65 悦楽
中澤によれば、
その短い詩のなかでも、ことばが繰り返される。「わたしの人生の喜びと香り」。
さて、この「香り」は何の香りか。
「64 夕刻」には
カヴァフィスは聴覚の詩人であると同時に嗅覚の詩人である。「香り」を忘れない。「匂い」の方がなまなましくてカヴァフィス向きかもしれない。「強かった」という形容詞がなまなましい。
で。
「通常の恋」をどう理解するか。女性との恋ではなく、男性の恋を選んだということになるのかもしれないが、私はもう少し「誤読」を進める。絵空事というか、整えられた「同性愛」ではなく、「愛情」というよりも「欲望」を優先した恋なのだと思う。「愛」はなくてもいい、というと言い過ぎだろうが、「愛」よりも本能が望むがままの「欲望」に従うことを「通常の恋」を拒むと言っているのではないか。
「強い香り」と「最上等の寝台」の組み合わせ。下品と上品の衝突。それに通じるものが「わたしの人生の喜びと香り」「望むところ」なのだろう。
は、そういうことを明確に語っている。カヴァフィスは相手のことを思い出しているのではない。肉体の「征服感」を思い出している。「時」を思い出している。「香り」は瞬間的に肉体の中にまで入ってきて、血になって肉体のなかを満たす。エクスタシーを追い抜いてゆくメタ・エクスタシー。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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わたしの人生の喜びと香り、望むところの
快楽をみつけておのがものとした時の記憶。
通常の恋が与えてくれる楽しみを
拒んだ上での、わたしの人生の喜びと香り。
中澤によれば、
カヴァフィスが公刊した詩の中でこれは最も短かいものである。
その短い詩のなかでも、ことばが繰り返される。「わたしの人生の喜びと香り」。
さて、この「香り」は何の香りか。
「64 夕刻」には
そして、あの香りのなんと強かったこと、
身を横たえたあの最上等の寝台、
わたしたちが肉体をあずけたあの快楽。
カヴァフィスは聴覚の詩人であると同時に嗅覚の詩人である。「香り」を忘れない。「匂い」の方がなまなましくてカヴァフィス向きかもしれない。「強かった」という形容詞がなまなましい。
で。
「通常の恋」をどう理解するか。女性との恋ではなく、男性の恋を選んだということになるのかもしれないが、私はもう少し「誤読」を進める。絵空事というか、整えられた「同性愛」ではなく、「愛情」というよりも「欲望」を優先した恋なのだと思う。「愛」はなくてもいい、というと言い過ぎだろうが、「愛」よりも本能が望むがままの「欲望」に従うことを「通常の恋」を拒むと言っているのではないか。
「強い香り」と「最上等の寝台」の組み合わせ。下品と上品の衝突。それに通じるものが「わたしの人生の喜びと香り」「望むところ」なのだろう。
快楽をみつけておのがものとした時の記憶。
は、そういうことを明確に語っている。カヴァフィスは相手のことを思い出しているのではない。肉体の「征服感」を思い出している。「時」を思い出している。「香り」は瞬間的に肉体の中にまで入ってきて、血になって肉体のなかを満たす。エクスタシーを追い抜いてゆくメタ・エクスタシー。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
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