若尾儀武「どんど焼き」(「タンブルウィード」6、2019年09月20日発行)
若尾儀武「どんど焼き」は、全行を引用すれば、もうそれだけで、感想や批評は何も書かなくていい作品である。だからこそ、私は、あえて「ぶつぶつ」に切って、感想を書く。
タモッちゃんゆうたら
いつもいつも端(はじ)にいて
こっち来(き)い
と ゆうた時だけ心持ち寄ってきて
何べんゆうても
次にはまた端に戻る
そんなところからなんぼ手ぇ
伸ばしても
温くうなれへん
方言である。というより、口語といった方がいいだろうなあ。いや、口調の方がいいかもしれない。自然にしゃべっている感じがする。しゃべるのは、ひとと近づくためである。そういうことを感じさせる、「開かれた」口調。「こっき来(き)い」というために、ひとは声を出すのだと思う。
輪をつくって座ったら
誰にでも自分の尻ぴったりの場所はある
教室の席みたいに名前はついてへんけど
タモッちゃんがおるかぎり
そこはタモッちゃんの場所で
他のひと
座られへん
そやさかい
「誰にでも自分の尻ぴったりの場所はある」。この、飾り気のないことばがいいなあ。飾り気がないけれど、あたたかい。なんといえばいいのか、きっと若尾が思いついたことばというよりも、ずーっと、そういうふうに言われてきた感じがするところがいい。
ひとに呼びかけるときの、智恵、のようなものが動いている。
飾り気がないから、「裸」の感じ。裸あたたかさとの安心感、と言い直せばいいか。
タモッちゃん
こっちに来い
正月の燃やしもん
多かろうが
少なかろうが
そんなこと
「そんなこと」のあとには「関係ない」ということばが省略されている。それを省略したまま、この詩の最終連。
カラの場所あたためて
どんなに温くうなったとしても
タモッちゃんおらんと
そこ
すうすうと
風の通り道や
ね。
私の書いてきたこと、みんな無駄でしょ?
余計なことを書かずに、なぜ、全行をそのまま引用して、この最後が好きと書けばいいのに、と怒りたくなるでしょ?
私は、これを読んでいるひとに、怒ってもらいたくて、あえて書いたのです。
詩には、「好き」というだけで充分な詩がある。
好きと感じたら、どうしてもそれを自分で独占したくなる。俗なことばで言うと、ツバをつけたくなる。「これ、私のだからね」と。ちょっとツバつけるだけでは不安になって、ぺろりと舐めてみせたくもなる。
9月に出た雑誌なので、すでに誰かがどこかで批評しているかもしれないけれど、私はあえて「これ、私のだからね」と、遅ればせながらツバをつけておくのである。ツバつけたくらいじゃ、横取りされるかもしれないけれどねえ。
他のひとにも食べてもらいたい。
でも、やっぱりひとりで独占したい。
そういう「矛盾」した気持ちを誘う、とてもいい詩だ。
ていねいにつくられた菓子のように、そこには新しくはないけれど、繰り返されてきたものだけがもっている美しさがある。「口調」のなかには、そのひとの暮らしをつらぬくものが生きている。思想がある。--と、余分なことを書いておく。
ツバつけというよりも、ひとかじりしておく、ということだね。
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