詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

田口三舩「ことば躍らせて」

2016-11-15 10:20:29 | 詩(雑誌・同人誌)
田口三舩「ことば躍らせて」(「SUKANPO」22、2016年11月11日発効)

 「獣/けもの/ケモノ」。きのう読んだ谷元益男の作品に「獣/けもの」が出てきた。何を指しているか、よくわからなかった。田口三舩「ことば躍らせて」には「ケモノ」が出てくる。これは、どうか。

ガリ ガリ
荒れ野に逃げ込んだ
ちっちゃなケモノたちを
追いかけている音だ
ガリ ガリ
姿かたらの見えない
イノチをかき集めては
凍りついたこころを
蘇らせようとしている響きだ

ガリ ガリ
鉄筆を振るい
一瞬を永遠に
永遠を一瞬に凝縮して
ちっちゃなケモノたちの
その姿かたちを
岩肌のこころに
刻み込もうとしている叫びだ
ガリ ガリ
ことば躍らせて

 「ちっちゃなケモノたち」はウサギでもキツネでもない。ネズミでもない。しかし、ウサギ、キツネ、ネズミであってもいい。いや、すべてが「ひとつ」になったもの。「姿かたち」の特定できないもの。名前のないものである。「荒れ野」も同じ。「荒れ野」と呼ばれているだけで、特定の場所ではない。「ケノモたち」のいる「場」であり、また「ケモノ」たちそのもののことでもある。「荒れ野」と「ケモノたち」は同じもの。「イノチをかき集め」た何か。同時に、「ケモノたち」を「追いかけている私(田口)」そのもの。区別はない。「凍りついたこころ」であり、「(こころを)蘇らせようとしている私(田口)」でもある。すべてが融合していて、瞬間瞬間に「生まれてくる」存在である。
 比喩/象徴と言い換えてもいい。具体的な存在ではない。「ここにある」。しかし、「ここにあることば」では言い表わすことのできない何か。「存在」というよりも、「運動」が次々に生み出す「道」のようなものかもしれない。「追いかける」ときだけ、あらわれてくる。「追いかける」ものにしか見えない「ケモノ」「荒れ野」「イノチ」。
 「姿かたちの見えない」の「見えない」が比喩/象徴のあり方なのである。「見えない」けれど、いま、田口には「聞こえている」。「響き」が。別の詩人なら逆に「聞こえない」、けれど「見える」と言うかもしれない。「肉体」のある器官は存在をはっきりと認識できる。けれど別の器官は認識できない。その「矛盾」のようなものが比喩/象徴といえるかもしれない。
 これを田口は追いかけ、捕まえようとしている。ことばで。このとき、捕まえるのは「ケモノたち」であり、田口自身だ。

ガリ ガリ
鉄筆を振るい

 ことばは「抽象」ではない。ガリを切る手の動きである。鉄筆が文字を刻み込むときの抵抗感である。ガリガリという音を聞く耳である。増えていく文字を見つめる目である。「肉体」を総動員して追いかけている。その「肉体」の動きこそが「ことば」だ。
 ことばが何を捕まえたのか、よくわからない。わからないけれど、逃がしたくない。だから「刻む」のだ。「岩肌のこころに」という一行は、洞窟に描かれた狩りをする人間の姿と獣たちを連想させる。とらえられているのは「一瞬」だが「永遠」でもある。区別はつかない。
 書かれている「内容」は抽象的なのに、書かれている「肉体」は具体的である。だから身に迫ってくる。

 区別できない何か。それを追いかけ、ことばにし、ことばを消えないように刻む。
 昔、ガリ版で同人誌をつくっていたことを思い出す。みんなガリ版を切っていた。池井昌樹も、私も。印刷も自分でしていた。製本も自分でした。あのときの熱に浮かされたような感じが蘇ってくる。
 池井昌樹は手書きのコピーを閉じた「森羅」を創刊したばかりだが、手作りの本はいい。田口の詩誌はガリ版、手書きのコピーではないが、表紙を含めて8ページの薄いもの。自分自身のことばを書き残すための最小限の形といえるかもしれない。
 こういう「ちいさな」本が、なぜか、とてもうれしい。そこには「イノチ」がぎっしりとつまっている。一行一行から「イノチ」が飛び出してくる。



詩集 能泉寺ヶ原
田口 三舩
榛名まほろば出版
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千人のオフィーリア(メモ16)

2016-11-15 01:00:34 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ16)

眠りがまだ幼い少女だったころ、
木の舟に乗って月の川を流れるオフィーリア。
櫂もなく、流れのママにただひとり。
一本の木の下をくぐるとき、
水の向こうへ行ってしまった母の夢が乗り込み、
ゆっくり戻ってくる。
この岸辺。

さあ、左手を出してごらん。
重ねてごらん。
太陽の丘から見下ろす感情の川。
木星が水源の知能の川。
金星の丘にそってカーブする命の川。
知っているかい?
感情と知能の川を横断していく運命の川があることを。




*

詩集「改行」(2016年09月25日発行)、残部僅少。
1000円(送料込み/料金後払い)。
yachisyuso@gmail.com
までご連絡ください。
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