詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

Estoy Loco por España(番外篇293)Obra, Joaquín Llorens

2023-02-05 22:06:15 | estoy loco por espana

Obra, Joaquín Llorens

 Tengo algo que quiero que oigas, dijo Hierro a Fuego. Tengo un secreto. Algo que no quiero que sepas.
 Tengo un verdadero yo que no puedo mostrarte.
 Un interior que, como el fuego caliente, retorcida y turbulenta por dentro.

 Tengo algo que quiero que oigas, dijo Fuego a Hierro. Tengo un secreto. Algo que no quiero que sepas.
 Tengo una forma real que no puedo mostrarte.
 Un exterior que, como el hierro frío, se hincha y retuerce con el deseo.

 EL Hierro, EL Fuego, tengo una cosa que no sabéis, dijo Escultor.
 Estáis realmente SOLO. Anheléis vuestra angustia y teméis vuestro placer.
 Yo seré Martillo que dé forma a vuestras contradicciones.
 
 El poeta dice. He visto lo que no debería haber visto. Una escultura que cambia de forma de un momento a otro. Cuando pensaba que el interior repelía la luz, el exterior la desliza. ¿Se movió la luz o se movió la luz? Si escuchas con atención, podré oír cómo se seduce el viento. Una sola nota, una melodía compleja.


 君に、聞いてもらいたいことがある、と鉄は炎に言った。私には秘密がある。君には知られたくないことだ。
 私には、君に見せることができない本当の姿がある。
 熱い炎のように、ねじまがって、乱れる内面だ。

 君に、聞いてもらいたいことがある、と炎は鉄に言った。私には秘密がある。君には知られたくないことだ。
 私には、君に見せることができない本当の姿がある。
 冷えた鉄のように、欲望にうごめき、ねじまがる外面だ。

 鉄よ、炎よ、君たちには、君たちの知らないことがある、と彫刻家は言う。
 君たちは、ほんとうはひとりなのだ。自分の苦悩に憧れ、愉悦を恐れている。
 私は君たちの矛盾に形を与えるハンマーになる。
 
 詩人は言う。私は見てはいけないものを見てしまった。瞬間ごとに形を変える彫刻。内側が光を撥ね生え返していたかと思うと、外側が光を滑らせている。光が動いたのか、光を動かしたのか。耳を澄ませば、風をそそのかす声が聞こえる。一音の、複雑なメロディーが。

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マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール「サアディの薔薇」ほか

2023-02-05 15:58:57 | 現代詩講座

マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール「サアディの薔薇」ほか(朝日カルチャーセンター、2022年01月30日)

 マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール「サアディの薔薇」を読んだ後、受講生の咲く日を読んだ。
 「サアディの薔薇」には中原中也の訳と、高木信宏の訳がある。

今朝私は薔薇を持つて来ようと思ひ
あんまり沢山帯に挟まうとしましたから
結び目は固くなり、挟みきれなくなりました。

結び目はやがても千切れて、薔薇は風に散り、
海の方までもいつてしまひました。
そしてもう、二度と帰つて来ませんでした。

波はそのために赤くなりました。炎えてゐるやうでした。
今宵、私の着物はまだその匂ひが匂つてをります……。
せめてその匂ひを、吸つてください。               (中原中也訳)

あなたに今朝、薔薇を摘んできたかった。
でも締めた帯にあまりにたくさん挿したので、
きつく締まりすぎた結び目はもう持ちきれませんでした。

結び目ははじけました。薔薇は風の中に
舞い上がり、みな海に向かい飛び去りました。
薔薇は水を離れず、もう戻ってはきません。

波は花で真っ赤になり、燃えたつよう。
今宵、私の着物はまだその香りで匂い立っています。
どうぞ私のそばにきて芳しい思い出を吸い込んでください。     (高木信宏訳)

