詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

12 窓(嵯峨信之を読む)

2018-06-12 10:57:53 | 嵯峨信之/動詞
12 窓(嵯峨信之を読む)

一つの窓をおもいだした
外は恐ろしいような真つ白い空だつた
窓から外を見ていた子供が急に大声で泣きだした
空にゆれている大きな時の鐘を見たのだ

 「おもいだした」「泣きだした」。「だした」という動詞は「出す/出る」。はじまる。止まっているものが、動きはじめる。止めていたものを破って「出る」という感じがする。止まっていた「時」そのものが動きはじめるのかもしれない。
 「空にゆれている大きな時の鐘」は「鐘」ではなく、「時」そのもの。「時」そのものが「鐘」に見えた。「鐘」が来たのではなく「時」が来た。

鐘が鳴りだした
行かねばならぬと次の男たちが立ち去つていつた

 「鳴りだした」とふたたび「出す/出る」という動詞がつかわれる。
 「行かねばならぬ」は「おもいだした」のである。
 行かねばならぬと「おもいだし」、次の男たちが立ち去つていつた。
 そんな具合に「おもいだす」を補うと、「だす」が「鐘が鳴りだした」の「だした」と重なる。鐘の音を合図に「立ち去つた」のだが、「合図」とは「動きを合わせること」である。そして「立ち去る」とは、そこから自分自身を「だす」ことである。
 この詩は「出す/出る」という動詞が中心になって動いている。





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