詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

渡会やよひ「水の位相」、高橋優子「隠されたとき」

2016-11-23 18:02:01 | 詩(雑誌・同人誌)
渡会やよひ「水の位相」、高橋優子「隠されたとき」(「POIAAON」41、2016年11月発行)

 渡会やよひ「水の位相」は静かな詩である。

薄明の静寂の中で声が聞こえた
「水はいりませんか」
病棟であれば空耳も目覚めの理由にはなる
消え入りそうな声の方に目をやると
セミの羽のようなうすみどりの制服の後ろ姿が
透きとおりながら
仄暗い廊下を移動していくところだった

 三行目「病棟であれば空耳も目覚めの理由にはなる」。自己を見つめ返す視線が「静さ」の理由かもしれない。現象を(対象を)見つめる。現象に感覚をとぎすますだけではなく、現象のなかに自分を組み込む。理性の力。
 六行目「透きとおりながら」という一行は、「制服の後ろ姿」と書かれているにもかかわらず、詩人の「後ろ姿」にも見えてくる。自分の姿として見ているように感じられる。
 他者と自己が対立しない。ざわつかない。静かである。

南の島へ短い旅をしたとき
駐車場から少しはずれた空き地に水たまりがあり
たくさんのアオスジアゲハが水を飲んでいた
風に震える羽が同じ方向を向いていて
陽光に当たると翠と青にきらめいた
あのときなぜ「死に水」という言葉を思い出したのだろう
あれから親しいひとを幾人も失ったが
「死に水」という頑是ない言葉はいまだ蝶のものである

 四行目の「風に震える羽が同じ方向を向いていて」が強い。旅のことなのに、旅行記らしい感じはない。対象を見つめるのではなく、どこでも自分を見つめるのだろう。自分に忠実な人柄が、「名所」ではないところに視線を引っぱっていく。
 蝶を見つける。見る。「同じ方向を向いていて」を発見するとき、渡会は蝶になって同じ方向を向いている。同じ方向の先に、そこにはない「死に水」が「見える」。目は「陽光にあたると翠と青にきらめいた」を見ているが、それを突き破って「同じ方向」の「先」が見える。「死に水」という「意識」が見える。
 「意識」とは、常に自分自身のものである。他人の意識がどう動いているか想像するときも、ほんとうに動いているのは想像する人の意識であって、他人の意識ではない。
 渡会は、そう感じているのだろう。



 高橋優子「隠されたとき」は少しやかましい。

地表ちかく
赤みをおびた満月が輝き
その微塵も疑いのない濃密な光のしたたりに
やがてはこの輝きに浸れぬときを
ふっと思う
輝きやめない光に 隠されたとき
だからいっそう
血の色を溶かした月に 浸る
仄温かい背に 月の影が滲み透るまで
ちょうど大切なものが 傷となって滲み入り
そのまま縫合されてゆくように

 「縫合」ということばが象徴的である。縫い合わせる。ふたつのものを「ひとつ」にする。月と私。赤と血。それぞれは「濃密」な存在である。言い換えると「別個」の存在である。決して融合はしない。「滲み透る」「滲み入る」と書きながらも、それを「縫合されていくように」と別の比喩で言いなおさないと落ち着かない。
 渡会は対象と「融合」する。しかし、高橋は対象を「縫合」する、と言える。

だが 夢のなかまでも
時は深い淵となって 暗緑の水をたたえ
底もなく 揺れうごく月を輝き映して
私をみつめ返すのだった

 「私をみつめ返す」。対象はあくまで「私」と向き合っている。「対話」がいつもある。渡会は対象を取り込み、渡会の内部で対話するのに対し、高橋は外部の存在と対話する、と言い換えることができる。

途上
渡会 やよひ
思潮社
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グローバル経済をどう読むか。(神山睦美批判)

2016-11-23 12:35:31 | 自民党憲法改正草案を読む
グローバル経済をどう読むか。
               自民党憲法改正草案を読む/番外42(情報の読み方)

 きのう(2016年11月22日、23日未明)フェイスブックの私のページと神山睦美のページで、神山睦美の「贈与論(?)」批判を書いた。そのつづきを書こうとしたら、私のページの、私の書いた記事が消えている。神山のページの、神山の文章も消えている。神山のページの文章が消える(私には読めない)のは、神山がそういう処理をしているのだろう。けれど、私が私のページに書いたものは? 神山が「削除依頼」をしたのだろうか。
 批判したひとの文章が読めなくなる(いわゆる「ブロックされる」、アクセスできなくなる)というのは3人目だが、私が書いたものが削除されるというのは初めてである。
 批判封じの強権発動ともいうべき行動に対して、抗議する意味で、私が神山の何を批判したかを書いておく。このページはフェイスブックの管轄外なので、知らないうちに削除されるということはないだろう。

