監督 ポール・グリーングラス 出演 マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン
今回のすの演出は、あまりさえない。ハンドカメラを駆使して戦場の臨場感を伝えようとしているのだが、動きがはでになった分だけ緊密感に(あ、こんなことばはないかな?)に欠ける。
「ユナイテッド93」「ボーン・アルティメイタム」(特に新聞記者が殺害されるまでの駅のシーン)が非常におもしろかったのは、そこに「日常」があったからだ。「ユナイテッド93」では起きていることそのものは非日常だけれど、携帯電話で家族と話す、あるいは航空管制が右往左往するという日常があった。「ボーン・アルティメイタム」では、事件(?)を知らないひとが駅を埋めつくし、ふつうに暮らしているという日常があった。異常なことのすぐそばに日常がある。その対比が映像に緩急をつくりだしていた。
今回は、そういう日常がない。
戦場だから日常などありうるはずがない--ということかもしれないが、いや、待てよ、と思う。イラクの国民全員が戦争に参加しているわけではない。アメリカが侵入してきて、かってに戦争を引き起こしている。軍人以外に、民間の抵抗勢力がいるかもしれない、テロリストがいるかもしれない。けれどは、国民の大半は、日常生活をしている。そういうひとが登場しない。そのために、非日常(戦争)が浮いてしまう。現実感覚をなくしてしまう。
たしかに戦場は生半可な気持ちでは生きてはいけない場所だろうけれど、それは最前線の、敵と味方が戦闘を繰り返しているようなかぎられた場所である。破壊兵器を隠している場所は、なんといっても「隠し場所」なのだから、日常でなければならない。弾薬庫ではないのだから。また、将軍が隠れる場所も「隠れ場所」なのだから、日常でなければならない。
日常が戦争に、日常がマット・デイモンの動きに絡みついてこないことには、その場の空気は緊密したものにはならない。ハンドカメラで不安定な映像をつないでみても、それはあくまで非日常、戦場だけの緊迫感であり、そんなところで観客(私だけかな?)は、はらはら、どきどきはしない。あ、予告編と同じじゃないか、と思ってしまうだけである。
日常(異常を知らないひとびと)と非日常の接点でこそ緊迫感は高まる、ということをポール・グリーングラスは熟知しているはずである。だからこそ、マット・デイモンが登場する最初のシーンに、市民の「略奪」が描かれているのだ。マット・デイモンは、そこに大量破壊兵器が隠されていると信じて行動している。ところが市民はそんなことは知らない。ただそこにあるものを奪う、略奪するという「日常」を生きている。そして、その「日常」を隠れ蓑に、テロリスト(あるいは反米勢力? ないしは抵抗勢力?)が襲いかかってくる。
いま、ここで、隠されている兵器が爆発したらどうなるんだ、という「不安」をマット・デイモンは知っている。そして観客も知っている。しかし、市民は知らない。このアンバランスが、緊迫感の決め手なのである。
おもしろいのは、ここまでである。
あとは、非日常に非日常が積み重ねられていくだけである。イラク人通訳がかろうじてイラクの日常、市民の怨念のようなものをスクリーンに持ち込むのだけれど、単なる脇役である。(最後に、主役を「ことば」で演じるけれど。)
そしてイラクの「日常」がからみつくかわりに、アメリカ政府の「陰謀」がからみついてくる。マスコミ操作がからみついてくる。CIAがからみついてくる。あ、それはもしかするとアメリカの「日常」かもしれないけれど、市民感覚の「日常」ではない。それは、エンターテインメントの「日常」である。物語、ストーリーの「日常」、いいかえると「常套手段」である。
映画の後半に起きることは、上手に(?)映像化されればされるほど、それは「うそ」そのものになる。戦場の緊迫感ではなく、戦場というストーリーの緊迫感になりさがってしまう。
映像はどんどん過激になって、予告編でも使われたし、タイトルの文字のデザインにも流用されている車のガラスが銃撃を受け飛び散るシーンは、あ、美しい、と思わずうなってしまうけれど、ねえ、そんなもんが緊迫感かねえ、とも思ってしまうのである。
映画だから、どうせマット・デイモンは死なない、と安心してしまうのである。だから、あ、美しい映像--というような、とんでもないことを感じてしまう。
これが「ユナイテッド93」の場合はまったく逆だったなあ。飛行機が墜落し、全員が死ぬのは「事実」として知っている。結末はわかっている。それにもかかわらず、これって映画でしょ? 映画だったら、もしかすると、最後は全員が助かるんじゃない? 頑張れ、頑張れ、頑張れ、と出演者を応援してしまうんだなあ。
ポール・グリーングラスさん、次はちゃんと日常を映像化し、非日常と緊密に組み合わせてくださいね。
