次に出す詩集のタイトルを『改行』と決めた。作品はまだそろっていない。『注釈』を出版したあと、「戦争法」と参議院選挙行方が気になり、なんとなく詩から遠ざかっていた。そのためだろうか、あまり詩を書いて来なかった。古い作品を含めて、推敲しながら詩集を編むことにした。
その「過程」を公開します。
気に入った作品がありましたら、教えてください。「ブログ」のコメント、「フェイスブック」の「いいね」ボタンでの反応を期待しています。
推敲は、「順不同」で進めていきます。
(1)あの部屋を出て行くと、
あの部屋を出て行くと決めたとき、
四角い窓から背の高い雑草が、遠い遠いところに揺れている雑草が見えた。
背後に何かが光って、横に広がっている。
川だ。
(私は、場所を間違えている
あの部屋から川など見えない。
崖の上に立つコンクリートの家と、目隠しの常緑樹。
朝の一瞬だけ入ってくる光。
川などどこにもない。
あの部屋を出て行くと決めたとき、
最後に思い出したのは冷蔵庫の中のペットボトル。
水が半分、飲みかけのまま残っている。
扉を開けたとき、まわりの壁といっしょに黄色い光に染まるまで、
きっとくらい色をためこんで静かに眠る。
そのせいだろうか、
私の知っている川の水は、どこかで飲み残しの水と出会っていて、
あの部屋を出て行くと決めたとき、
目的地のように誘いに来たのだろうか。
(2)川に沿って歩くとき、
川に沿って歩くとき、
道に迷わないのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
空が広いのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
向こう岸が離れて見えるのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
橋の白い横腹はたまらなく孤独に見えるのに
なつかしいのはなぜだろう。
(3)ゲドヴァンゲン
ボスの駅前では、
「ゲドヴァンゲンへ行きますか?」
バスに乗る人がひとりひとり運転手に尋ねる。
76クローネを握り締めたまま。
「行くよ」ひとりひとりに運転手が答え、
バスの中には知らないことばの数が増えて行く。
ゲドヴァンゲンについてみると、時間だけがあった。
フィヨルド・クルーズのフェリーがつくまですることがない。
滝の音。旗の音。旗のロープがポールを叩く金属音。
滝は、どの滝の音かわからない。
幾筋もの滝の音は澄んだ空気の中にぶつかるが、
反射するものがなくて、光のなかへ消えて行く。
一緒にバスに乗ってきたはずの娘も青年も消えて、
私はカモメにパンの切れ端を投げてやる。
店の人に頼んで写真をとってもらう。
「ありがとう」と覚えたばかりのことばで言ったはずだが、
もう思い出せない。
覚えているのは、午後三時、風が冷たくなってきた。
名前のわからない木の若葉から降りてくる風には雪の匂いがする。
私の知っている雪とはまったく違う匂いだが、
雪の匂いだとわかるのは不思議だ。
(4)いつ決まったのか、
いつ決まったのか、説明してもらえなかったが、たいしたことではない。
自己主張することもないので、黙ってついて行った。
三軒目は新聞販売店で、トラックが夕刊を下ろしていた。
夕刊は印刷されてしまっているがまだ配られていないので、
あとしばらくはニュースらしいニュースもない。
西日が格子戸の引き戸に格子の影をつくっていた。
それが前の男の眼鏡のレンズのなかで小さく結晶している。
他人が見ているものを見してしまったというはずかしさが、
ふいにことばを驚かすのであった。
(5)再び
私は再び待っている、
ここに座っている。
雨の降る日は、
背のウィンドウを雨がたたく。
後ろから来るひとは
雨粒の向こうに、
私の影を見る。
傷のように開いた黒い影を。
私は待って、
コーヒーを飲んで
声を待って、ここに座って。
私は待っていると
大声であなたを思って、
静かに座っている。
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推敲は、「順不同」で進めていきます。
(1)あの部屋を出て行くと、
あの部屋を出て行くと決めたとき、
四角い窓から背の高い雑草が、遠い遠いところに揺れている雑草が見えた。
背後に何かが光って、横に広がっている。
川だ。
(私は、場所を間違えている
あの部屋から川など見えない。
崖の上に立つコンクリートの家と、目隠しの常緑樹。
朝の一瞬だけ入ってくる光。
川などどこにもない。
あの部屋を出て行くと決めたとき、
最後に思い出したのは冷蔵庫の中のペットボトル。
水が半分、飲みかけのまま残っている。
扉を開けたとき、まわりの壁といっしょに黄色い光に染まるまで、
きっとくらい色をためこんで静かに眠る。
そのせいだろうか、
私の知っている川の水は、どこかで飲み残しの水と出会っていて、
あの部屋を出て行くと決めたとき、
目的地のように誘いに来たのだろうか。
(2)川に沿って歩くとき、
川に沿って歩くとき、
道に迷わないのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
空が広いのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
向こう岸が離れて見えるのはなぜだろう。
川に沿って歩くとき、
橋の白い横腹はたまらなく孤独に見えるのに
なつかしいのはなぜだろう。
(3)ゲドヴァンゲン
ボスの駅前では、
「ゲドヴァンゲンへ行きますか?」
バスに乗る人がひとりひとり運転手に尋ねる。
76クローネを握り締めたまま。
「行くよ」ひとりひとりに運転手が答え、
バスの中には知らないことばの数が増えて行く。
ゲドヴァンゲンについてみると、時間だけがあった。
フィヨルド・クルーズのフェリーがつくまですることがない。
滝の音。旗の音。旗のロープがポールを叩く金属音。
滝は、どの滝の音かわからない。
幾筋もの滝の音は澄んだ空気の中にぶつかるが、
反射するものがなくて、光のなかへ消えて行く。
一緒にバスに乗ってきたはずの娘も青年も消えて、
私はカモメにパンの切れ端を投げてやる。
店の人に頼んで写真をとってもらう。
「ありがとう」と覚えたばかりのことばで言ったはずだが、
もう思い出せない。
覚えているのは、午後三時、風が冷たくなってきた。
名前のわからない木の若葉から降りてくる風には雪の匂いがする。
私の知っている雪とはまったく違う匂いだが、
雪の匂いだとわかるのは不思議だ。
(4)いつ決まったのか、
いつ決まったのか、説明してもらえなかったが、たいしたことではない。
自己主張することもないので、黙ってついて行った。
三軒目は新聞販売店で、トラックが夕刊を下ろしていた。
夕刊は印刷されてしまっているがまだ配られていないので、
あとしばらくはニュースらしいニュースもない。
西日が格子戸の引き戸に格子の影をつくっていた。
それが前の男の眼鏡のレンズのなかで小さく結晶している。
他人が見ているものを見してしまったというはずかしさが、
ふいにことばを驚かすのであった。
(5)再び
私は再び待っている、
ここに座っている。
雨の降る日は、
背のウィンドウを雨がたたく。
後ろから来るひとは
雨粒の向こうに、
私の影を見る。
傷のように開いた黒い影を。
私は待って、
コーヒーを飲んで
声を待って、ここに座って。
私は待っていると
大声であなたを思って、
静かに座っている。