詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池井昌樹「何処か」

2023-02-21 12:17:24 | 詩(雑誌・同人誌)

池井昌樹「何処か」(「森羅」29、2023年03月09日発行)

 池井昌樹「何処か」の全行。

このよのどこか
モーツァルトのほねがある
あるときそれをかんがえる
どんなかなしいこころより
かなしいほねが
このよのどこか
きっとある
こころがくらくしずむとき
どうしようもなくしずむとき
このよでも
あのよでもない
わたくしの
こころにもないどこからか
ほのぼのと
またたきかける
ほねがある

 「ほのぼのと」か……。
 前に出てくる「くらくしずむとき」の「くらく」に対して言えば、その反対の「明るさ」、うっすらした明かりになるし、「かなしい」「さびしい」を手がかりにして読めば「やわらかな温かさ」になるかもしれない。
 池井は、それを静かに結びつけている。
 静かな明るさ、静かな温かさ、かすかな明るさ、かすかな温かさと言ってもいいかもしれない。
 そうすると、それは、もしかすると「明るさ/温かさ」というよりも、「静かな/かすかな」の方が大切な要素かもしれない。
 「ままたき」に通じるのは、「明るい/温かな」ではなく、「静かな/かすかな」だろう。
 詩を貫いているのは、この「静かな(静かに)/かすかな(かすかに)」だろう。
 骨には、明るさ、温かさは、似合わないと私は感じる。だから、よけいに、そう思う。
 三行目にことばを補って読んでみる。

あるときそれを「静かに/かすかに」かんがえる

 そうすると

静かに/かすかに
またたきかける
ほねがある

 とつながる。
 この詩には、そういう、静けさ、かすかな感じがあふれている。同じことばが何度も繰り返され、激しく動いていかないところにも、「静かな/かすかな」ものを感じる。
 ピアニッシモもよりもっと小さな「音」。それは「聞こえてくる」のではなく、むしろ「聞き出す」音であり、音楽である。聞かない限り、聞こえない音が、この詩を貫いている。
 「モーツァルトのほね」という、非常に印象的な、鋭い音ではじまっているので、(また「ほねがある」という強い音でおわっているので)、この静けさ、かすかさは、その激しい音に隠されてしまいそうだが、だからこそ聞こえてくるのを待つのではなく、読者が聞きに行かなければならないのである。
 と書くと「書きすぎ」になるが、ぜひ、この静かな、かすかな音を多くの人に聞き取ってもらいたいので、ついつい書いてしまった。

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする