詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(61)

2019-02-18 07:51:07 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
61 通過

彼の血は、若くて熱い血は
快楽を喜ばせた。彼の身体は
不法の情愛の陶酔に征服され、若々しい
四肢もそれに屈伏した。
かくして単純な若者が
我々が目を注ぐに値するようになり、詩的宇宙の
至高の点を一瞬通過するまでになった。
若くて熱い血をもつ官能的な若者が。

 前半と後半で主語が逆転する。正確には「主語」が逆転するとは言えないのだが、そういう印象がある。
 前半では「若者」は「征服される」人間である。
 ところが後半では「若者」が「我々」を「征服している」。
 詩は、「征服される/征服する」という動詞の使い方をしていない。「主語」を「若者」から「我々」に変えて、「我々が若者に目を注ぐ」という形をとっている。「目を注ぐ」を「受け身」にすると、そこに隠れていた「主語」が復活する。「若者は目を注がれた」である。
 「若者」は「陶酔に征服され、屈伏させられた。」その若者はいま「目を注がれている」。しかし、その「注がれている」は「注がせている」なのだ。「若者」はその「官能」によって、「我々を引きつけている」。
 「主語」というよりも「立場」が逆転している、というべきなのか。
 でも「主語」が逆転した、と私は言いたい。「主語」の働き方が(動詞が)、逆転したのだ。
 「征服され、屈伏している」のは「我々」である。
 繰り返される「若くて熱い血」が「主語」になって、「我々」を征服している。

 池澤の註釈。

詩人が若い頃「不法」であると思っていた官能がここに至って詩神の浄化を受けたとも考えられる。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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