桐野かおる『盗人』(砂子屋書房、2020年11月05日発行)
桐野かおる『盗人』の「盗人」は「大阪弁風」に書かれている。「風」とことわったのは、私はありま大阪弁になじみがなくて、桐野がほんとうに大阪弁で書いているかどうか判断しかねるからである。
詩集には「車中の人」という詩があって、そこでは大坂から金沢までのことが書かれている。「車中の人」が「事実」を書いているのなら、桐野は石川県で生まれたのだと思う。そして、私は、それを事実であるとある程度「確信」している。「車中の人」の共通語のリズムは、私のことばのリズムに近い。類似性を感じる。私は富山で生まれ育った。石川は隣。リズムが似ている。これは、具体的に説明するのはむずかしいのだけれど。
脱線したが。
しかし、桐野の大阪弁風のことば、完全に大阪弁になっていない部分が(と、私はかってに想像しているのだが)、奇妙におもしろい。どこが完全に大阪弁になっていないかというと、「論理的」なのである。こう書くと、大阪弁を話すひとは「論理的ではない」ということになるが、まあ、そういうことではなくて、大阪弁の人には大阪弁の論理があるのだけれど、それとは違う論理が動いているところがあると思う。
戸締りのいいかげんさを、窓で言ったあと玄関で言い直す。そのときに「二、三時間位やったら大丈夫やろいうて」という「理由」がつけ加わっている。この「しつこさ(論理の念押し)」がちょっと違うなあ、と感じるのである。大阪人なら「二、三時間位やったら大丈夫やろ」の「二、三時間」は共有されている。だから書いてしまう「冷静さ(?)」がなんとなく奇妙だなあという印象を残す。これはもちろん私が大坂の人も大阪弁も知らず、かってに「誤読」していることだけれど。
これは次の部分と比較すると、いっそう印象が強くなる。
「盗人のウチが入る前に盗人が入ってたんと違うかて思う位」という一行に、「盗人が入る」ということばが重なって出てくる。これは大阪弁だと思う。「二、三時間」というような「分析」とは違う。
「ややこしい日常が眼に浮かんできます」という部分が、また「共通語」の「理屈」っぽい。「日常」が理屈っぽいし、「目に浮かぶ」が「論理的」。勝手な想像だが、生粋の大阪人は「目に浮かぶ」というような持って回った言い方はしないだろう。「目に見える」か「見える」だろう、と思うのだ。
で、この「論理」でもって桐野は何を言いたいかということ、それは「弁明」として出てくる。「開き直り」と言ってもいい。まえ、これは大阪人の「図太さ」なのかもしれない。そういうことを表現するために、大阪弁風を装っているというか、大阪弁を借りてきているのかもしれないが、ちょっとね、ほんのちょっとしたことだけれど、ここは「共通語の論理」と感じてしまうところがあって、私は笑えない。あるいは、泣けない。
大坂のひとはどうだろうか。
「溺れる者」は「盗人」の続篇のような感じ。
「そこは極楽なんか地獄なんか」。この一行はいいなあ。「ウチにだけでええからそっと教えてんか/そこは極楽なんか地獄なんか」という「倒置法」がとても効果的だ。「倒置法」というのは「論理」なのだけれど、ここには「技法」というよりも欲望のスピードがある。スピードが論理を追い越していく。そのために、逆に主題が取り残されるようにして最後に浮かびあがる。
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脱線したが。
しかし、桐野の大阪弁風のことば、完全に大阪弁になっていない部分が(と、私はかってに想像しているのだが)、奇妙におもしろい。どこが完全に大阪弁になっていないかというと、「論理的」なのである。こう書くと、大阪弁を話すひとは「論理的ではない」ということになるが、まあ、そういうことではなくて、大阪弁の人には大阪弁の論理があるのだけれど、それとは違う論理が動いているところがあると思う。
昔から盗人猛々しいてよう言いますやろ
そら人のもん盗んだらあきませんわ
それ位の事ウチかてようわかってます
そやけど
盗人に入られる家いうんは大抵決ってます
まず戸締りがええ加減やいう事ですな
窓はもちろんやけど
玄関の鍵かて二、三時間位やったら大丈夫やろいうて
かけてない事ようありますねん
戸締りのいいかげんさを、窓で言ったあと玄関で言い直す。そのときに「二、三時間位やったら大丈夫やろいうて」という「理由」がつけ加わっている。この「しつこさ(論理の念押し)」がちょっと違うなあ、と感じるのである。大阪人なら「二、三時間位やったら大丈夫やろ」の「二、三時間」は共有されている。だから書いてしまう「冷静さ(?)」がなんとなく奇妙だなあという印象を残す。これはもちろん私が大坂の人も大阪弁も知らず、かってに「誤読」していることだけれど。
これは次の部分と比較すると、いっそう印象が強くなる。
ほんでしめしめ思うて家の中入りますやろ
そしたらアンタ
玄関も台所も居間もひっ散らかってて
盗人のウチが入る前に盗人が入ってたんと違うかて思う位
ひっくり返ってますねん
「盗人のウチが入る前に盗人が入ってたんと違うかて思う位」という一行に、「盗人が入る」ということばが重なって出てくる。これは大阪弁だと思う。「二、三時間」というような「分析」とは違う。
こんなんでよう毎日生活してはるなて感心します
(オイ判子どこや通帳どこや
(オイ茶碗どこや箸どこや
(靴下どこやパンツどこや
(オイお前どこや
住んではる人のややこしい日常が眼に浮かんできますやろ
言うて悪いけど
そんなんやから盗人に入られますねん
「ややこしい日常が眼に浮かんできます」という部分が、また「共通語」の「理屈」っぽい。「日常」が理屈っぽいし、「目に浮かぶ」が「論理的」。勝手な想像だが、生粋の大阪人は「目に浮かぶ」というような持って回った言い方はしないだろう。「目に見える」か「見える」だろう、と思うのだ。
で、この「論理」でもって桐野は何を言いたいかということ、それは「弁明」として出てくる。「開き直り」と言ってもいい。まえ、これは大阪人の「図太さ」なのかもしれない。そういうことを表現するために、大阪弁風を装っているというか、大阪弁を借りてきているのかもしれないが、ちょっとね、ほんのちょっとしたことだけれど、ここは「共通語の論理」と感じてしまうところがあって、私は笑えない。あるいは、泣けない。
大坂のひとはどうだろうか。
「溺れる者」は「盗人」の続篇のような感じ。
色恋に溺れたらあかんて
口癖のように言うてたおばちゃんが色恋に溺れてしもた
ほんま人間てわからんもんやな
あんな男に入れあげてて
周りからさんざん言われてたけど
おばちゃんたった一言
他人にわかってもらおなんて思てません
て言うたなり後はダンマリやった
溺れたらあかんいうんは
ウチやのうて自分に向うて言うてはったんやな
溺れたらあかんあかん思いながら溺れていく時の気持ちて
どんなんやろ
わかってもらおなんて思てませんて
そんな薄情な事言わんと
ウチにだけでええからそっと教えてんか
そこは極楽なんか地獄なんか
「そこは極楽なんか地獄なんか」。この一行はいいなあ。「ウチにだけでええからそっと教えてんか/そこは極楽なんか地獄なんか」という「倒置法」がとても効果的だ。「倒置法」というのは「論理」なのだけれど、ここには「技法」というよりも欲望のスピードがある。スピードが論理を追い越していく。そのために、逆に主題が取り残されるようにして最後に浮かびあがる。
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