詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(58)

2019-02-15 07:48:50 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
58 路上で

そのわずかに青ざめた好ましい顔、
ぼんやりとうつろな栗色の眼、
二十五歳だがむしろ二十歳に見える、
着るものにはどこか芸術家めいたところ
--ネクタイの色とか、襟の形とか--

 最初は「視覚」から入っていく。「青ざめた」「栗色」と色が描写される。「見える」という動詞もある。
 しかし、だんだん抽象的になっていく。
 ネクタイは「色」ということばになり、襟は「形」と表現されるだけで、「視覚」を具体的には刺戟しない。読者が想像しないといけない。
 そして、後半。

あてもなく道を歩いてゆく、
許されざる快楽の催眠術から覚めぬままに、
決して許されざる快楽の体験から。

 「許されざる快楽」が二度繰り返される。わずか八行の詩のなかで。
 ことばを繰り返すとき、カヴァフィススは、見ているのではなく「体験している」。青年になっている。その瞬間、ここに書かれていることは「自画像」になる。
 カヴァフィスは、こんなふうにことばと一体になる。

 池澤は

ここで詩人ははたして客観的な観察者なのか否か。

 と書いている。
 カヴァフィスが「客観的観察者」だったときは一度もない、と私は思う。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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