詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(6)

2023-02-14 20:50:28 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「野蛮人を待つ」。いつの時代か。正字が頽廃している。だからこそ、敵が攻めてくる。それを待っているのだが、やって来ない。

「さあ、野蛮人抜きで わしらはどうなる?

 「野蛮人」だから、そこには蔑視が含まれている。しかし、憧れもある。野蛮な力は、破壊する力である。
 その野蛮人と対比される「わしら」。
 「わし」には何か自己卑下の響きがある。そして、それにつながる「ら」にと、十把一絡げの響きがある。
 「私たちはどうなる?」「我々はどうなる?」では、群衆(市民)の印象が違ってくる。
 「わしら」が「無力」をくっきりと浮かび上がらせる。それは「帝国」の無力ともつながる。「帝国」が無力なのか、「国民」が無力なのか。両方である。

 

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小池昌代『くたかけ』

2023-02-14 11:07:28 | その他(音楽、小説etc)

 

小池昌代『くたかけ』(鳥影社、2023年01月26日発行)

 小池昌代『くたかけ』は、15の章で構成された小説。「1 麦と佐知」を読んだだけだが、感想を書いておく。

 海の方角に面した窓が、一斉にがたがたと激しく鳴った
「わっ、地震?」麦が驚き、佐知はとっさに、キッチンに吊り下がっているペンダントライトを確かめた。少しの揺れもなく、静かである。

 強風のために窓が音を立てたのだが、なんだかわけのわからない「キッチンに吊り下がっているペンダントライト」が、しばらくしてこういう描写のなかによみがえってくる。

 総じてぶらさがっているモノには、落下の予兆が呼ぶ緊張感があって、その危うさが、空間に独特の美しさを広げる。床と天井とのあいだ、不安定な中空にとどまるものは、葡萄の房にしろ、室内のライトにしろ、佐知にとっては見飽きない魅力がある。今はおとなく吊り下がってはいても、いつ吊り紐が切れ、電球がテーブルを直撃し、食卓の秩序が破壊して家族がばらばらになっても、ふしぎはない。(略)佐知はそこに自分の心までもが吊り下げられているように感じ、何も起きていない日常を、束の間の均衡にふるえる奇跡のように思った。

 ああ、うまいなあ、と思った。「落下」「予兆」「緊張感」「秩序」「破壊」「均衡」「奇跡」という抽象的なことばが、今後の展開を予想させる。読まずにこんなことを書いていいのかどうか悩まないでもないが、きっと、ここに書かれている抽象的なことばが日常の変化をとおして展開するのだろう。
 意地悪く言うと、ここまで読めば、あとは「斜め読み」してもストーリーは把握できる。そういう小説だろう。
 しかし、私があえて、そういう「予想」を書くのは、小説は(あるいは文学はと言い直してもいいが)、ストーリーを読むものではないと考えているからだ。
 いま引用した文章で私が注目するのは、実は、今後を予想させる抽象的なことばの凝縮度ではない。「葡萄の房」である。突然、葡萄が出てくる。そして、そのことが全体を豊かにしている。「葡萄の房にしろ」という一文は、なくても「意味」は通じる。だから、「葡萄」の一節は、ある意味では「余剰」なのだが、その「余剰」が世界を押し開いていく。
 「葡萄の房」がどんなふうに形をかえてあらわれるのか。それを楽しみに読むという方法があると思う。

 

 

 

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