詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(56)

2019-02-13 09:30:47 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
56 セレウキデスの不興

過去の栄光をよりどころとしたデーメートリオスの誇り高い理想主義とプトレマイオスの現実的政治性の対比。

 と池澤は書いている。最終蓮がプトレマイオである。

この際、贅を尽くす必要は毛頭ないのだ。
彼は傷んだ服を着てつつましくローマに入り、
ある職人の小さな家に宿を借りた。
それから不運にみまわれ続けた
貧しき者という姿で元老院におもむき、
より効果的に乞うところを訴えたのだった。

 ここにも「つつましく」ということばが出てくる。カヴァフィスは「つつましさ」が好きだったのだろう。快楽の追求も、きっとつつましいものだったに違いない。どこかで自分自身を抑制している。
 「ある職人」というのは、原文ではどうなっているか知らないが、この「ある」は不定冠詞の「ある」だろうなあ。あえていえば「名もない職人」。そういう人は、きっと「つつましく」生きている。そこに立ち寄ったのは、もしかすると、自分の「つつましさ」がほんとうにつつましいものであるかどうか、それを確認するためだったかもしれない。傷んだ服を着て、つつましくしているつもり。でも、王家のひとり。どこかに、つつましさとは別なものが出ているかもしれない。それを消すために、名もない職人の家へ行った。それは自分をもう一度整えるためだろう。
 「つつましさ」とは自分をきちんと整えることでもある。

 カヴァフィスは自分を整え続けた詩人だったのだろう。





カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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