来住野恵子『天使の重力』(書肆山田)を読む。表題詩におもしろいことばがある。
この詩集は、来住野が出会ったものにもう一度出会う詩集である。それも、ことばで。見るのでも聞くのでも触れるのでもない。ことばで語り直すとき、来住野はかけがえのないものと出会い直す。一期一会の出会い、その瞬間の自己生成(つまり変身)----それが来住野の「詩」である。
この出会いを来住野は同じ作品のなかで、別の表現で語っている。
来住野は詩集のなかでしばしば音楽について語っている。この連もそうしたもののひとつであるが、私がおもしろいと感じたのは「心は空(から)に満ち」という表現である。おそらくここに思想がある。思考の根っこがある。
この「空(から)」は来住野の外部にあるのではない。外部にある「空」に来住野のこころを満たすのではない。むしろ逆に、こころを空にする。「無」になる。「裸」になる----言い換えるなら、「に」は「で」、つまり「こころは空(くう)で満ち」ということになろう。
来住野の表現は、いわば矛盾に満ちている。そして、その矛盾のなかにこそ、思想がある。
こころが空(くう)で満たされるとき、つまり来住野が何ものでもないもの(無)として存在するとき、「限りないもの」(神、と言い換えると言い過ぎだろうか)は来住野のこころに触れる。そして、その瞬間に音楽がうまれる。
来住野が「無」であるとき、「はじめて」音楽が誕生する。
「神」ととりあえず書いたが、実は、これは「神」でなくていい。なんでもいい。来住野以外の明確な存在が来住野の無のこころに触れ、その瞬間、音楽になる。
音楽とはものとものとが触れ合って、いままでそこに存在しなかったもの(新しい音)として生成する、その運動である。
それはひとつの暗喩である。
来住野はある存在と出会う。そしてそのとき来住野のこころが「空」なら、その存在は固定観念にとらえられた存在ではなく、まったく新しい姿を見せるだろう。その姿を見つめながら、来住野も今までの来住野ではなくなる。存在と出会うことで、存在と一緒に来住野自身が新しく生成する。
だからこそ「一期一会」という。
そして、その「一期一会」の描写が「もう一度会おう/言葉で」という「あいさつ」となっている。
来住野の作品が「抽象的」だとすれば、そうした「出会い」(生成)が、深く思想と関係しているからだろう。
もう一度会おう
言葉で
この詩集は、来住野が出会ったものにもう一度出会う詩集である。それも、ことばで。見るのでも聞くのでも触れるのでもない。ことばで語り直すとき、来住野はかけがえのないものと出会い直す。一期一会の出会い、その瞬間の自己生成(つまり変身)----それが来住野の「詩」である。
この出会いを来住野は同じ作品のなかで、別の表現で語っている。
眼を閉じて
音合わせを使用
裸(ラ)は
たましいの開放弦
触れる指先のほの昏いちから
心は空(から)に満ち
限りあるものは
限りないものに奏でられ
はじめて音楽になる
来住野は詩集のなかでしばしば音楽について語っている。この連もそうしたもののひとつであるが、私がおもしろいと感じたのは「心は空(から)に満ち」という表現である。おそらくここに思想がある。思考の根っこがある。
この「空(から)」は来住野の外部にあるのではない。外部にある「空」に来住野のこころを満たすのではない。むしろ逆に、こころを空にする。「無」になる。「裸」になる----言い換えるなら、「に」は「で」、つまり「こころは空(くう)で満ち」ということになろう。
来住野の表現は、いわば矛盾に満ちている。そして、その矛盾のなかにこそ、思想がある。
こころが空(くう)で満たされるとき、つまり来住野が何ものでもないもの(無)として存在するとき、「限りないもの」(神、と言い換えると言い過ぎだろうか)は来住野のこころに触れる。そして、その瞬間に音楽がうまれる。
来住野が「無」であるとき、「はじめて」音楽が誕生する。
「神」ととりあえず書いたが、実は、これは「神」でなくていい。なんでもいい。来住野以外の明確な存在が来住野の無のこころに触れ、その瞬間、音楽になる。
音楽とはものとものとが触れ合って、いままでそこに存在しなかったもの(新しい音)として生成する、その運動である。
それはひとつの暗喩である。
来住野はある存在と出会う。そしてそのとき来住野のこころが「空」なら、その存在は固定観念にとらえられた存在ではなく、まったく新しい姿を見せるだろう。その姿を見つめながら、来住野も今までの来住野ではなくなる。存在と出会うことで、存在と一緒に来住野自身が新しく生成する。
だからこそ「一期一会」という。
そして、その「一期一会」の描写が「もう一度会おう/言葉で」という「あいさつ」となっている。
来住野の作品が「抽象的」だとすれば、そうした「出会い」(生成)が、深く思想と関係しているからだろう。