詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

自民党憲法改正草案を読む/番外27(情報の読み方)

2016-09-30 17:14:59 | 自民党憲法改正草案を読む
2016年9月30日の読売新聞(西部版・14版)2面の記事。見出しは「自民憲法草案 固執せず 参院代表質問 首相、各党議論を尊重」。次のように書いてある。

 安倍首相は29日の参院本会議での代表質問で、憲法改正について「合意形成の過程で特定の党の主張がそのまま通ることはないのは当然だ」と述べ、衆参両院の憲法審査会では各党の議論を尊重し、自民党の憲法改正草案にはこだわらない考えを示した。
 首相は「各党がそれぞれの考え方を具体的に示した上で、建設的な議論が進められることを期待する」と語った。日本維新の会の片山共同代表の質問に答えた。

 朝日、毎日新聞も「大筋」で同様に伝えている。

読売新聞は<論戦の詳報>(15面)では次のように書いてある。

 ■憲法改正
 憲法審査会という静かな環境において、各党が真剣に議論し、国民的な議論につなげていくことが必要で、期限ありきではない。合意形成の過程で、特定の党の主張がそのまま通ることがないことは当然と考えている。

 私は、安倍の「憲法審査会という静かな環境において」の「静かな」という表現が気に食わない。
 天皇の「生前退位」をめぐる「有識者会議」の設置の時も使われていた。
 で、「静かな」の何が問題なのかと言うと。
 毎日新聞が「詳報」で、民進党・小川敏夫の質問を「首相のことばで改憲問え」という見出しで、次のように書いている。

 安倍晋三首相は国民に対し、自身の言葉で憲法改正について問い掛けていない。選挙で数を得たから改憲手続きを進めてしまおうということなのか。首相が言う(改憲に向けた)「政治の技術」とはどういう意味か。

 この小川の質問に、問題点が要約されている。
 安倍は「改憲」を口にするが、具体的にはどこをどう変えるか、国会で語っていない。選挙でも語っていない。「自民党憲法改正草案」は発表済みだから、それを読めということなのだろうが、これは、おかしい。
 私はネットで読んだが、すべての国民がネットで読むことが出来るわけではない。
さらに問題なのは、安倍が自分のことばで語れば、きっと野党は安倍のことばを取り上げ質問する。つまり、「対話」が公開される。公開された「対話」を聞くことで、気付かなかった問題が明確になる、ということがある。
 民主主義は、そうやって「対話」が騒がしくなることで、少しずつ進展するものである。「対話」が活性化して、はじめて、そこに「少数意見」も登場できる。
 安倍は、いつでもこの逆をやる。
公開の「騒がしい対話(討論)」を封じ、「専門家(有識者)」の「密室(静かな環境)」で「結論」を出す。
 これは、国民はだまって安倍の言うことを聞け、という「独裁」そのものの姿勢である。
 「専門家(有識者)」の選択は、安倍が握っている。(「憲法審査会」の場合は、国会議員によって構成されるのだろうから、安倍が全員を人選するわけではないが。)そして、そこでも安倍は直接発言しない。直接発言しないことで「中立」を装う。「専門家が審議して出した結論」を装う。あるいは「専門家のことば」で自分を武装する。
これは、私には、とても「卑怯」な態度に見える。
本当に言いたいことがあるなら、したいことがあるなら、安倍自身のことばで語り、国民の批判にこたえるべきである。

「静かさ」は民主主義の「敵」である。
 参院選で、安倍は籾井NHKを使い、「選挙報道をしない」という作戦、つまり「静かな」選挙戦を作り出した。その「静けさ」のなかですべての「少数意見」は抹殺された。「民進党にはもれなく共産党がついてくる」というキャッチフレーズで、参院選を「自民党対共産党」の対決のように「争点化」したのである。

 これを証明するのが、朝日新聞の「耕論 若者の与党びいき」の平岡浩の次の指摘。

 昔から同じ名前の政党は自民、公明、共産ぐらい。若い人には「保革対立」のリアルな記憶もない。この十数年、有権者への露出度は自民が高く、量も圧倒的に自民です。極端に言えば、若い有権者は自民を選んでいるというより、自民以外はよく知らないという状況なのだと思います。

