詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(68)

2019-02-25 10:12:42 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
68 アティールの月に

わたしは苦労して 古代の石碑の文字を読む。
《主[な]るイエス・キリスト》次はどうやら《た[ま]しい》
《アティール[の]月に》《レウキオ[ス]は永[眠し]た》

 古い墓碑銘なので文字が欠けている。それを補いながら読んでいる。
 「レウキオ[ス]」の「ス」を補っているところに私は注目した。ギリシャ人の名前を知っているわけではないが、ソクラテス、アリストテレス、アルキメデス……男の名前は「ス」で終わるものが多い。女の名前はすぐに思い浮かばないので何とも言えないが、「レウキオ*」という人がいるかもしれない。それでもカヴァフィスは「ス」をつけることでそこに眠る人を男にしたのだ。(女の墓碑銘というのは、昔はなかったかもしれないが。)
 池澤は、

レウキオスは架空の人物で、この碑銘も実在するわけではない。

 と書いている。
 だとすれば、なおのこそカヴァフヘスは男の墓碑銘を詩にしたかったのである。そして、こう書きたかったのだ。

いくつかの単語は拾える-- たとえば《我[ら]が涙》、《悲しみ》
その下にもう一度《涙》そして《友[人]たる我[々]の嘆き》
どうやらこのレウキオスは 大層愛されていたようだ。

 「涙」が繰り返されている。「悲しみ」と「嘆き」も繰り返しといえるかもしれない。カヴァフィスしか書かない墓碑銘ということになる。

 池澤の訳の、「我[ら]が涙」「我[々]の嘆き」の「ら」と「々」の使い分けがとてもおもしろい。「欠字」なのだから統一してもよさそうだが、違う文字を補うことで想像が攪拌される。










カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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