池井昌樹「何処か」(「森羅」29、2023年03月09日発行)
池井昌樹「何処か」の全行。
このよのどこか
モーツァルトのほねがある
あるときそれをかんがえる
どんなかなしいこころより
かなしいほねが
このよのどこか
きっとある
こころがくらくしずむとき
どうしようもなくしずむとき
このよでも
あのよでもない
わたくしの
こころにもないどこからか
ほのぼのと
またたきかける
ほねがある
「ほのぼのと」か……。
前に出てくる「くらくしずむとき」の「くらく」に対して言えば、その反対の「明るさ」、うっすらした明かりになるし、「かなしい」「さびしい」を手がかりにして読めば「やわらかな温かさ」になるかもしれない。
池井は、それを静かに結びつけている。
静かな明るさ、静かな温かさ、かすかな明るさ、かすかな温かさと言ってもいいかもしれない。
そうすると、それは、もしかすると「明るさ/温かさ」というよりも、「静かな/かすかな」の方が大切な要素かもしれない。
「ままたき」に通じるのは、「明るい/温かな」ではなく、「静かな/かすかな」だろう。
詩を貫いているのは、この「静かな(静かに)/かすかな(かすかに)」だろう。
骨には、明るさ、温かさは、似合わないと私は感じる。だから、よけいに、そう思う。
三行目にことばを補って読んでみる。
あるときそれを「静かに/かすかに」かんがえる
そうすると
静かに/かすかに
またたきかける
ほねがある
とつながる。
この詩には、そういう、静けさ、かすかな感じがあふれている。同じことばが何度も繰り返され、激しく動いていかないところにも、「静かな/かすかな」ものを感じる。
ピアニッシモもよりもっと小さな「音」。それは「聞こえてくる」のではなく、むしろ「聞き出す」音であり、音楽である。聞かない限り、聞こえない音が、この詩を貫いている。
「モーツァルトのほね」という、非常に印象的な、鋭い音ではじまっているので、(また「ほねがある」という強い音でおわっているので)、この静けさ、かすかさは、その激しい音に隠されてしまいそうだが、だからこそ聞こえてくるのを待つのではなく、読者が聞きに行かなければならないのである。
と書くと「書きすぎ」になるが、ぜひ、この静かな、かすかな音を多くの人に聞き取ってもらいたいので、ついつい書いてしまった。
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