2016年09月27日読売新聞朝刊(西部版・14版)4面に「首相演説中 自民が起立、拍手/衆院議長注意/野党は抗議へ」という記事が載っている。安倍の所信表明演説注のことである。
「異常な光景」「北朝鮮か中国の党大会のようで不安を感じた」「品がない」と感じたのかまでは、読売新聞は報じていない。
私はネットで「拍手」の部分だけを見たのだが、やはり「異常」だと感じた。「恐怖」を感じた。
なぜか。その理由を書く。
人がだれかに敬意を表して拍手をするということは、ある。それ自体は、異様ではない。つられて拍手をすることもある。でも、そういうとき、その拍手をされる相手が私の目の前にいる。そういうときだ。
目の前にいないときも、もちろん、ある。たとえばテレビでオリンピック中継を見ている。水泳の男子800メートルリレー。日本チームが銀メダルを獲得した。わっ、すごい。思わず、拍手をしたくなる。多くの人と一緒に見ていたら、みんなで一緒に拍手をするだろうなあ。
これが現実ではなく、たとえば映画「ベン・ハー」。戦車レースのシーン。チャールトン・ヘストンが落ちそうになるのに耐えて、戦車にもどる。後ろでは敵(?)の戦車が壊れる。ここで観客から拍手が起きる。
これは「目の前」に「現実」があるわけではないが、同じ時間を共有しているので、思わず「自分の肉体」が反応し、それが「拍手」にかわるのだ。
ところが、演説を聞いているとき、目の前には自衛隊員らはいない。安倍は、演説の中で言っているように、確かに「夜を徹して、そして今のこの瞬間にも」「任務にあたっています。極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って、任務を全う」しているだろう。けれど、その「緊張感」「責任感」を、「映像」かなにかで「共有」しているわけではない。安倍は「緊張感」「責任感」というが、それがどんなものか「ことば」でも「共有」しているわけではない。(それが「ことば」で具体的に描写されるわけではない。)だから、「拍手」が「共感」として、つたわってこない。一緒に「拍手」する気持ちになれない。
「拍手」というのは、称賛しているということを相手に伝えるものである。だから、その称賛を伝えたい相手が目の前にいることが「大前提」である。
ここから、安倍の演説と自民党議員の態度を見ていくと、自民党議員は自衛隊員らに「拍手」を送っているのではなく、安倍に「拍手」を送っていることになる。実際、ネットの映像で見たとき、私は、その「拍手」が自衛隊員らに送られているのではなく、安倍に向けておくられていると感じた。
感動で思わず手を打ち鳴らし、それがそのまま拍手に変わっていくというようなものではない。
さらに、安倍の「拍手」の映像が、とても奇妙だった。「敬意」を表しているようにはとても思えなかった。縁談で「拍手」をしているが、それは「拍手」を誘う(強要する)ような感じである。「いま/ここ」にいない自衛隊員に向かって真剣に拍手をしている(リオにいる選手に思わず拍手を送る)というような感じ、我を忘れた、他者と自己を同化して真剣になってしまったという感じではなく、「ちゃんと起立して拍手しているか、おれは見ているぞ」と議席を「点検」する目つきなのだ。
「おれがおまえたちを当選させてなったんだ、拍手しろよ」という感じでもある。安倍の「自画自賛」に自民党議員が追従している感じ。
それが、気持ちが悪い。
自民党議員の中で起立しなかった人、拍手しなかった人がいるのか、いないのか。読売新聞には書かれていない。「造反者」がいなかったとしたら、それはそれで、こわい。「民主主義」とは「多様性」が原則であり、「多様性」というのは「批判」を同時に含んでいる。だれも、安倍の「拍手の強要」に対して疑問も持たずに従ったのだとしたら、これは、おそろしい。自民党は「民主主義の党」では、ない。安倍「独裁」の党である。党を独裁支配し、それをそのまま国民に押し広げる。あの、議席を見渡す安倍の目つきは、そのままあすは国民一人一人に向けられるのである。
*
所信表明演説で気になった点をいくつか。「憲法改正」について触れた部分の、
「思考停止」というのは、「第九条」を絶対視する、憲法は変えてはならないという主張を批判してのことばだが、そう「批判」するとき、安倍の方も「思考停止」に陥っていないか。「第九条」を変えなければ日本の安全は守れない、アメリカに押しつけられた憲法ではなく、独自の憲法でなければならない、というところで「思考停止」状態になっていないか。この憲法のおかげで七十年間、日本は戦争をせずにつづいてきた、という「事実」を見落としていないか。「未来」を語るときは、同時に「過去」も丁寧に点検すべきである。今回の演説には「未来」ということばがしきりに出てくるが、「過去」を掘り起こすという真摯さ、過去から学ぶ姿勢がない。
