「安倍はなぜアベノミクスにこだわるか」ということを、自民党憲法改正草案と結びつけて考えてみた。
2016年09月29日読売新聞朝刊(西部版・14版)7面に「国会論戦の詳報(28日の衆参代表質問から)」が掲載されている。
「働き方改革」のなかで、安倍は、こう語っている。
一刻も早く同一労働同一賃金を徹底し、正規と非正規の労働者の格差を埋めるため、どのような賃金差が正当でないと認められるかを、年内をめどにガイドラインをつくって具体的に明らかにする。
これは、公明党の井上義久の質問を受けてのもの。井上は「非正規労働者の時間当たり賃金が正社員の6割程度である現状を改め、欧州並みの8割程度に引き上げるために、同一労働同一賃金の実現に向けた検討を急ぐべきだ」と言っている。
安倍は「どのような賃金差が正当でないと認められるか」と答えている。これは「正当な賃金差」を前提としている。「同一」を最初から無視している。井上の質問は、いわば「欧州ではの賃金差(正規の8割)が認められている。だから日本も賃金差を認めた上で、その差を小さくすればいい」という方向へ「答え」を誘導するための質問。安倍が直接「欧州では非正規は正規の賃金の8割である。それをめざす」と主張すれば、「8割がどうして同一賃金なのだ」という批判が出て来るのは明らかである。だから、安倍は「数字」を出さない。しかし、「どのような賃金差が正当でないと認められるか」と言うことで、「正当な賃金格差」のガイドラインを決めるという。このとき、目安は「8割」が「上限」である。それ以上にならない。井上の「質問」を利用して、安倍は、そう言っているのである。
そして、この場合、その「8割」を実現するために、どうするか。正規の賃金を固定したまま非正規の賃金をあげるという保障はない。企業の収益は限られている。それをどうやって分配するか。非正規の賃金を上げるためには正規の賃金を引き下げなければならなくなる、ということもありうる。企業は、きっとそういう方法をとる。そうやって実現された「8割」は非正規の人たちが思い描く「金額」ではない。「8割」という「数字」は上がって見えるが、その実質は「8割」には相当しない。
類似のことがらとして、次の安倍のことばを上げることができる。
保育士の賃金引き上げに関する野党案は、恒久的な財源確保が明らかでなく、人材確保のための必要な総合的対策となっていない。
これを流用して、企業は、非正規の賃金を正規の賃金の8割にするための「恒久的な財源確保」のために正規の賃金をある程度カットする、と主張するに違いない。「恒久的な財源確保」の必要性は、安倍が認めている。
国家財政と企業の経営は違うけれど、きっと、そういう「論法」が展開されることになるだろう。
安倍は、社会福祉に関する「恒久的な財源確保策」があきらかでないと言うが、では、防衛・軍事費ではどうか。なぜ社会福祉の場合「恒久的な財源確保」が問題になり、軍事費の場合「恒久的な財源確保」が問題とならないのか。同じように「恒久的な財源確保」が問題なら、軍事費を削減すればいいだろう。さらに「福祉のための恒久的な財源確保」を「消費税」でまかなうはずだったのに、それを先のばししたのはだれなのだ。
さらに。
「同一労働同一賃金」の「定義」も問題になって来るだろう。「同一企業のなかでの同一労働同一賃金」(連合は、こういう主張らしい)なのか、「企業の枠を超えた同一労働同一賃金」のなか。つまり、「同一職種同一賃金」なのか。「同一職種同一賃金」ならば「子会社」をつくり、そこで新しく「正規雇用」をするという方法で「利益」を確保することはできなくなるが、「同一企業」に限定された「同一労働同一賃金」なら、「子会社化」というか「分社化」が進み、賃金の切り下げが進むだろう。「連合」は経営者候補養成機関なので、この「同一企業内の同一労働同一賃金」をめざしている。つまり、いまの連合幹部は経営者になったら「子会社/分社化」を進めることで労働者の賃金をさげることをもくろんでいる。そうすることで「経営手腕」を発揮しようとしている。
さらに「働き方改革」の「脱時間給制度」の推進というのも、とても危険だ。「同一労働」を「同一成果」と言いなおすと、それは「ノルマ主義」になる。「同一ノルマ同一賃金」である。ノルマに達しない労働者には、その分、賃金が支払われない。この制度に対しては企業側は大賛成である。これには、連合も反対しているらしいが、「同一労働同一賃金」を進めるためには「同一成果同一賃金」でないと「矛盾」すると主張されたとき、どう反論できるか。連合に、反論する「意思」はあるか、そのことも疑問だなあ。
安倍の「ことば」を追いかけるのではなく、公明党や民進党(連合)の「主張」がどういうものかも点検し、それを安倍のことばとリンクしてみないといけない。
安倍の主張を、現行憲法から見るとおかしいというだけではなく、自民党の憲法改正草案と結びつけて見直さないといけないと思う。安倍は、もう改正草案を「安倍憲法」としてとらえている。「安倍憲法」にしたがって行動している。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
この改正草案の「前文」。
「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。」の「社会全体」「国家」を「企業」置き換えるとどうなるか。非正規、正規の労働者が「互いに助け合って」(つまり、安い賃金で我慢しあって)、「会社」のために働くということである。「労使」は対立するではなく「和を尊び」、「会社」を「形成する」。
個人はどうでもいいのである。
なぜ「国家」を「会社」と私は読み替えたか。
前文のつづきは、こうである。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
「経済活動を通じて国を成長させる」に注目するからである。「経済活動」ということばは現行憲法の「前文」にはない。(本文のなにかも読んだ記憶はない。)
安倍は国民のために働いているではない。「企業(経済活動)」のために働いている。自分に金を払ってくれる企業のために働いている。アベノミクス(経済)にこだわるのは、安倍が改正草案(安倍憲法)で動いているからである。安倍にとって企業がもうかることが国家の成長なのである。国民はどうでもいいのである。
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