 私が指摘した問題点は、神山のグローバリズムに対する考えと、「贈与論」。(もとの文章にアクセスできないので、記憶と印象で書いておく。違っているかもしれないが「引用」ができない状態なので、しようがない。フェスブックの神山睦美の文章が読めるひとは確認してみてください。)
 (1)「グローバル企業がもうかると、恩恵が庶民にまで及ぶ」という神山の論は、アベノミクスの「トリクルダウン論」と同じ。実際はそうではなかった、ということが日本で証明された。(アベノミクスの失敗)大企業だけがもうかり、庶民の暮らしはいっこうに良くならなかった。
 (2)グローバリズムが貧富の格差を拡大しても、貧者(グローバル戦略の敗者)は貧者で助け合いの手をさしのべる。(「人間性」が発揮されるので、グローバリズムは問題ないということだろうか。)この相互助け合いを「象徴的贈与論」とかなんとか書いていたが、よく思い出せない。たいへん「美しい話」だが、これは安倍が提唱した「子供のための募金」を思い出させる。「子供食堂」の姿にも似ている。社会保障の問題を庶民が助け合いに求めていいのか、実際に助けようとしているひとがいるから、そのひとの人間性にまかせて政治は何もしなくてもいいのか。グローバリズムの問題点を、そんなふうに「解説」してしまっていいのか。

 これに関連して、
 (3)神山(と、その信奉者)は外国の思想家や日本の文学者の「ことば」を引用して、自説を補強しているが、そういうことで「現実」の問題を語れるのか。
 外国の思想家や文学者のことばを借りてきて論を展開することで、現実に起きている問題を「解説」したと主張できるのは、神山(とその信奉者)が、グローバリズムやアベノミクスの被害者ではないからだろう。グローバル戦略、アベノミクスの恩恵を受けているからだろう。「現実」を無視して、「既成のことば(既成の思想)」で語っているだけだ。
 神山の「贈与論」を、非正規労働者や子供食堂を運営しているひと(利用しているひと)の前で展開できるかどうか疑問に思う。
 神山の信奉者は「読破」ということばをつかっていた。いろいろな「既成の思想」をどれだけ「読破」し、論理を広げることができるか、というようなことを書いていた。
 「読破」ということばに、神山と信奉者の「思想(生き方)」が現われている。非正規労働者や子供食堂を利用するしかないひとは、「既成の思想」を「読破」する余裕などない。いま、目の前にある現実は、どうやって食べていくか、生きていくかである。そういう問題に触れないで、ことばをあやつっても何にもならない。

 私は、神山のような、特権的アカデミズムの論理が嫌いである。怒りを覚える。
 グローバリズムやアベノミクスの「恩恵」を受けている世界に閉じこもって、既成のことばだけで論理の整合性を確立する。
 現実に何が起きているかは無視して、既成のことばへ帰ってゆき、そこで自己を確立するという方法を読むと、とても腹が立つ。
 というような、ことを書いた。それが全部、削除された。

 今後始まる「年金引き下げ」も、「貧者の贈与論」の一種であるとか、いろいろ書きたいことはあるのだが、強権的な言論弾圧にびっくりして忘れてしまった。
 神山が、こんなに「閉鎖的」な書き手とは思いもしなかった。

 グローバリズムや「贈与論」を語るなら、たとえば「集団的自衛権」について語るべきだろうと私は思う。日本がいま置かれている歴史の転換点としての「集団的自衛権」。あるいは戦争法。いま起きている、いちばん大きな変化。憲法に関わる問題である。
 アメリカに日本を守ってもらう(日米安全保障)の見返りに、アメリカ軍の援助をする。アメリカ兵がいけないところへ日本の自衛隊が行って行動する(これは「集団的自衛権」そのものではないが、それに通じる動きである)。それを「贈与論」から語り直すと、どうなるか。
 あるいは日本に駐留する米軍の経済的負担を日本が担う。アメリカ製の兵器もきっとこれまで以上に日本に買わせる。(トランプはTPPには反対しているが、兵器産業のためには、こういう無理を押しつけてくる。兵器産業のグローバリズムは推進している。兵器産業では日本は「競争相手」ではないからである。)これを「贈与論」から語り直すとどうなるか。そこで動く金額を具体的に比較すると、どうなるか。
 さらに「経済徴兵制」もからめて見るべきである。グローバリズムの恩恵を受けることのできない経済的弱者を救済する。給料を払う、さまざまな資格が取れるという「名目」で自衛隊(アメリカならば軍隊)に引き込む。戦場にかりだす。防衛大学の問題もからめて見つめるべきだと思う。
 アメリカと日本で、だれが軍隊(自衛隊)に入隊しているか。そのひとたちの「経済状況」はどうなのか。
 ここにもグローバリズム、アベノミクスが引き起こした問題が反映している。
「既成のことば」へ引きこもるのではなく、現実の中でことばを動かし、ことばの有効性(射程)を考えるべきだと思う。







*

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