詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

堀江敏幸『河岸忘日抄』(2)

2006-03-04 22:13:49 | 詩集
 堀江敏幸『河岸忘日抄』は詩で書かれた散文である。

カウンター用スツール----座面、合成皮革、黒、二脚。冷蔵庫----ジーメンス社、小型、白、使用済み。冷凍庫----ジーメンス社、白、使用済み。ガスレンジ----炉ジェール社、三つ口、ブタンガス使用。(略)(35ページ)

 たとえば、その品物の羅列。それはなんの変哲もない備品の羅列のようでいて、それを超える何かだ。生き方をつたえる実質だ。「使用済み」ということばさえ、静かで深い時間をたたえている。具体性をおろそかにしないというのは、その存在とともにある時間をおろそかにしないということだ。存在が語るどんな小さな囁きも聞き逃さない、ということだ。
 備品のリストがつくりだす、静かで確実な存在。そうした静けさと確かさ、それがこの作品の基調である。
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