詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

マイケル・グランデージ監督「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」(★)

2016-10-18 12:04:21 | 映画
監督 マイケル・グランデージ 出演 コリン・ファース、ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、ガイ・ピアース

 作家と編集者。編集者によって作家はどうかわるか。予告編ではおもしろそうだったのだが。
 アメリカが舞台なのに、イギリス人とオーストラリア人が出ている。まあ、英語だからいいのかな? よくわからない。
 わかるのは、ジュード・ロウがやたらとしゃべること。これがうるさい。おおげさである。そのために、「小説」というものが感じられない。
 「小説」っぽいのは、ニコール・キッドマンの感情かなあ。自分がめんどうを見てきたのに、コリン・ファースにジュード・ロウを盗られてしまう。「盗まれた」というのが、実感なのだろうなあ。そのために怒りまくる。これは、なかなかおもしろい。この「激情」タイプの女と、ことばを洪水のようにあふれさせることで精神の統一を保っている小説家、それなのにことばを削除するよう迫る編集者というのは、興味深い関係だ。この関係は、ニコール・キッドマンを主役にして、ジュード・ロウを助演に、さらにコリン・ファースを脇にひっこめる。狂言回しというのか、ストーリーの展開を促す訳に徹底させるとおもしろくなるかもしれない。
 この監督は、映画は「人間」こそが主役である、ということを見逃している。
 「小説」を編集する、といっても「余分なことば」をつぎつぎに削除させる、というのは、あくまでも「ことば」の世界なので、よほどことばに精通していないとおもしろくない。「ことば」と「肉体」が交錯しない。単なる「紙の上」の線、いらない部分への斜線の記入になってしまう。
 だから。(だから、でいいのかどうか……。)
 この映画で唯一「演技」をするのは、コリン・ファースの「帽子」ということになってしまう。コリン・ファースはいつでも帽子をかぶっている。仕事場でもそうだが、家に帰って家族と食事をするときも帽子を脱がない。あれは「頭を下げない」という宣言なのだ。編集者は「黒子」のようなもの、コリン・ファースは「裏方」と言っていたが(字幕では)、それは口先のこと。自分こそが「主役」と思っている。自分こそが「作家」と思っている。
 それが、ラストシーン。
 死んでしまったジュード・ロウから手紙が届く。病院のベッドで書いたものだ。それを読むとき、コリン・ファースが「帽子」をとる。頭を下げる。ジュード・ロウの、こころからのことばに出会い、自分が主役である、と言っていられなくなる。まあ、「人間宣言」のようなものである。
 でも、このシーン、感動的であるはずなのに、あまり感動しない。それまで人間のドラマが丁寧に描かれていないからだ。だからこそ、言うのである。これはニコール・キッドマンを主役にして、捨てられた女、言わば「寝取られ女房」という視点から映画にすると傑作になるぞ、と思うのである。ラストの「脱帽」も単にジュード・ロウへの思いというよりも、ニコール・キッドマンへの思い、さらにはコリン・ファースの家族への、「許してくれ」「ありがとう」に変わるのである。裏方の力、美しさが、突然「主役」として浮かび上がるだろう。
 うーん、リメイクしたい、という欲望をそそる映画である。
                        (2016年10月16日、天神東宝4)


 *

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自民党憲法改正草案を読む/番外32(情報の読み方)

2016-10-18 11:23:37 | 自民党憲法改正草案を読む
「生前退位」有識者会議。
               自民党憲法改正草案を読む/番外32(情報の読み方)

 天皇の「生前退位」について審議する「有識者会議」が始まった。2016年10月15日読売新聞(西部版・14版)から、気になる点を取り上げる。
 一面の見出し。「生前退位 8項目検討/有識者会議が初会合」。その8項目は、こう整理されている。

①憲法における天皇の役割
②天皇の国事行為や公的行為のあり方
③高齢となった天皇の負担軽減策
④摂政の設置
⑤国事行為の委任(臨時代行)
⑥天皇の生前退位
⑦生前退位の制度化
⑧生前退位後の天皇の地位や活動のあり方

 私が気になるのは「④摂政の設置」である。「生前退位」の意向表明があったのは、何度か書いてきたが、天皇の側に官邸側(安倍)が「摂政ではだめなのか」と持ちかけたことがあるからだ。天皇は「摂政」を置いても、天皇は死ぬまで天皇である、だからダメ、と答えている。そのことを明確にするために「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)」があった。天皇は「天皇の務め」を「象徴」ととらえていて、「摂政」では「天皇の務め」はなくならないと言っている。このとき「天皇の象徴としての務め」とは「国事行為」よりも「公的行為」の方である。たとえば被災地の訪問、被災者への激励とか、地方を見て回るとかである。
 「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じて来ました。皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行おこなって来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。」
 天皇は、こころをこめて、そう語っている。高齢になると、そういうことを果たすのがむずかしくなる、と嘆いている。「国事行為」については、こういうこころのこもったことばを語っていない。
 このことは二面の「「公的行為」の整理 焦点」という記事に書かれている。
 「天皇の務め」をそういうものと考えるからこそ「摂政ではダメ」と言っている。それなのに、「生前退位」の項目の前に「摂政の設置」が検討される。「摂政の設置」を決めてから「生前退位」を審議するということだろう。この「摂政の設置」へのこだわりに、私は、安倍の強い意思を感じる。今回の一連の動きが、天皇の動きというよりも、安倍の主導した動きに見えてしまう。
 安倍は、天皇が国民と「直に」接触し、そこに「信頼関係(?)」のようなものができると、安倍が国民を支配することができにくくなると考えているのかもしれない。
 安倍の有識者会議での「あいさつ」(13面)に、次のことばがある。

