裁に同調しないのだ。いくつもの政府は、アメリカ資本主義に、自分たちのアイデンティティーが壊されてしまうことを懸念している。多様化を許さないアメリカ資本主義に対して、疑念を持っている。

 資本主義の最大の「敵」は「多様性」である。資本主義は「合理主義」だが、「合理主義」とは簡単に言い直せば「多様性」を否定し「単純化(規格化)」するときに効力を発揮する。逆に言えば、「多様化」が無限に拡大すれば「資本主義を完成させるための戦争」というのは不可能になる。「私はその戦争に与しない」という人が増える。「戦い」というものがあるとしても、それは「個人対個人」に限定され、「国」が入り込む余地はない。

 それにしても。
 バイデンのことばの「軽さ」に驚いてしまう。 
↓↓↓↓↓
 米国のバイデン大統領は23日、日米首脳会談後の共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した場合、米国として軍事介入する考えを明らかにした。
 会見で記者から「台湾を守るため軍事的に関与する意思があるか」と問われたのに対し、「イエス。それが我々の責任だ」と答えた。
↑↑↑↑↑ 
 記者の質問に、簡単に答えている。この質問をしたのが、たとえば、習近平だったとしたらどうなるのか。そのまま戦争に突入してしまうだろう。バイデンは質問の意味を理解していない。単に記者が質問しているから記者に対して答えただけなのだ。「世界」に向かって答えていない。習近平も聞くかもしれないと考える「能力(想像力)」がない。
↓↓↓↓↓
「武力で制圧できるという考え方は不適切で、地域全体を混乱させるものだ」とも強調した。
↑↑↑↑↑
 これは、では、仮に中国が台湾に武力侵攻したと仮定したとして、その中国をアメリカの武力で制圧するという考え方は適切なのか、という問題を含む。どうしたって、「反撃」は「攻撃の補給路」をたたなくてはいけない。中国への攻撃になってしまう。それは中国を武力で制圧するということだろう。
 「武力で守る」とは「武力で反撃する」であり、「武力で敵を制圧する」ということであり、それは「地域全体を混乱させる」。
 バイデンは、彼の頭の中にある「アメリカの世界戦略がうまくいかない(自分の金儲けがうつくいかない)」ことを「混乱」と言っているにすぎない。なぜ、アジアがアメリカの世界戦略にしたがわなければならないのか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする