ジェームズ・バンダービルト監督「ニュースの真相」(★★)
監督 ジェームズ・バンダービルト 出演 ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード
映画は、ブッシュ大統領の「軍歴詐称」報道をめぐる「裏話」。しかし、そこで明かされるのは、ブッシュに軍歴詐称があったかどうかではない。それはわきにおいておいて、ひとは何を真実と思い、思い込んだ真実を証明するために何をするか、が描かれている。ケイト・ブランシェットはブッシュの軍歴に疑問を感じ、それを証明しようとする。ブッシュ支持派はその報道に疑問を感じ、報道が「誤報」であることを証明しようとする。
結果的にケイト・ブランシェットの「過失」が描かれるのだが、うーん、緊迫感がときどき欠ける。
ロバート・レッドフォードのせいである。ロバート・レッドフォードは「真実」をニュースのアンカーマン。自分で直接「真実」を掘り起こすのではなく、ケイト・ブランシェットが掘り起こしてきた「真実」をインタビューをつうじて補強するという役どころなのだが。
どうも、存在が「借り物」っぽい。
まあ、「役どころ」が、自分で「真実」を掘りあてるというのではないから、そうなってしまうのかもしれないが、どうも「軽い」。
「借り物」っぽく感じてしまうのは、「顔」のせいである。年齢を重ねて生まれる「表情」がない。もともと「表情」にとぼしい役者だとは思うが、最近は、特に「表情」が乏しい。深みがない。重みがない。こんな顔でニュースを読まれたら、とても「真実」とは感じられない。
途中にハリケーン報道が出てくるが、あの「お天気おじさん」くらいなら、まあ、いいかなあとは思うのだが。
なぜ、「借り物」というか、嘘っぽく感じてしまうのか。たぶん、「整形」のせいである。どうみても不自然な顔である。目がとても不自然である。目に昔の面影がない。頬もしわがない。目と頬が、アンバランスである。髪も、前髪(生え際)がかつらっぽいなあ。口元は昔の面影を残しているが……。
で、なぜか、ブッシュの「軍歴」が詐称であるかどうかよりも、ロバート・レッドフォードが整形しているかどうか、その真相をはっきりさせてくれないかなあ、整形の「証拠」のようなものが、どこかにないかなあ、と思ってしまうのである。
先に「整形疑惑(?)」を解決してくれないことには、「ニュースの真相」を追いかける気持ちになれない。
ケイト・ブランシェットが、とても生々しいだけに、よけいにそういうことを感じる。
で、「映画」の感想になるのか、ならないのか、よくわからないが。
ひとり頑張っているケイト・ブランシェットの「生き方」で、私が共感するのは「質問をする」という姿勢である。「質問」だけが、世界を変えていくという信念である。この信念をケイト・ブランシェットは強烈に演じている。映画では「質問」という「字幕」になっていたが、私は「疑問」と思って映画を見た。「疑問」というのはソクラテスが対話をはじめるときの出発点にしたものだ。「疑問」が民主主義の出発点、権力の暴走を押しとどめる力だと思っている。
「真実」などというものは、たぶん、「わからない」。誰もが自分が「真実」と思いたいものを真実と断定する。その断定された真実に「疑問」が入り込む余地がないか。ニュースは「真実」をつたえなければならないが、同時にそこに「疑問」があるということもつたえなければならないのではないか。「疑問」を報道することも、ニュースの責任ではないかと、私は感じている。「疑問」を「批判」という形にととのえ直して、真実の照明を求めるというのは報道の仕事だと思うが、そういう報道が少なくなってきていることに対して、私はとても不安を感じている。
この映画では、「疑問」への「立証」、ブッシュが軍歴を詐称しているのではないかという「疑惑」を証明することを、疑問を感じた人に対して求めている。これは「疑惑」だけで他人を批判すれば「名誉棄損」になるからだ。それはそうなのだが、ブッシュのように「権力の座」にいる人間は、疑問を抱かれたら、それに対して「反証」する責任があるのではないかとも思う。この映画で言えば、正確な、空白のない「軍歴証明書」を提出する責任はブッシュにあるのではないかと思う。「軍歴詐称」の「根拠」とした文書が偽造されたものだから、ブッシュに「軍歴詐称」はない、とはならないと思う。あくまで、その文書を根拠に「軍歴詐称」と断定できないというだけのことである。「軍歴」への疑問はのこりつづける。
「疑問」はまた「批判」でもある。「批判/疑問」を封じたまま、報道されるものは、「宣伝」にすぎないと思う。
でも、これは映画の中の、ケイト・ブランシェットに寄り添いすぎた感想になるのかな? ロバート・レッドフォードを見ていると、「疑問」を追及するという感じがなかなかつたわってこない。「真実」を発見した、という喜びもつたわってこない。
(KBCシネマ1、2016年09月04日)
*
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映画は、ブッシュ大統領の「軍歴詐称」報道をめぐる「裏話」。しかし、そこで明かされるのは、ブッシュに軍歴詐称があったかどうかではない。それはわきにおいておいて、ひとは何を真実と思い、思い込んだ真実を証明するために何をするか、が描かれている。ケイト・ブランシェットはブッシュの軍歴に疑問を感じ、それを証明しようとする。ブッシュ支持派はその報道に疑問を感じ、報道が「誤報」であることを証明しようとする。
結果的にケイト・ブランシェットの「過失」が描かれるのだが、うーん、緊迫感がときどき欠ける。
ロバート・レッドフォードのせいである。ロバート・レッドフォードは「真実」をニュースのアンカーマン。自分で直接「真実」を掘り起こすのではなく、ケイト・ブランシェットが掘り起こしてきた「真実」をインタビューをつうじて補強するという役どころなのだが。
どうも、存在が「借り物」っぽい。
まあ、「役どころ」が、自分で「真実」を掘りあてるというのではないから、そうなってしまうのかもしれないが、どうも「軽い」。
「借り物」っぽく感じてしまうのは、「顔」のせいである。年齢を重ねて生まれる「表情」がない。もともと「表情」にとぼしい役者だとは思うが、最近は、特に「表情」が乏しい。深みがない。重みがない。こんな顔でニュースを読まれたら、とても「真実」とは感じられない。
途中にハリケーン報道が出てくるが、あの「お天気おじさん」くらいなら、まあ、いいかなあとは思うのだが。
なぜ、「借り物」というか、嘘っぽく感じてしまうのか。たぶん、「整形」のせいである。どうみても不自然な顔である。目がとても不自然である。目に昔の面影がない。頬もしわがない。目と頬が、アンバランスである。髪も、前髪(生え際)がかつらっぽいなあ。口元は昔の面影を残しているが……。
で、なぜか、ブッシュの「軍歴」が詐称であるかどうかよりも、ロバート・レッドフォードが整形しているかどうか、その真相をはっきりさせてくれないかなあ、整形の「証拠」のようなものが、どこかにないかなあ、と思ってしまうのである。
先に「整形疑惑(?)」を解決してくれないことには、「ニュースの真相」を追いかける気持ちになれない。
ケイト・ブランシェットが、とても生々しいだけに、よけいにそういうことを感じる。
で、「映画」の感想になるのか、ならないのか、よくわからないが。
ひとり頑張っているケイト・ブランシェットの「生き方」で、私が共感するのは「質問をする」という姿勢である。「質問」だけが、世界を変えていくという信念である。この信念をケイト・ブランシェットは強烈に演じている。映画では「質問」という「字幕」になっていたが、私は「疑問」と思って映画を見た。「疑問」というのはソクラテスが対話をはじめるときの出発点にしたものだ。「疑問」が民主主義の出発点、権力の暴走を押しとどめる力だと思っている。
「真実」などというものは、たぶん、「わからない」。誰もが自分が「真実」と思いたいものを真実と断定する。その断定された真実に「疑問」が入り込む余地がないか。ニュースは「真実」をつたえなければならないが、同時にそこに「疑問」があるということもつたえなければならないのではないか。「疑問」を報道することも、ニュースの責任ではないかと、私は感じている。「疑問」を「批判」という形にととのえ直して、真実の照明を求めるというのは報道の仕事だと思うが、そういう報道が少なくなってきていることに対して、私はとても不安を感じている。
この映画では、「疑問」への「立証」、ブッシュが軍歴を詐称しているのではないかという「疑惑」を証明することを、疑問を感じた人に対して求めている。これは「疑惑」だけで他人を批判すれば「名誉棄損」になるからだ。それはそうなのだが、ブッシュのように「権力の座」にいる人間は、疑問を抱かれたら、それに対して「反証」する責任があるのではないかとも思う。この映画で言えば、正確な、空白のない「軍歴証明書」を提出する責任はブッシュにあるのではないかと思う。「軍歴詐称」の「根拠」とした文書が偽造されたものだから、ブッシュに「軍歴詐称」はない、とはならないと思う。あくまで、その文書を根拠に「軍歴詐称」と断定できないというだけのことである。「軍歴」への疑問はのこりつづける。
「疑問」はまた「批判」でもある。「批判/疑問」を封じたまま、報道されるものは、「宣伝」にすぎないと思う。
でも、これは映画の中の、ケイト・ブランシェットに寄り添いすぎた感想になるのかな? ロバート・レッドフォードを見ていると、「疑問」を追及するという感じがなかなかつたわってこない。「真実」を発見した、という喜びもつたわってこない。
(KBCシネマ1、2016年09月04日)
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