 受講生の全員が中原の訳の方が好きだという。私は、かなり驚いた。ここに描かれる女性の年齢は何歳くらいだと思うか、と質問したら、今度は全員が三十歳くらい。これにも、驚いてしまった。
 中也の訳に好感を持った理由を聞いてみた。どのことばが印象に残ったかを聞いてみた。最終行の「匂ひを、吸ってください」がいい、と全員が言う。やわらかい感じ。薔薇の花に存在感があり、朝から晩までの時間の流れと薔薇の変化が重なる。薔薇に、象徴性を感じる。
 私は、別の角度から、ことばにこだわって質問してみた。「二人の訳のなかで、自分ならつかわないということばがあるかな?」
 こういう質問は、たいがいの受講生がとまどう。特にむずかしい(日常的にはつかわない)ことばがあるわけではないから、「自分はつかわない」という意識がなかなか生まれないのだと思う。それが著名な詩人の訳となれば、その訳に「違和感」を持つことに抵抗があるのかもしれない。
 しかし、私はだれの作品を読んでも、あ、このことばは私はつかわない。私と作者はここが違う、と感じ、そこから詩の読み方を変えていく。
 「中也は、結び目はやがても、海の方までも、と書いている。この『も』の意味は? こういう『も』をつかう?」
 「『も』には強い感情がこもっている」
 「では、高木の訳の『水を離れず』は?」
 「薔薇に意思があるように感じる」
 「摘んできたかった、の『きたかった』は?」
 「ことばが、中也に比べて強い」
 中也の訳とは、たぶん、「摘んできたかった」「水を離れず」という部分が決定的に違う。それが、最終行に端的にあらわれている。高木の訳は、「直接性」が強い。「密着性」が強い。これは、やわらかくない、ということでもある。
 問題の最終行は、

Respires-en sur moi l'odorant souvenir        

 私はフランス語をほとんど知らないのでいい加減なことを書くのだが「en」は場所や時をあらわす。しかも、特に特定の場所を、時間をさすわけではなく、「場所/時」が存在する「そこ」という感じ。「sur moi 」というのは「私の上」。かなり、なまなましい。セックスで言うと、肌と肌が触れ合って(直接接触して)いる感じがする。
 中也の訳には、この「直接性」がない、と私は思ってしまう。「souvenir」ということばは出てくるが、なにか、「思い出」というよりも、いま、そこで蠢いている「欲望」を、「いま」を私は感じてしまう。高木の訳の方が、この「露骨な欲望」を隠していておもしろいと思う。
 中也も高木も「着物」ということば(訳語)をつかっている。ここに、私は、とてもつまずいてしまった。原文は「robe」。一般的には「ドレス」と訳すと思う。中也も高木も「ドレス」ということばを知っていると思う。なぜ「着物」と訳したのか。「帯」と訳しているのは「ceintures 」(複数)である。「ドレスの帯(ベルト)」なら「複数」は変だなあ、と私は思う。(ファッションのことは知らないが。)
 私はフランス人ではないし、フランス人の友人もいないので確かめようもないのだが、この詩で書かれている「robe」は「部屋着」ではないのか。もっと言うと「寝間着」なのではないのか。そして、「せめてその匂ひを、吸ってください」、あるいは「どうぞ私のそばにきて芳しい思い出を吸い込んでください」というのは、夜の訴えではないのではないのか。
 つまり、女は、前の夜(というか、朝まで)、別の男といた。朝になって、薔薇を持って、別の男のところへ行く。(もしかすると、同じ男のところにもどる。)昨夜までの自分とは違う私を抱いて、あるいは違う前の(つまり思い出の)私を抱いてと言っているのかもしれない。
 「熱愛」の詩であるかもしれないが、「若い娘の純愛」ではない。私の感じでは、どんなに若くても五十歳は過ぎている女のことばだと思った。中也の訳は、若すぎる、と感じた。
 詩だから、もちろん、「正解」はない。
 ことばをどう読むかは、読者の自由。そのとき、大切にしてほしいと思うのは、「自分のことば」と「作者のことば」の違いである。「違い」を見つけないことには、詩人にほんとうに「出会う」ことはできない。「違い」を見つけて、そのあと「違い」があっても共通する部分があるのを発見し、「共感」が動く。

雪景色  杉惠美子

いつか見た
合掌造りの家並みの
真冬の旅の暖かさ
冬は荒れて
白の美しさを際立たせ
風も荒れて
雪を美しく描く
荒れ狂うという
おのれにいつか会ったなら
幻想的なまでに
それは美しいのだと
いつか自分に言ってやろう
荒れ狂って 閉じ込められて
やっと 解放され動き始める時がくる
赤い椿の花が咲いた
白い椿の花も咲いた
ようやく大きく育つ冬が来た

 真ん中付近にある「荒れ狂うという」ことばが強烈である。「冬」が「荒れ狂う」のか「おのれ」が「荒れ狂うのか」。どちらか、はっきりわからない。両方なのだろう。この曖昧性(二重性)を「改行」がつくりだしている。この行の「改行」の仕方が、とてもおもしろい。「荒れ狂う」からこそ「大きく育つ」が強く響く。「大きく育つ」のは何か。椿か。「おのれ」か。そういうことを考えさせてくれる。

氷片  青柳俊哉

氷片がふる 時のない空のうえから 
高架のうえを 宇宙船が飛翔する 
高速で走りすぎる 氷の車の形象のように

ひらきはじめた芙蓉の花に指をふれる 
わたしがふれられている 柔らかく
しっとりしているわたしたち

駅へむかうひとの 心の円錐の底へ
童子の面立ちがまう 風景があふれだして
生家と銀木犀のドームが空へひらかれる

金属的な響きを立て 氷片の中を
通過してくる意識の朝 時とものを離れ
世界がうまれかわるために

 「時のない空のうえから」。私は、ここにまずつまずいた。私は、こうは書かない、と思った。言い直すと、この書き方の中に、青柳がいると感じた。「空」はすでに「上」である。その「うえ」から、氷片がふる。私の知らない「うえ」を青柳は見ている。認識している。(もちろん「空のうえから」は、空という上の方から、なのかもしれないが。)

               2023 1.28   木谷 明

話しかける
ということは
聞いている
ということ  そうか

声が
きこえて
ほほえむのは
胸が
ふるえたから

この高木に十九羽のひながとまってくれる
ということは
会えている
ということ

雪が降ったら
手のひらで
溶かす

 「十九羽のひな」。この具体性がおもしろい。他の受講生からも「なぜ十九羽なのか、数えたのか」という質問が出た。小鳥ではなく「ひな」というのもおもしろい。「話しかける/ということは/聞いている/ということ」という「矛盾」を結合する一連目もいい。「矛盾」と思うとき、私のこころが動き始めている。どんなときでも、こころが動き始める瞬間がいい。

サナギ  永田アオ

冬の夜
葉っぱの裏や
石の下には
蝶になりたい
サナギたちが
春を待って
眠っている

春になったら
蝶になって
黄色い蝶になって
水平線を
めがけて飛んでいくんだ
その日を夢見て眠っている

冬の夜
葉っぱの裏や
石の下には
水平線になりたい
サナギたちが
春を待って
眠っている

 「黄色い蝶になって」が効果的だ。この行を中心にして「蝶になりたい」(一連目)と「水性線になりたい」(三連目)が結びつく。つまり、永田は「蝶になって、水平線まで飛んでゆき、水平線になりたい」と思っていると感じるのである。対称でありながら、対称が破られている。その「破る力」として、永田が存在している。そういうことを感じる。

悲しいときは  池田清子

悲しいときは
悲しいままに

悲しいときは

0 3 8 6
2 5 9
1 7 4
丸いの
半分丸いの
丸くなりたくないの

私は 4が好き
小学校に上がったとき
一年四組だったからかも

 最初に読んだとき、三連目が何を書いてあるのかわからなかった。ところが、受講生は全員が「数字の形」を分類しているのだと気がついて、感想を語った。へえーっ。私は「数字」に形があるとは思っていなかった。

 

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毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

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Estoy Loco por España(番外篇292)Obra, Sanchez Garcia Jose Luis

2023-02-05 10:37:54 | 詩集

Obra, Sanchez Garcia Jose Luis
Pueblo de la Sierra de Madrid.  55 x 46 cms

Bodegón con paloma. 46 x 38 cms

Rincón de La Ría - Bilbao.  41 x 33 cms

 ¿Qué pinta Sanchez? Pueblo en la sierra de Madrid. Palomas y flores (jarrón) y otras sobre una mesa. Pero no siento que exista realmente allí. Estuvo allí una vez. Pero ahora no existe allí. Sólo quedan los colores. 
 El panorama del estuario es más sorprendente. Tengo la impresión de que los diques y los barcos seguirán siendo sombras en el agua, incluso después de que los diques y los barcos hayan desaparecido. La presencia puede desaparecer, pero el color permanece. La presencia llega hacia los colores que están ahí. 

  Sanchez は何を描いているのだろうか。マドリッド郊外の山の中の村。テーブルの上の鳩と花(花瓶)その他。だが、私には、それはほんとうにそこに存在するようには感じられない。かつて、そこにあった。しかし、いまはそこにない。ただ色だけが残っている。 河口の絵はもっと印象的だ。右手前の堤防やボートは、堤防やボートが消えても影だけは残り続けるのではないかという印象がある。そこにある色に向かって存在ややってくる。存在は立ち去っても色が残る。そう感じてしまう。

 

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