詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(11)

2020-11-27 10:49:02 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(11)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十一 泉を怖れよ」は「和泉式部」。

まだ恋も知らぬわたくしを 歌が訪れたのは 闇の中
それとも 歌そのものが纏つた闇 だつたろうか
いいえ もともとわたくし自身が耐へがたい闇の渦巻で
その暗い渦の力が 抗ひがたく吸い寄せた歌 ではなかつたか

 この書き出しは「紫式部」について書いた「十 わたくしではない」に似ている。「わたくし」ではないものが「わたくし」のところへやってくる。紫式部はその結果「わたくしではない」ものになる。和泉式部は「わたくし」のまま、歌はやってきたのではなく呼び寄せたもの、というところが違うが。
 そして、この「わたくし」を和泉式部は「闇の渦巻」「黒い渦の力」と呼んでいる。この「闇」「渦」は、こう言い直される。

それならば わたくしの竟の居場所は ほかならぬ恋の闇
さう思ひ定めて 渦巻く 闇の底に 立て膝に座を決めた

 「闇の底」。「底」ということばが出てくる。「底」は、しかし、「行き止まり」ではない。「底を打つ」ということばがあるが、そういう「底」とはかなり違う。
 有名な歌の一部を引いて、高橋は、こう言い直す。

つぎつぎに わが身よりあくがれ出る 歌の蛍火
点滅する火虫を産みつづける 闇の泉こそが わたくし

 「底」から、何かが溢れ出る。噴出してくる。「泉」というのはたいてい「底」から水を噴き出している。「闇の泉」は水ではなく「あくがれ」を噴出する。それは蛍になってどこへともなく消えていく。
 この噴出(出る)を「出る」にまかせるのではなく、和泉式部は「産む」のである。

 この「産む」をキーワードとして読むならば、高橋は「詩を産む」。自分以外の誰かになることで、詩を産む。詩は生まれてくるものであるだけではなく、また、産むものなのである。
 冒頭の一行にもどって言えば、詩(歌)は訪れてくるのではない。「わたくし(和泉式部)」が産み出したものが呼び寄せるのだから、その訪れそのものも「産む」と言える。つまり、和泉式部を訪れることで、「産み直される」ものなのだ。
 詩はいつでも「産み直されるもの」と言い直せば、それはそのまま、この詩集の定義になるかもしれない。










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「東京」の意味は?

2020-11-27 08:39:02 | 自民党憲法改正草案を読む
「東京」の意味は?(ニュースは最後まで読もう)(情報の読み方)

 2020年11月27日の読売新聞(西部版・14版)の1面。「桜を見る会前夜祭」の続報。

秘書供述「記載必要だった」/「桜」前夜祭補填分 安倍氏側収支報告

 安倍晋三前首相(66)側が主催した「桜を見る会」の前夜祭を巡り、安倍氏の公設第1秘書が東京地検特捜部の事情聴取に対し、費用の一部を補填したことを認めた上で、「補填した分は政治資金収支報告書に記載しなければならないとわかっていた」と供述したことが関係者の話でわかった。主催した政治団体の報告書には補填分の記載はなく、特捜部は政治資金規正法に違反する疑いがあるとみている。

 「政治資金規正法」に違反することがわかっていて、記載しなかった、と供述したという部分が「特ダネ」なのだと思う。だから「記載しなかった」ではなく、「記載しなければならないとわかっていた」という「供述」を前文にとっているのだろう。見出しの「必要だった」は必要性を認識していたということを強調している。
 ここから、責任はあくまで秘書にある、というところへ「事件」がむかっていることがわかる。安倍は無関係。あくまで秘書がやったこと、ですませるつもりなのだろう。「違反」も「政治資金規正法」が対象であって、「公選法」を含まない。
 こんな見方はよくないのだが、これはいつものパターン。また、これで逃げるのか、というのかと思ってしまうが……。
 読売新聞の記事で注目したのが、最後の部分。(番号は、わたしがつけた。)

①公設第1秘書は10月頃から特捜部の任意の聴取に応じ、当初は「補填分の会計処理は東京に任せていた」などと説明していたが、
②「後援会の収支報告書に記載すべきだった」との供述を始めた。
③また「書かないことが慣例となっていた」とも話しているという。

①の「東京」とは具体的には何を指すのか。あるいは誰を指すのか。「公設第1秘書」の仕事を、記事中には「公設第1秘書は安倍氏の地元の「金庫番」として、後援会を含めた複数の政治団体の会計処理を実質的に担当」と書いている。「地元の金庫番」。それなのに「東京に任せていた」。どうしたって「東京」は知っていたということになる。
②は供述を翻したのかどうか、判断がむずかしい。「変化」したことだけはたしかだ。東京に処理を任せていたのだから、東京が何かをすべきなのにしなかった。その結果、「(地元の)後援会の収支報告書」の記載が必然的に漏れてしまった、ということなのか。(後援会というのが、地元の外にあるのかどうか知らない。)
③の「慣例」と重要だ。一回の「記載漏れ」なら気づかない、見落としたということがあるかもしれないが、「慣例」になっているなら誰かが気づくのではないか。あるいは「慣例」ならば、そのことは当然報告されているのではないか。
 ほんとうのニュースは「見だし」にとっている部分ではなく、見出しにとっていない最後の部分にあるのではないだろうか。「東京」と「公設第1秘書(地元)」の「やりとり」にあるのではないだろうか。「公設第1秘書/地元の金庫番」から「東京」ということばを引き出したこと、それを記事にしていることにあるのではないか。
 さらに。
 問題は「公設第1秘書」が「東京に任せていた」という記事は直接つたえず、それを翻して(?)、「後援会の収支報告書に記載すべきだった」と「東京隠し」をしはじめた段階で報道する、という姿勢にある。
 もちろん「東京に任せていた」は、この段階で初めて入手した情報なのかもしれないが、それにしても、この見出しと記事の書き方では印象が、やはり秘書が悪いのだということろに落ち着いてしまう。
 書き方次第では、「見出し」はこうなる。

「桜補填、処理は東京任せ」/秘書供述、記載必要と認識

 悪いのは「東京」という感じになるでしょ?
 ひそかに書かれている「時系列」にしたがって、つまり「時系列」を中心に事件をとらえ直せば、そういうことになるでしょ?
 私の読み方(見出しのつけ方)が事実を隠蔽しているのか、読売新聞の見出しのつけ方が事実を正確につたえているか。「ことば」はいつでも「事実」をつたえるけれど、同時に何かを隠すものでもあるという認識で、「報道」を読むべきだと思う。
 読売新聞のおもしろいところは、ときどき、「隠しているもの」を書いてしまうところ。今回の記事も「当初は「補填分の会計処理は東京に任せていた」などと説明していた」はなくてもニュースとして成立する。実際、前文にはそれが省略されている。でも、ついつい書いてしまう。「忖度」しているふりをしながら、秘密を暴いている?








#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



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「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



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