詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(65)

2019-02-22 14:43:39 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
65 悦楽

わたしの人生の喜びと香り、望むところの
快楽をみつけておのがものとした時の記憶。
通常の恋が与えてくれる楽しみを
拒んだ上での、わたしの人生の喜びと香り。

 中澤によれば、

カヴァフィスが公刊した詩の中でこれは最も短かいものである。

 その短い詩のなかでも、ことばが繰り返される。「わたしの人生の喜びと香り」。
 さて、この「香り」は何の香りか。
 「64 夕刻」には

そして、あの香りのなんと強かったこと、
身を横たえたあの最上等の寝台、
わたしたちが肉体をあずけたあの快楽。

 カヴァフィスは聴覚の詩人であると同時に嗅覚の詩人である。「香り」を忘れない。「匂い」の方がなまなましくてカヴァフィス向きかもしれない。「強かった」という形容詞がなまなましい。
 で。
 「通常の恋」をどう理解するか。女性との恋ではなく、男性の恋を選んだということになるのかもしれないが、私はもう少し「誤読」を進める。絵空事というか、整えられた「同性愛」ではなく、「愛情」というよりも「欲望」を優先した恋なのだと思う。「愛」はなくてもいい、というと言い過ぎだろうが、「愛」よりも本能が望むがままの「欲望」に従うことを「通常の恋」を拒むと言っているのではないか。
 「強い香り」と「最上等の寝台」の組み合わせ。下品と上品の衝突。それに通じるものが「わたしの人生の喜びと香り」「望むところ」なのだろう。

快楽をみつけておのがものとした時の記憶。

 は、そういうことを明確に語っている。カヴァフィスは相手のことを思い出しているのではない。肉体の「征服感」を思い出している。「時」を思い出している。「香り」は瞬間的に肉体の中にまで入ってきて、血になって肉体のなかを満たす。エクスタシーを追い抜いてゆくメタ・エクスタシー。











カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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