「一億総活躍/働き方改革」の柱「同一労働同一賃金」についても疑問を書いておく。安倍は、こう語っている。
安倍がこう語るとき「同一労働同一賃金」とは、どういうことを指しているのだろうか。「同一労働同一賃金」の「名目」のもとに「ノルマ」が厳しく設定されることはないのか。「ノルマ」を達成できない労働者の賃金は、そのために切り下げられるということはないのか。「非正規」をなくすために、どうするのか。全員を「正規」にするために、ある部署を「子会社化」し、その「子会社」で「正規社員」として雇用する。「子会社」を設置するとき、そこでの「賃金」を一気に引き下げる。「子会社」で「ノルマ」を厳しく管理しなおし、「同一労働同一賃金」を実現する。
どんなことも「実現」には「具体的方法」がある。所信表明演説では「具体的方法」までは語らない。
というのも「ことば」は美しいが、裏を返せば、年金支給は七十五歳からにする。だから、それまでは「働け」ということかもしれない。「多様な就労機会」というのは働き手の少ない職場ならいつでも就労させるということかもしれない。
*
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このブログで連載した「自民党憲法改正草案を読む」をまとめたものです。
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首相は海上保安庁職員や警察、自衛隊員の働きぶりに触れた後、「今この場から、心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけて、拍手をはじめた。これを受け、自民党員らが起立して拍手を約20秒間続けたため、大島氏が「ご着席ください」と注意した。 日本維新の会の馬場幹事長は演説後、記者団に「異常な光景。落ち着いて真摯に議論しあう状況ではない」と批判。生活の党の小沢共同代表も「北朝鮮か中国の党大会のようで不安を感じた」と語った。民進党も「品がない」(幹部)と問題視しており、野党側は衆院議院運営委員会などで抗議する方針だ。
「異常な光景」「北朝鮮か中国の党大会のようで不安を感じた」「品がない」と感じたのかまでは、読売新聞は報じていない。
私はネットで「拍手」の部分だけを見たのだが、やはり「異常」だと感じた。「恐怖」を感じた。
なぜか。その理由を書く。
人がだれかに敬意を表して拍手をするということは、ある。それ自体は、異様ではない。つられて拍手をすることもある。でも、そういうとき、その拍手をされる相手が私の目の前にいる。そういうときだ。
目の前にいないときも、もちろん、ある。たとえばテレビでオリンピック中継を見ている。水泳の男子800メートルリレー。日本チームが銀メダルを獲得した。わっ、すごい。思わず、拍手をしたくなる。多くの人と一緒に見ていたら、みんなで一緒に拍手をするだろうなあ。
これが現実ではなく、たとえば映画「ベン・ハー」。戦車レースのシーン。チャールトン・ヘストンが落ちそうになるのに耐えて、戦車にもどる。後ろでは敵(?)の戦車が壊れる。ここで観客から拍手が起きる。
これは「目の前」に「現実」があるわけではないが、同じ時間を共有しているので、思わず「自分の肉体」が反応し、それが「拍手」にかわるのだ。
ところが、演説を聞いているとき、目の前には自衛隊員らはいない。安倍は、演説の中で言っているように、確かに「夜を徹して、そして今のこの瞬間にも」「任務にあたっています。極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って、任務を全う」しているだろう。けれど、その「緊張感」「責任感」を、「映像」かなにかで「共有」しているわけではない。安倍は「緊張感」「責任感」というが、それがどんなものか「ことば」でも「共有」しているわけではない。(それが「ことば」で具体的に描写されるわけではない。)だから、「拍手」が「共感」として、つたわってこない。一緒に「拍手」する気持ちになれない。
「拍手」というのは、称賛しているということを相手に伝えるものである。だから、その称賛を伝えたい相手が目の前にいることが「大前提」である。
