■82년생 김지영 「82年生まれのキム・ジヨン」 2019年 〇〇〇〇-
(881)
2019年10月に公開され、360万を超える観客を
動員した話題作。
原作は、韓国で社会現象を引き起こしたミリオンセラー
小説「82年生まれ、キム・ジヨン」(2016年発刊)。
この原作については、過去、当ブログでも紹介して
いる(関連記事)。
物語の主人公は、ソウルに暮らす30代の女性。
大学を出た後、就職し、大学の先輩である釜山出身の
夫と恋愛結婚。仕事は続けたかったが、出産を機に
退職。今は、育児と家事に専念している。
彼女は、もともと自己主張が苦手で、社会や家庭に
色濃く残る男尊女卑的な価値観や慣習にも、従順に
生きて来た女性だった。
一見、何不自由なく幸せに暮らしている彼女では
あったが、その実、初めてづくしの育児や夫の
実家との付き合いに重いストレスを抱え、内面は
けっこう傷ついていた。
△主人公は厳格な公務員の家庭に育ち、釜山出身の男と結婚(映画より)
ただ、傷ついている自分にも気づいてあげられない
ほど、深く深く自分を押し殺して生きて来たのだ。
とにかく良き妻、良き母、良き嫁でなければ、と。
そんな彼女が、ある日を境に、自分に憑依した
(別人格になった)実家の母親や大学時代の先輩の
口を通じて、一人の人間としての主張を率直に口に
するようになった。
言っていることは、至極まっとうな主張ばかりだが、
多重人格的な病であることに違いはない。
△自然な釜山方言を披露した釜山出身の男優、コン・ユ<左>(映画より)
さいわいにも、彼女は、やさしい夫や病院の医師の
サポートを受け、これまで押し殺してきた自分を
徐々に解き放ち、別人格の口を借りなくても、自分の
口で言いたいことが言える女性へと変わっていく。
なかなか、いい映画だった。
なお、この作品に対しては、小説にしろ映画にしろ、
好意的な反響と同時にアンチからの攻撃も激しかった。
例えば、「ヲタク」が目にした「ネイバー映画」の関連
サイトも、作品とは直接関係のない、フェミニズムや
女性一般を攻撃する悪質な書き込みに荒らされていた。
「ヲタク」は、そのむき出しの悪意に、韓国社会の
闇を見せつけられるようで、不気味ささえ感じさせ
られた。
「ヲタク」が見るに、アンチ側の中核には、青年期の
貴重な2年間を兵役に奪われた(奪われる)ことに
強い不満や深い怨念を抱く男性たちがいる。
彼らは、男性と同じように兵役の義務を果たして
いない女性が、差別解消を主張することが心底、
許せないようだ。
徴兵制度に対する不満や怨念のはけ口が、伝統的な
性役割を脱し、より人間らしい生き方を模索する
女性たちに向けられる、という悲しい構図だ。
(終わり)
△ある日のYahoo!Japanテレビより
「ヲタク」にとって、テレビ番組も映画作品と似た
ところがある。
特に関心もなく、偶然、何気なく見始めたものが、
意外と大きな感動をもたらしてくれることが時々
ある。
先日、自宅のテレビで偶然、見たNHKスペシャルも、
そんな番組だった。
△NHKスペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」より
特に、「ヲタク」は、この番組の中で福岡県北九州市に
住む1人の母親が朗読してくれた、ある本の一節に深い
感銘を受けた。
△NHKスペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」より
今、君が好きなことがそのまま職業に
つながる必要は全くないんだ。
大切なのは、なにかひとつ、好きなことが
あるということ。
そして、その好きなことがずっと好きで
あり続けられることの旅程が、驚くほど
豊かで、君を一瞬たりとも、あきさせる
ことがないということ。
そして、それは静かに君を励まし続ける。
最後の最後まで励まし続ける。
<福岡伸一「ルリボシカミキリの青」より>
生物学者の書いた散文でありながらも、まるで詩の
一節のように心に響いてくる言葉。
「ヲタク」は、こんな素敵な序文で始まる、この
本を読んでみたいと思った。
△ネイバー・ブックより
福岡伸一の「ルリボシカミキリの青」。
NAVERで検索すると、ちゃんと韓国語版が出ている
ではないか。
さすがは韓国である(?)。
ここは一つ、「ヲタク」らしさを発揮するためにも、
何とか韓国語版を手に入れ、韓国語で読んでみたい
ものである。
次回のプサン訪問時にでも、大きな本屋さんに寄って
探して(店内で在庫検索して)みよう。
(終わり)