詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

Estoy Loco por España(番外篇303)Obra, Fidel Vidal Pérez

2023-02-20 22:09:42 | estoy loco por espana

Obra, Fidel Vidal Pérez 

 El blanco del vestido de una mujer. Aún no hay forma. Sólo hay luz blanca. No llegaría a ser un color todavía.
 Me recuerdo.
 En pleno verano, en cuanto salgo de casa oscura, la luz me abruma y cierro los ojos involuntariamente. Justo antes de cerrar los ojos, veo colores dispersos, fragmentos de colores destrozados en mi campo de visión, sin perspectiva. Poco a poco, abro los ojos y reúno estos fragmentos de color, para que coincidan con mi memoria, para recrear la forma.
 Al ver el cuadro de Fidel, recuerdo ese momento. La sensación de reorganizar el mundo para que encaje con mi memoria. El mundo está ahí sin tener que hacerlo. Pero si no lo reordeno, el mundo podría seguir destrozado. Es una sensación como si estuviera intoxicado por la luz.
 Incluso el traje negro del hombre aún no se ha convertido en un color debido a la intensidad de la luz; tal vez sea la luz antes de convertirse en un color lo que Fidel retrata.

 女のドレスの白。そこには、まだ形がない。ただ白い光だけがある。それは色にさえなっていない。
 私は思い出す。
 夏の盛り、家から外に出た瞬間、光に圧倒されて思わず目をつぶる。その瞬間に、散らばった色、遠近感がないまま、視野に砕け散った色の断片を見る。少しずつ目を開き、その色の断片を、記憶に合わせるように少しずつ集めて、形を再現する。
 Fidel の絵を見て思い出すのは、その瞬間だ。記憶に合わせて、世界をもう一度整え直すという感覚。そんなことをしなくても、世界はそこにある。しかし、整えなおさないと世界は砕け散ったままかもしれないという酔ったような感覚。
 男の黒いスーツさえ、光の強さのために、まだ色になっていない。Fidel が描くのは、色になる前の光なのかもしれない。

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(8)

2023-02-20 21:16:52 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(8)

 「声」は「死者の声」をテーマにしている。「私を捨てた人」だかけれど、私は思い出す。「ことば」ではなく、「声」を。そしてその「声」には「音調」がある。その「声/音調/音楽」を聞く瞬間を中井久夫は、こう訳している。

わが人生の最初の詩から帰ってくる。

 もちろん訳詩なのだから、そのことばはカヴァフィスが書いたものがもとになっているのだが、この一行は、訳詩の「間接性」を感じさせない。つまり、完全にカヴァフィスになって「声」を発している。
 それを印象づけるのが「わが人生の最初の詩」。
 この「わが人生の最初の詩」とは、いつ書いたものか。「私を捨てた人」に出会う前か、「私を捨てた人」に出会ったときか。出会う前にいくつも詩を書いていたとしても、出会ったあとに書いた詩が「わが人生の最初の詩」である。「私を捨てた人」に出会うことで、カヴァフィスの「人生」ははじまったのだ。
 中井久夫の「訳詩」、詩の翻訳者としての人生は、カヴァフィスの詩を訳すことではじまったと私は感じている。
 「帰ってくる」ということばも、とても強い。カヴァフィスが「思い出す」のではなく、「思い出す」という意識を超えて、「帰ってくる」。それは、詩人には制御できない何かである。ちょうどインスピレーションのように。詩のように。

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