ここから、安倍の演説と自民党議員の態度を見ていくと、自民党議員は自衛隊員らに「拍手」を送っているのではなく、安倍に「拍手」を送っていることになる。実際、ネットの映像で見たとき、私は、その「拍手」が自衛隊員らに送られているのではなく、安倍に向けておくられていると感じた。
感動で思わず手を打ち鳴らし、それがそのまま拍手に変わっていくというようなものではない。
さらに、安倍の「拍手」の映像が、とても奇妙だった。「敬意」を表しているようにはとても思えなかった。縁談で「拍手」をしているが、それは「拍手」を誘う(強要する)ような感じである。「いま/ここ」にいない自衛隊員に向かって真剣に拍手をしている(リオにいる選手に思わず拍手を送る)というような感じ、我を忘れた、他者と自己を同化して真剣になってしまったという感じではなく、「ちゃんと起立して拍手しているか、おれは見ているぞ」と議席を「点検」する目つきなのだ。
「おれがおまえたちを当選させてなったんだ、拍手しろよ」という感じでもある。安倍の「自画自賛」に自民党議員が追従している感じ。
それが、気持ちが悪い。
自民党議員の中で起立しなかった人、拍手しなかった人がいるのか、いないのか。読売新聞には書かれていない。「造反者」がいなかったとしたら、それはそれで、こわい。「民主主義」とは「多様性」が原則であり、「多様性」というのは「批判」を同時に含んでいる。だれも、安倍の「拍手の強要」に対して疑問も持たずに従ったのだとしたら、これは、おそろしい。自民党は「民主主義の党」では、ない。安倍「独裁」の党である。党を独裁支配し、それをそのまま国民に押し広げる。あの、議席を見渡す安倍の目つきは、そのままあすは国民一人一人に向けられるのである。
*
所信表明演説で気になった点をいくつか。「憲法改正」について触れた部分の、
決して思考停止に陥ってはなりません。互いに知恵を出し合い、共に「未来」への端を架けようではありませんか。
「思考停止」というのは、「第九条」を絶対視する、憲法は変えてはならないという主張を批判してのことばだが、そう「批判」するとき、安倍の方も「思考停止」に陥っていないか。「第九条」を変えなければ日本の安全は守れない、アメリカに押しつけられた憲法ではなく、独自の憲法でなければならない、というところで「思考停止」状態になっていないか。この憲法のおかげで七十年間、日本は戦争をせずにつづいてきた、という「事実」を見落としていないか。「未来」を語るときは、同時に「過去」も丁寧に点検すべきである。今回の演説には「未来」ということばがしきりに出てくるが、「過去」を掘り起こすという真摯さ、過去から学ぶ姿勢がない。
「一億総活躍/働き方改革」の柱「同一労働同一賃金」についても疑問を書いておく。安倍は、こう語っている。
同一労働同一賃金を実現します。不合理な待遇差を是正するため、新たなガイドラインを年内を目途に策定します。必要な法改正に向けて、躊躇することなく準備を進めます。「非正規」という言葉を、みなさん、この国から一掃しようではありませんか。
安倍がこう語るとき「同一労働同一賃金」とは、どういうことを指しているのだろうか。「同一労働同一賃金」の「名目」のもとに「ノルマ」が厳しく設定されることはないのか。「ノルマ」を達成できない労働者の賃金は、そのために切り下げられるということはないのか。「非正規」をなくすために、どうするのか。全員を「正規」にするために、ある部署を「子会社化」し、その「子会社」で「正規社員」として雇用する。「子会社」を設置するとき、そこでの「賃金」を一気に引き下げる。「子会社」で「ノルマ」を厳しく管理しなおし、「同一労働同一賃金」を実現する。
どんなことも「実現」には「具体的方法」がある。所信表明演説では「具体的方法」までは語らない。
定年引き上げに積極的な企業を支援します。意欲ある高齢者の皆さんに多様な就労機会を提供していきます。
というのも「ことば」は美しいが、裏を返せば、年金支給は七十五歳からにする。だから、それまでは「働け」ということかもしれない。「多様な就労機会」というのは働き手の少ない職場ならいつでも就労させるということかもしれない。
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このブログで連載した「自民党憲法改正草案を読む」をまとめたものです。
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