 今上陛下が現在82歳とご高齢であることも踏まえ、公務の負担軽減党を図るため、どのうようなことができるのか、今後様々な専門的な知見を有する方々のご意見もしっかりとうかがいながら、静かに議論を進めてまいりたいと考えている。

 「公務の負担軽減」の「公務」をどう定義するか、むずかしいが、天皇が国民との直接接触を「公務(象徴としての務め)」と考えていることを踏まえると、安倍は、それを「負担軽減」ということばをつかって遮断しようとしている、そのために何ができるかを模索している。「公的行為のあり方」を二番目のテーマにしていることも、天皇と国民との接触を遮断しようとするために、「公的行為」を減らすという「結論」を出したいからだろう。先に「公的行為(国民との直接接触)」を減らし、天皇が公の場に出てくるのを阻止するために何ができるか考える。そのために「有識者会議」を利用しようとしていると、私には読めてしまう。
 天皇の国民との接触を重視する考え、そこにこそ「象徴としての務め」があるのと考えに対して、読売新聞(編集委員 沖村豪)は、びっくりするようなコメントを付け加えている。

 こうした考えは、お言葉で断られてように「個人」としてのものだ。

 これは、「象徴天皇」の「定義」は国が決めることであって、天皇が決めることではない、ということ。天皇がどう定義しようが、それは関係がない、ということ。言い換えると、天皇が国民との接触を求めても、それに配慮する必要はない、ということ。さらに言えば、これは天皇と国民の接触を「分断」しようとする安倍の思いを代弁しているように見える。
 私の意見では、憲法を尊重し、遵守しようとする天皇は、日本でもっともラディカルな人間である。その姿勢は安倍の政策と全く反対である。護憲派の天皇が国民と接触を強めるというのは、安倍にとっては苦々しいことなのだろう。

 少し論点がずれてしまったか……。

 別な角度から「摂政の設置」の問題を見てみる。摂政の設置については、憲法第五条では

皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。

 つまり、「摂政の設置」は「皇室典範」に従わなければならない。「生前退位」と「摂政の設置」をきちんと法的に整理しようとするならば、どうしても皇室典範の改正が必要になる。けれど、安倍は今回の「生前退位」を「皇室典範」の改正とは切り離して、「特例法」で対処しようとしている。当然、「特例法」で「摂政」が設置されるなら、それは「皇室典範」とは関係のない「摂政の設置」、「皇室典範」にしばられない「摂政」、言い換えると、安倍にとって都合のいい「摂政」ということになる。
 そういう「都合」のために、安倍は天皇を「生前退位」させようとしている。この「都合」を露骨に語っているのが、「政府、平成30年譲位を視野」という記事である(一面)。最初から「特例法」「平成30年譲位」が安倍によって決められていて、その「アリバイ」のために「有識者会議」が開かれているのである。

 さらに別の角度から。
 「特例法」に安倍がこだわるのはなぜか。「皇室典範」そのものの改正に目を向けないのはなぜか。二面には「女性・女系天皇 議論せず」という見出しと記事がある。天皇が退位するということは、「天皇」がだれかに「継承」されるということである。どうしたって、「継承」という問題を審議しなくてはならないはずである。そのとき「女性・女系天皇」の問題も出てくるはずである。
 しかし、

皇室典範改正の方向となれば、安倍首相が慎重な女性・女系天皇の容認や女性宮家創設というテーマにも触れざるを得なくなり、「議論が収拾できなくなる恐れもある」(自民党幹部)という懸念もある。

 このときの「議論が収拾できなくなる」とはどういうことだろうか。会議のメンバーにまとめる能力がないということか。そういう問題をまとめられないメンバーを選んだということだろうか。どうして有識者会議のメンバーの議論の行方を予測できるのだろうか。これは、もし有識者会議で皇室典範の改正を議論し、小泉時代のときのように「女性・女系天皇を容認」という「結論」が出てしまうと、安倍がそれに反対し(小泉のときがそうだった)、「収拾がつかなくなる」ということではないのか。これは逆に言えば、安倍の意向に沿った「結論」を出すメンバーを選んだということの「証拠」でもある。
 「有識者会議」はお飾りにすぎない。安倍が「結論」を国民に押しつけるときの「アリバイ」づくりにすぎない。
 安倍は「有識者会議」で、次のようにも語っている。

国家の基本に関わる極めて重要なことがらであり、予断を持つことなく十分に審議をいただき、国民の皆様の様々な意見を踏まえ、提言をとりまとめていただけるよう、よろしくお願いします。

 「予断を持つことなく」というのは、簡単に言いなおせば、安倍が望んでいる考え方以外は審議するなということだろう。たとえば「女性・女系天皇」については審議するなということだろう。「予断」というのはだれにでもある。「予断」は自分と違う意見にであったとき、議論を通して否定/訂正していくものである。それは「静かに議論を進めていく」ということではなく、侃々諤々と対話することである。「静かに」進む議論というのは「結論」が決まっている議論である。
 「予断を持つことなく」というのであれば、「生前退位」の問題を「特例法」で処理するのか、皇室典範を改正するのか、ということろからはじめなければならない。「皇室典範改正」という方向に議論が動いてしまえば時間がかかりすぎるというのは、これもまた「予断」にほかならない。自分の都合にあわないことを、人は「予断」といいたがるものである。他人の意見を聴きたくない(排除する)ときに、「静かに」議論する、というのである。
 「決まっている結論」への過程で、どれだけ安倍の「野望」が見えてくるか。報道は、どうそれを伝えるか。そのことを見ていきたいと思う。






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