詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

堤美代『日の傘』

2019-12-07 22:17:45 | 詩集
堤美代『日の傘』(詩的現代叢書38)(書肆山住、2019年11月16日発行)

 堤美代『日の傘』の「招魂」。

柄杓で水を汲むように
手のひらの淵で

ホタルの青い光を
汲もうとした

おおかたは
手のひらの外の草の闇に
こぼしてしまった

 「水を汲む」という手の動きを思い出す。水が零れないようにするのだけれど、一方で上の方は開かれている。「水を汲む」は「水を閉じ込める」ではない。同じ動きがホタルをつかまえるときにも起きている。完全に閉じ込めるのではなく、開かれたところを残して、そっとつつむ。逃げるなら逃げてかまわない。
 三連目で「おおかたは」「こぼしてしまった」と書いているが、むしろ、こぼすことが目的ではなかったかとさえ思える。それはつかまえるではなく、触れ合うということにもなるだろう。手のひらに一瞬おさまる。手のひらを一瞬照らして、すーっと去っていく。来て、去っていくという「動き」こそ、堤がホタルに求めているものだとわかる。
 途中を省略して、最後。

川辺の青い水を汲むと
手のひらはもう
ホタルの青い光の記憶が泌みて
草の形に伸びているだろう

 美しいなあ、と思う。
 二連目に書かれている「草の外の闇」が、ここに静かによみがえってくる。ホタルは堤の手のひらを草の一葉と信じてやってきて、しばらくとどまり、ふたたび去っていった。川辺の水に手のひらを浸すと、青い光が動くようだ。水の感触をホタルの感触のように感じ、自分の手を草のようにも感じている。


*

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嵯峨信之『OB抒情歌』(1988)(39)

2019-12-07 10:45:31 | 『嵯峨信之全詩集』を読む
* (夕虹のような)

一枚の春のスカーフにぼくは巻き込まれた

 この「春のスカーフ」は幸福というよりは、幸福の記憶である。それは虹が消えるように消えてしまう。一瞬、美しいものを見せて。
 人は、幸福なときに、幸福な情景に出会うとは限らない。

雨の日に
遠い田舎へ帰つて行こう

 虹と春のスカーフに、嵯峨は自然を思い描く。田舎は、たぶん、虹が出なくても美しい。都会と違って。



*

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