詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(67) 

2019-02-24 11:19:39 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
67 イアセスの墓

しかし ナルキッソスと、ヘルメスと、目されることの多いあまり

わたしは疲れはてて、死んだ。お通りの方よ、
あなたがアレクサンドリアの方ならわたしを非難なさらぬよう。

いかなる情熱を我々が人生の至高の快楽に注ぐか、あなたはよく御存知のはず。

 この詩には不思議な「主語」の交代がある。一貫して「わたし(イアセス)」が語ってはいるのだが、途中から「お通りの方」が「主役」になる。
 そしてこのことは、読者を「読者」であることから「わたし(イアセス)」にかえてしまう効果を持っている。
 「わたし」が「わたし」のことを語っている間は、読者は「イアセス」の美貌を想像している。いわば「観客」だ。そして、もしかすると、この詩の場合、読者は「お通りの方」そのものになるのだが、この「呼びかける」という動き(動詞のあり方)が、読者である私に乗り移る。読者を「イアセス」に仕立てて、そのうえでことばが動く。
 メタ構造、と言えるかもしれない。
 「あなたはよく御存知のはず」は単なる知識として知っているのではなく、体験を通して知っている、肉体で知っているでしょう、という呼びかけである。
 呼びかけられて、私の肉体は動く。私は至高の快楽に情熱を注いだことかあるか、と。それを知っているか、と。想像はできる。だが、想像ではだめなのだ。
 ここに、詩のむずかしさがある。
 感想は、想像で語ることができる。だが、ことばを味わうには想像ではなく不十分なのである。

 池澤の註釈。

墓碑銘はそこに埋められた者が通る者に語りかけるという形を取る。これは夢幻能の手法に似ていないか。











カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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