詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(53)

2019-02-10 08:17:04 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
53 オロフェルネス

 「四ドラクマ貨幣に描かれた」青年のことを書いている。「ほっそりして整った顔だち」で、

イオニアの素晴しい夜から夜へ、
彼はためらいもなく、まるでギリシャ人のように
快楽のすべてを学んでいった。

 いかにもカヴァフィスの詩の主人公だなあ、と感じさせる。しかし、そういう描写よりも、私は次の部分が好き。

後に、シリア人がカッパドキアに入り、
彼を王座につけると、
彼はすっかり王になりきって、
一日一日を新しいやりかたで楽しみ、
黄金と銀を貪欲に集め、
目の前に積みあげられて輝く富を
ただひたすらながめて喜んだ。

 批判が書かれているのだが、そのことばの調子が「俗っぽい」、庶民の口語そのままというのがおもしろい。
 「頭」で書いたことばではなく、「街中」で集めてきたことば、耳で聞いたことば(音)だ。
 カヴァフィスのことばは、みんな、そうである。
 引用の最初の部分「イオニアのすばらしい夜から夜へ、/彼はためらいもなく、まるでギリシャ人のように/快楽のすべてを学んでいった。」も街中で聞いたことばを整えたものにすぎない。「ほっそりして整った顔だち」という描写や、「彼はイオニアの青年の中でも/最も美しい理想の若者だった。」も同じ。
 カヴァフィスはシェークスピアのように、街中で話されていることばを集め、整えて詩にしている。「ギリシャの慣用句」で詩を書いている。「慣用句」のなかには人間の「つきあい」が隠れている。つまり「つかいこまれた人間」が生きている。
 池澤の翻訳は、「つかいこまれた人間」ではなく、「知性的な人間」のことばが前面に出てくる。それが池澤のとらえるカヴァフヘスなのだと思うが、私の感じでは、少し物足りない。
 でも、この作品では「ただひたすらながめて喜んだ。」の「喜んだ」ということばが、図太くていいなあと思う。






カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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