詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嵯峨信之『OB抒情歌』(1988)(48)

2019-12-16 08:14:53 | 『嵯峨信之全詩集』を読む
* (山火事のようなものが)

あなたの眼のなかからずり落ちた
その向うに暗い海が見える

 「山火事」と「暗い海」の対比。
 「山火事(のようなもの)」が「眼のなかからずり落ちた」ために、「暗い海が見える」と書いているが、「山火事」は嵯峨にはずっと見えていたのだろうか。たぶん、違うだろう。何かのきっかけで「山火事」が見えた。それは「あなた」の怒りのようなものかもしれない。燃え上がる激情。それがおさまったあと「暗い海」が見えた。
 これは逆にとらえなおすこともできる。
 最初は「あなた」の眼のなかにあるものが何かわからなかった。「のようなもの」は、不確定さをあらわしている。「暗い海」に気づいたあと「のようなもの」が「山火事のようなもの」ということばになった。
 「暗い海」には「のようなもの」ということばがついていない。比喩なのだから、ついていてもいいのだが、ついていない。直喩と暗喩。その違いのなかにこそ、嵯峨の詩がある。






*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
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