今回のすの演出は、あまりさえない。ハンドカメラを駆使して戦場の臨場感を伝えようとしているのだが、動きがはでになった分だけ緊密感に(あ、こんなことばはないかな?)に欠ける。
「ユナイテッド93」「ボーン・アルティメイタム」(特に新聞記者が殺害されるまでの駅のシーン)が非常におもしろかったのは、そこに「日常」があったからだ。「ユナイテッド93」では起きていることそのものは非日常だけれど、携帯電話で家族と話す、あるいは航空管制が右往左往するという日常があった。「ボーン・アルティメイタム」では、事件(?)を知らないひとが駅を埋めつくし、ふつうに暮らしているという日常があった。異常なことのすぐそばに日常がある。その対比が映像に緩急をつくりだしていた。
今回は、そういう日常がない。
戦場だから日常などありうるはずがない--ということかもしれないが、いや、待てよ、と思う。イラクの国民全員が戦争に参加しているわけではない。アメリカが侵入してきて、かってに戦争を引き起こしている。軍人以外に、民間の抵抗勢力がいるかもしれない、テロリストがいるかもしれない。けれどは、国民の大半は、日常生活をしている。そういうひとが登場しない。そのために、非日常(戦争)が浮いてしまう。現実感覚をなくしてしまう。
たしかに戦場は生半可な気持ちでは生きてはいけない場所だろうけれど、それは最前線の、敵と味方が戦闘を繰り返しているようなかぎられた場所である。破壊兵器を隠している場所は、なんといっても「隠し場所」なのだから、日常でなければならない。弾薬庫ではないのだから。また、将軍が隠れる場所も「隠れ場所」なのだから、日常でなければならない。
日常が戦争に、日常がマット・デイモンの動きに絡みついてこないことには、その場の空気は緊密したものにはならない。ハンドカメラで不安定な映像をつないでみても、それはあくまで非日常、戦場だけの緊迫感であり、そんなところで観客(私だけかな?)は、はらはら、どきどきはしない。あ、予告編と同じじゃないか、と思ってしまうだけである。
日常(異常を知らないひとびと)と非日常の接点でこそ緊迫感は高まる、ということをポール・グリーングラスは熟知しているはずである。だからこそ、マット・デイモンが登場する最初のシーンに、市民の「略奪」が描かれているのだ。マット・デイモンは、そこに大量破壊兵器が隠されていると信じて行動している。ところが市民はそんなことは知らない。ただそこにあるものを奪う、略奪するという「日常」を生きている。そして、その「日常」を隠れ蓑に、テロリスト(あるいは反米勢力? ないしは抵抗勢力?)が襲いかかってくる。
いま、ここで、隠されている兵器が爆発したらどうなるんだ、という「不安」をマット・デイモンは知っている。そして観客も知っている。しかし、市民は知らない。このアンバランスが、緊迫感の決め手なのである。
おもしろいのは、ここまでである。
あとは、非日常に非日常が積み重ねられていくだけである。イラク人通訳がかろうじてイラクの日常、市民の怨念のようなものをスクリーンに持ち込むのだけれど、単なる脇役である。(最後に、主役を「ことば」で演じるけれど。)
そしてイラクの「日常」がからみつくかわりに、アメリカ政府の「陰謀」がからみついてくる。マスコミ操作がからみついてくる。CIAがからみついてくる。あ、それはもしかするとアメリカの「日常」かもしれないけれど、市民感覚の「日常」ではない。それは、エンターテインメントの「日常」である。物語、ストーリーの「日常」、いいかえると「常套手段」である。
映画の後半に起きることは、上手に(?)映像化されればされるほど、それは「うそ」そのものになる。戦場の緊迫感ではなく、戦場というストーリーの緊迫感になりさがってしまう。
映像はどんどん過激になって、予告編でも使われたし、タイトルの文字のデザインにも流用されている車のガラスが銃撃を受け飛び散るシーンは、あ、美しい、と思わずうなってしまうけれど、ねえ、そんなもんが緊迫感かねえ、とも思ってしまうのである。
映画だから、どうせマット・デイモンは死なない、と安心してしまうのである。だから、あ、美しい映像--というような、とんでもないことを感じてしまう。
これが「ユナイテッド93」の場合はまったく逆だったなあ。飛行機が墜落し、全員が死ぬのは「事実」として知っている。結末はわかっている。それにもかかわらず、これって映画でしょ? 映画だったら、もしかすると、最後は全員が助かるんじゃない? 頑張れ、頑張れ、頑張れ、と出演者を応援してしまうんだなあ。
ポール・グリーングラスさん、次はちゃんと日常を映像化し、非日常と緊密に組み合わせてくださいね。
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