 自民圧勝は「静けさ」が作りだしたものなのだ。


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水の周辺6

2016-09-30 10:57:59 | 
水の周辺6



花の中で
死んでいく水。

死んでいる水。



花びらの縁が
錆びるとき、

水が死んでいる



死んだ水を
求める色
死んだ水に
狂う色



思い出したのに
思い出せないと
思い出している、
水。






*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)発売中。
1000円(送料込み/料金後払い)。
yachisyuso@gmail.com
までご連絡ください。
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ダーグル・カウリ監督「好きにならずにいられない」(★★★+★)

2016-09-30 10:30:49 | 映画
監督 ダーグル・カウリ 出演 グンナル・ヨンソン

 予告編で、主人公(四十歳を超えた肥満男)が少女に冷酷な(?)質問をされる。「大人なのに結婚していない?」「女の人とつきあったことあるの?」。うーん、鋭い。これが見たくて見に行ったのだが……。
 映画が終わった瞬間(主人公が飛行機の中から窓の外を見ている、その横顔で終わる)、斜め前の女性が「はぁぁぁ」とも「ふぅぅぅ」とも聞こえるような、力のない「ため息」をついた。いやあ、若い女性が、主人公の気持ちに感染して(?)、こんな切ないため息をつくなんて。ため息を聞いて「切ない」という感情を思い出すというか、そうか、自分はいま「切ない」という感情を感じているのかと気づかされるなんて。
 これで、私は★を一個追加しました。
 映画館で、一緒に見て、そのときに「かわる」評価というか、感想がある。

 で、なぜ、日本の若い女性が、アイスランドの太ってぜんぜんモテない男の「気持ち」に感染してしまうかというと。
 「好きにならずにいられない」という気持ち、だれかを好きになったとき、人がすること(人にできること)というのは同じだからだ。
 その人のそばにいたい。そのひとが喜ぶことをしたい。その人が喜ぶとき、自分もうれしくなる。その喜び。その人が言ったことは、全部、覚えている。だから、その覚えていることを、全部、したい。
 女は、ときどき鬱病になる。落ち込んでしまう。けれども男に支えられて生きる力を取り戻す。一時は「いっしょに住もう(暮らそう)」と誘いかけもする。男が完全に嫌いというわけではない。頼りにもしている。しかし、実際に男が引っ越してくると、その引っ越しの当日になって「いっしょに暮らすのはむりだ」と言うのだった。
 男は女のことがわかっているので、女の「生き方」を大切にする。「おれの荷物は持ち出そうか」。そして、元の家にもどっていく。しかし、あきらめはつかない。男にとって初めての恋だからね。
 男は女のことを思い出しながら、できることを全部する。
 「花屋を開きたい、こころら場所がいい」「南の国へ旅行してみたい」。女がもらしたことばはを男は覚えていて、売りに出ている空き店舗を購入し、内装をととのえる。鍵とメモを、女のドアの郵便受け(?)みたいな穴から、差し入れる。たぶん、そのメモにはエジプト旅行のことも書かれている。男は、もしかしたら来てくれるかもしれないと思って、空港にいる。飛行機に乗る。でも、女は来ないのだ。
 ああ、こんなに一生懸命に、生きているのに、こんなに好きなのに、何も悪いことなどしていないのに、通じないのだ、と思って、外を見る。
 これが、なんとも言えない。
 いまさっき、「こんなに好きなのに」のあとに「何も悪いことなどしていないのに」に書いたが、この「何も悪いことをしていないのに」という「感想」が、この映画の最後に思わず出てしまうところも、切なさの理由だなあ。
 主人公の男は少女と知り合う。鍵をなくして家に入れない。それをいっとき世話をする。その後もときどき面倒を見る。しかしドライブにつれていくと誘拐と勘違いされる。変態扱いされる。職場の若い男たちからは、肥満をからかわれる。童貞をからかわれる。家でも、母親から嫌味を言われる。「料理がうまくなったのは、女が料理を作らないから会(おまえがつくっているからかい)」とか。そのくせ、男が家を出て女と暮らそうとすると「母親を捨てていくのか」というような非難を受ける。
 うーん。さえない。
 さえないからこそ、あの一瞬の「恋」が、不思議にどきどきする。あ、しあわせになってほしいなあ、と思ったりする。
 これが、最後に女が飛行機に乗ってきたら、こんな気持ちにはならないなあ。ハッピーエンドだったら、きっと★は一個になるなあ、というような、奇妙な映画。
                     (KBCシネマ1、2016年09月27日)




 *

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