詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(7)

2020-11-20 09:51:42 | アルメ時代


高橋睦郎『深きより』(7)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「七  勝利したのは」は「菅原道真」。

 菅原道真を滅ぼしたのは誰か。これを菅原道真自身に語らせている。「六 事実か真実か」についても言えることだが、ことばが「論理」を追いかけ始めると、肉体が動かなくなる。ことばのなかから「万葉集」が持っていた力が消え、「古今集/新古今集」を支配する頭の力が動き出す。高橋はもともと「万葉集」というよりも「古今集/新古今集」をひきつぐ詩人だと私は思っているが、この作品にはその特徴があらわれている。
 道真を滅ぼした「真犯人はかく申すわたしく自身」と書いたあとで、ことばは、こう展開する。

詩は志といふ などと騙るとつ国の世迷ひ言を受け売り
詩心こそ政りごとの心と信じた いや 信じるふりをした
わたくしに外ならぬ ではわたくしはそもそも何を望んだのか
全き詩人であること そのためには世間的に全き敗残者になること

 ここでは「詩」と「政治」が対極にあるという認識が書かれている。「詩心は政治である」と「信じるふりをした」。このとき「政治」とは「権力(者)」であり、「勝者」である。それは「敗残者」ということばと対比される形で書かれている。そして、この対比のなかで「詩=敗残(者)」という定義が生まれる。
 だが「敗残者」は「敗残者」ということばとともに生き残る。「被害者」として生きつづける。注目を浴びるのは、加害者よりも被害者であることが多い。それは「世間」は被害者で満ちているからだ。「政治」の権力を握る人間よりも、権力者になれない人間の方が多いから、どうしても「敗残者」が世間のこころを引きつけるのだ。世間は自分に似た存在に共鳴するのだ。「勝者」たちは「敵」という汚名にまみれる。

それでも足りず 千百年ののちの現在もなほ わが詩篇は
いやさらに新しく 受難の光を放射しつづける 眩しく 痛ましく

 「受難の光」。これは「青春の輝き」でもある。敗北を「受難」と正当化するするとき、そこに「精神性」が忍び込む。そして「抒情」が生まれる。しかし、この「誕生」を促すのは「肉体」ではなく「精神(頭)」である。
 「肉体」は滅んでも「精神=詩=ことば」は滅びない。それはそうなのかもしれないが、私は、このときの「生き残る」という動きのなかに「肉体」の動きが重ならないものを信じたくない。そういうものは、道真の認識ではなく、「他者」の捏造した「後出しじゃんけん」のようなものである。





                



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